初陣8
夜遅く迄部隊の編成に取りかかっていたために疲れが体全体にのし掛かっている。
夜が明けて眼前には何の変わりもなく公国の名将ウォールブ・アンゼルフの防御陣が聳え立っている。被害は少ないだろう。此方は彼方の陣の内に一兵も入れなかったのだ。
1万の手勢も半分以上が負傷した。ウェズリー将軍の7000も半分以上が負傷し、2000の兵が死んだようだ。こうなっては睨み合いに終始して隣の戦場に行かれないようにするしかないだろう。
後方に廻っていたブランゼン将軍もやられたとみるしかないだろう。そこからの半包囲の動き、此方の動きが見切られていた。公子かアンゼルフ将軍か知らないが見事な戦振りだ。
前方に物見に出していた斥候が帰ってきた。いやに慌てている様子に嫌な予感しかしない。目の前に駆け込んできた。
「ご報告!ブランゼン将軍並びに後方に廻った別動隊の方々が敵陣の柵に拘束されております!!」
その報告に急ぎ立ち上がり前方に駆けた。
前方に布陣していた兵がざわついている。どうやら本当のようだと思いながら前を塞ぐ兵を退けながら前方に出る。
「ぐ~~~。真であったか!」
唸り声が出ていた。敵は絶妙な一手を打ってきた。助けなければ味方の士気は下がる。しかし、あの陣を攻めながら助けるのにどれだけの損害が出るか容易に想像ができ、天を仰いだ。
十中八九罠だが助けなければいけない固く目を閉じ心を定めた。
目を開くとウェズリー将軍が此方に向かってくるのが見えた。小さく息を吐いて此方からも近づいた。
「カンサム将軍、救援に向かいます。援護願えますな」
焦りと怒りと屈辱が顔に出ているのが分かった。上官が晒し者にされているのだ。至極当然と思いながら前を見て頷いた。
「両翼からの攻撃は私の部隊で防ぐ故に貴殿は救助を頼む。よろしいな」
ウェズリー将軍は頷き踵を返した。準備に向かうようだ。
大きな溜め息が漏れた。大敗が確定したことが分かったからだ。
心の暗雲とは裏腹の好天な空を見て少しでも気分が晴れる事を期待したが何も効果がないみたいだ。