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93.お茶会はいかが?

 本当は小屋の様子を見に行こうと思っていたのだが、ホメロンにカブトムシと出かけると言った手前、出かけないわけにはいかず狩に出たんだ。

 といっても、街から戻ってきたばかりで在庫は満載である。

 近場で釣りでもして早めに戻るかなと思ってたのだけど、ふと思い立ったようにとある場所に来てしまった。

 素の状態なら近寄りたくない場所だが、今の俺なら大丈夫。魔法の効果で悪寒がしなくなったからね。

 そう、ふらりと寄ったのは東の渓谷だ。高ランク冒険者でも近寄らない魔窟である。

 こんなところに何も持たずに来ることができるのはすみよんくらいのものだ。

 東の渓谷の主ことアリアドネとすみよんはお友達らしいので、彼は東の渓谷に入っても襲われることはない。

 俺も彼女とお友達になりお茶会に誘われた仲なので安全なのである。


「お邪魔しまーす」

「あら、エリックじゃない。訪ねてきてくれるなんて嬉しいわ」


 渓谷の入り口に立った途端に背後の気配にゾワリとしたので、挨拶をしてみた。

 すると、ギギギギと歯を鳴らしたアリアドネが迎えてくれる。


「この前頂いたコーヒーキノコ。あの黒い飲み物を分けてもらえないかなと思って」

「いいわよ」

「代わりと言っては何だけど、納豆をもってきたよ」

「あら、ありがとう。せっかく来てくれたんだしお茶していく?」


 そんなわけで、谷の中腹にあるアリアドネの巣に招かれたのだった。

 コーヒーの香りを思い出し、また飲みたくなってさ。この前アリアドネからおすそ分けされたコーヒーキノコは既に飲み切ってしまった。

 何を隠そう前世の俺は毎日コーヒーを二杯は飲むほどのコーヒー好きで、漂ってくるコーヒーの香りも大好きだったんだ。

 コーヒーキノコはキノコなのにコーヒー豆の香りがするし、コーヒーそのものと言っても差し障りのないほど。

 

「あら、この白いものは何かしら」

「それは豆腐なのだけど、あともう一つこんなのも」


 彼女に連れられアリアドネの巣に到着するなり、懐から取り出した小瓶をコトンと慎重に石のテーブルへ置く。石だから瓶が割れないように注意しなきゃな。ジャジャーンとばかりに勢いよく置いたら割れる。なので慎重に置いたのだ。

 瓶には琥珀色の細かく切った野菜のようなものが入っていた。

 小瓶を取りしげしげと下から見上げるアリアドネであったが、他のところが気になる。

 頭の触角? のようなものがわさわさ動いてて、アレで何かを感じ取っているのかも。


「キノコね。何か加工してあるようだけど、あまり好みのキノコじゃないわ。味があまりしないから。食感は嫌いじゃないのだけど」

「おお、すぐに分かるとは」

「少しだけ育ててるわ。食べる用じゃなくコレクションね」

「腐らせるだけのものがあったら分けてくれないかな。もし気に入ってくれたら同じものを作ってくるから」

「へえ、食べる用なのね。アナタならまあそうか。アナタの作る食べ物は美味しいわ」


 口が耳まで裂け、喉奥をギギギと鳴らすアリアドネ。

 彼女はさっそく瓶を開け、細く長い舌先を伸ばす。

 彼女は明らかに魔物に位置する人物であるが、人間じゃないからと言って対応を変えるつもりは毛頭ない。当初こそ、俺が脆弱な人間だったため怖気が激しかったが、そこはまあ仕方ないだろ。

 人間と同じように言葉が通じ、敵対的な相手でなければ誰でも会話を試みるつもりだ。

 人間と違う種族ならば当然味に関しても異なる。ちゃんと味見をしてきたものの、彼女の口に合うかどうかは未知数だ。

 さて、アリアドネの反応はいかに。


「へえ。悪くないわね。納豆パスタのパスタについている味に似ているわ」

「味をつけたらなかなか悪くないだろ」


 琥珀色のキノコはえのきだけを刻んで醤油と水あめに味噌を少々入れて煮込んだものである。

 なめたけもどきとでも表現したらいいだろうか。

 実のところみりんを混ぜたかったのだが、鋭意制作中でまだ満足したものが作れていない。

 それでも味としては満足できるものだったから今回持ってきたんだよね。アリアドネはキノコなら気にいってくれるかもと思って。

 見た所、彼女の反応は上々である。


「そうね。パスタに混ぜてみようかしら」

「パスタも持ってきている。作ろうか」


 と言ったものの、キッチンはあるのだろうか。

 この前招かれた時には奥のキノコ畑を見せてもらったものの、アリアドネが「お茶」を準備してきた場所は確認していない。

 聞こうかと思った矢先、彼女は思ってもみないことを口にする。


「あら、あなたのビートルはブルーよね」

「そうだけど、突然どうしたんだ?」

「あなたの料理って火を使うのよね。でも、特性に火の素養がないように見えるのだけど、どうやるの?」

「確かに火の魔法は使えないけど、火を起こすくらいなら」

「ニンゲンは色んな道具を使うのだったわ。だったら平気ね」

「お茶を淹れてくれたのは魔法で湯を作っていたの?」

「そうよ。ここにはニンゲンが料理をするようなところはないわ」


 何もなくとも鍋と携帯燃料に加え砥石も持っているから、特段困らない。

 狩の時はいつも野外で料理して食べているわけだし。部屋の中で火を使って大丈夫なのだろうか?

 それより、彼女の「ビートルはブルー」という言葉が気になる。

 気になったら他に手が付かないのが俺ってものだ。さっそく聞いてみることにしよう。


「ビートルがブルーって他の色もあるの?」

「あなたが使役しているのよね? 知らずに使役していたの?」

「すみよんが捕まえてきてくれてさ。詳しくは知らないんだ」

「あなたにはブルーが一番だと思うけど」

「他にどんなビートルがいるのかな?」

「そうね」

 

 口元に指先を当て、背中の蜘蛛の脚を動かしながらアリアドネがビートルの色について語り始める。

 まず俺が騎乗しているカブトムシはジャイアントビートルと言って、色は青だ。青はコンテナを持ち、荷物を運ぶのに便利という特徴を持つ。

 次にアリアドネが色を確認した理由となったオレンジ色のカブトムシについて紹介してくれた。

 こいつは炉を持つ。フライパンを乗せたらコンロになるって寸法だ。なるほど、それはそれで便利だな。

 他にも緑色と紫色のカブトムシもいるんだそうだ。

 緑色は騎乗者と共に周囲の風景に溶け込み姿を消してくれる能力を持つ。なんと、匂いまで遮断してくれるそうなので、完全な隠遁が可能になる。

 最後の紫色は唯一戦闘ができるカブトムシで、毒ブレスと強烈な酸攻撃で敵を殲滅することができるんだってさ。

 何て恐ろしいカブトムシなんだ……。

 すみよんが青を譲渡してくれて本当に良かった。

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