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ある小説の形態
序章
何度も思案を巡らすが、私には小説の全容を書き切る事が出来ない――そう結論付けた男は、布団の上に寝転がり、ボンヤリと天井を眺めていた。
物語の核心に迫るアイデアは無数にあるのだ。このアイデアさえ有れば私にも作家としての道が開かれると思うのだが――何と歯痒い事か。
そんな事を考えながら、右に左にと寝返りを打った。
男はいつしか眠ってしまった。浅い眠り――夢うつつ。
瞼は閉じられているが、男の眼球がキョロキョロと動く。カラフルな夢なのか、白黒の夢なのかは判らないが、男の頭の中でバラバラな無数の文字が飛び交い、やがてそれは列をなし大蛇の様な形を作り上げた。その大蛇が男の悩みを喰らい尽くしているかの様にのたうち回ると、そのまま消えて無くなった。
やがて男は目を覚ました。そして無言で起きあがり、机に向かった。