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28.飲むと人が変わる人っているよね

「はじめまして。私はスフィア。この度はとんだご迷惑をおかけしました」

「分かってくれればそれでいいんだ。この民宿『月見草』を経営するエリックだ」


 正座して三つ指を立て深々と謝罪する酔っ払い狸耳ことスフィア。

 この姿からは先ほどまでのだらしない酔っ払いの面影はない。

 さりげなく「はじめまして」とか言ってるけど、酔っ払っていた時のことは覚えているんだろうか?

 彼女は今回盗みに入った経緯と反省を述べ始めた。


「飲んだことのないお酒を感知して。それで、場所もそんなに遠くないし。居ても立っても居られず……つい、口をつけてしまったの」

「魔法で酒を感知することができるの?」

「ええ。100キロ以内であればハッキリと場所を知ることができるわ」

「さすが、赤の魔導士。酒瓶なんて小さな物を100キロ範囲で感知できるなんて、魔法の常識を超える」

「え。エリックさん。私が赤の魔導士ってどうしてわかったの? 私。あなたと会ったことがあったかしら」

「さっき。自分で……」


 形の良い顎に指を付け、先ほどあった惨劇を思い出そうとしているスフィア。

 やっぱり全部記憶が飛んでいたんだな……。忘れているなら忘れていた方が俺にとっても彼女にとっても、ついでにマリーにとっても良い。

 しかし、俺の想い虚しく、やはり彼女は無駄に高スペックだった。

 思い出したのか、かああと彼女の頬が赤くなり目が泳ぐ。


「わ、私。何てことを。飲む時は必ず一人でって決めていたの。今回だってここの家主から酒瓶を買い取ろうと思っていたんだけど、初めて見るお酒の誘惑に負けて……」

「い、いや。もう済んだことだ。次から気を付けて……」

「あなたの貴重なお酒を飲んだばかりか、はしたないことまで。ご、ごめんなさい!」

「お詫びにポロリとかは止めてくれよ」

「そ、そんなことしないわ! 酔っ払った時の私は酷いって自分でも知っているの。酔っ払っている最中は記憶が無くて、後から思い出そうとすれば思い出せるの」


 酒は飲んでも飲まれるな。人の振り見て我が振り直せ。

 この教訓がこれほど身に染みたのは今この時が初めてである。

 テレーズも酒癖が酷いけど、ここまでじゃない。


「赤の魔導士様はありとあらゆる酒を飲んだことがあると?」

「その呼び名は恥ずかしいわ。スフィアと呼んでもらっていい?」


 自分で名乗ってただろうが。二つ名が恥ずかしいとは。素のスフィアとは気が合うかもしれない。

 酔っ払いのスフィアはご免被るけどね。

 

「スフィアさん。スフィア。どっちでもいいのかな」

「どっちでもいいわ。お酒のことだったわよね。近隣の街にあるお酒で私に知らないものはない……はずよ。あなたが所蔵していたような新しいお酒以外はね」

「ある意味良い情報を得たよ。芋焼酎を出す店が無いってことだよな。うちの宿に来れば芋焼酎が飲めるとなれば、アピールに使える」

「芋焼酎って言うの? ねね。どうやって作るの?」

「作り方は……いや」

「私が芋焼酎で商売をしようとしていることを警戒している? それはないわ。飲んでしまったお詫びに芋焼酎を私の魔法で作ろうと思って」

「魔法で酒を造る? 聞いたことも無い。そもそも酒は熟成させるのに時間がかかるんだ」

「そこよ。その熟成を魔法で瞬時に行うことができるの」

「マ、マジかよ。そうだ。スフィア。もう一つか二つ、別の酒のレシピも俺の頭の中にある。そこで頼みと言ってはなんだが……」


 この酒好きを廃村に住んでもらって、酒の供給をしてもらいたい。

 いや、住んでもらう必要もないのか。一瞬で熟成が完了するなら、準備してえいやで酒が完成する。

 何としてもこの人材、離すものか。俺専属の酒蔵の主になってもらいたい。

 材料の調達は全て俺が行う。彼女には酒瓶いくつかと報酬を渡せば……。

 

「楽しそう! お詫びも兼ねて協力させてもらうわ。ついでと言っては何だけど、しばらくここに住んでもいいかしら?」

「ここって? この宿に?」

「宿のお部屋を占領しちゃったら、あなたが商売にならないでしょ。隣に住処を作ってもいい?」

「もちろんだよ。歓迎するよ」


 とんとん拍子に進んで怖い位だ。

 しかしここに来て、俺は大きなミスをしていたことに気が付く。

 それは――。

 

「ごめん。マリー。勝手に話をしてしまって」

「い、いえ! スフィア様がいらっしゃれば大助かり、ですよね!」


 そう。マリーの意見を全く聞いていなかった。

 焦ったように言葉を返す彼女は、俺と目が合うと真っ赤になって視線を逸らす。

 

「マリーさん。酔った勢いであなたの恋人に粗相を……すいません」

「い、いえ。そんな。そういう関係では……」


 察したスフィアが平謝りするも彼女は両手と尻尾をパタパタさせて首を振るばかり。

 落ち着いたところでもう一度、彼女に率直な意見を聞いてみよう。


「酒蔵兼住居を作ってくるわ。また後でね。マリーさん。もう少し、エリックさんとのこと聞かせてね」

「は、はいい」


 いたずらっぽく片目を閉じる赤毛の狸耳は、絶対この状況を楽しんでいる。

 そもそも彼女が侵入しなきゃ、こんなことになっていないってのに。後始末も含めてフォローしてくれよお。

 一応、謝罪はしたのか。何だかモヤッとするぞ。

 

「まずは朝ごはんにしようか。少し時間がかかってもいいかな?」

「はい! あ。エリックさん! スフィア様のことですっかりお伝えし忘れてました!」

「米のことかな?」

「エリックさんのお部屋もですか!?」

「スフィアだとは思えないし、一体誰が……あ、ひょっとして」


 俺の部屋だけじゃなくマリーの部屋も精米済みだったとは。

 スフィアは飲んだくれていただけ、ワオキツネザルのすみよんは自分じゃないと言ってた。

 となると、自ずと答えは絞られてくる。

 

「マリーは米を移し替えてもらえるか? 俺はその間に朝ごはんを作るよ」

「承知しました!」


 精米のお礼もしなきゃな。

 今日の朝ごはんはもちろん米を使うぞ!

 朝だから朝らしい和食にしよう。

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