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隔離された島で忌まわしき者達に育てられた俺は本土では割と強いようです。  作者: シニスター
〜第一部〜始まりの地・流刑島
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戦勝祭と誕生日祭

 三ヶ月が経った。あれからずっと治療薬でテューリィの足首を療してはいるが、一向に治る気配が無い。

 俺はテューリィのつま先を掴んで足関節を屈曲させたり進展させたりするがテューリィの足は抵抗もなく俺になされるがままだ。


「お手を煩わせてしまって申し訳ありません・・・。」


「いいんだよ。これくらい。」


 テューリィは車椅子に座りながら申し訳なさそうな顔をする。


「ゲルマ様はお優しすぎます・・・。」


 テューリィはつぶやくようにそう言った。

 俺はそのまま服をテューリィに着せていく。ここ三ヶ月俺が毎日着替えさせてきたのだ。こんなのお手のものだ。


「今日は修行ですか?」


「いや、街に行こうと思う。君にずっと俺のお下がりを着せるのはちょっと申し訳ないからね。それに。」


 ぶかぶかのシャツの隙間からたまに見えてしまうのだ。俺とて思春期。もちろん意識しないわけではない。断じて(よこしま)な感情を抱いているわけではない。筈だ。


 テューリィは俺の目線に気がついたのか顔を耳まで赤くした。


「ゲルマ様はエッチですッ・・・!」


 俺も恥ずかしくなってテューリィから視線を背けて頬を掻いてしまう。


「ま、まあともかく。そのままではいけないだろう。」


「た、確かにそうですね。」


 俺はテューリィの車椅子に手をかける。


「じゃあ、行こうか。」


「ええ。ゲルマ様。」



ー ー ー



 俺たちは街の中央広場へとやってきた。


「わあ、凄いです!こんなに栄えてるなんて思いもしませんでした!」


 あたりを見渡すと沢山の屋台が立ち並んでいる。それもその筈。今日は年に一度のみんなの誕生日だ。

 1000年以上も行われている祭りはいつ見ても圧巻だ。


 特に今年は去年と違って。


ーーブウウンッ!


 俺達の頭の上を大きな羽音が通過する。

 見上げると、黄色化した大蜻蛉が木箱を運んでいた。

 すると後ろから声をかけられた。


「ゲルマちゃんじゃないか。アンタのおかげで今年の祭りは大助かりさね!」


「どうも。アンゼリーナさん。」


 また別方向から。


「おお!英雄ゲルマのお出ましじゃ!」


 それにつられて周りが騒がしくなる。


「お礼にもならんがどうかこの串焼きを!」


「いんや。この甘い飴を!」


「では搾りたてのこのジュースをどうじゃ!」


 もう辺りはてんやわんやでおしくらまんじゅう状態だ。


「皆さん!ありがとうございます!全部有り難く頂きます!!」


 俺は予め用意していた袋に一人一人の貢ぎ物を詰め込んでいく。


 俺がこの街で異質な存在なのか毎年祭りに来るたびにこんな感じだ。それに今年は戦争の影響で前よりも人が集まってきていた。


「そんじゃ。楽しんでいくんじゃぞ!」


 最後の一人から果物を受け取った俺はそれを袋に詰める。


「ゲルマ様は人気者なのですね。」


「そりゃこの街唯一の子供だからな。孫みたいなものだろう。」


「私は人間の村では他の人々に恐れられておりました・・・。関わってはならない。関わると首を刎ねられると。」


 テューリィは俺の手を握る。


「だから今は幸せです。ゲルマ様が本物の私と話してくださるのですから。」


 俺は気恥ずかしくなり、無言で車椅子を押す。


「うふふ。可愛らしいですね。」


 店に向かう間テューリィはくすくすと笑っていた。



ー ー ー



 俺は店の扉を開けて中に入る。

 店の中に陳列された慎ましくも華やかな衣装が目に入る。しかし店の中はその華やかさとは対照的に静まり返っていた、


「お、ゲー坊じゃないか。」


 店の奥から歩いてきたのはまだ40代に見える美しい女性だった。しかしその女が忌まわしき民なのは肌の色が物語っていた。


「お久しぶりですラーヤさん。今日は・・・。」


「おや!可愛らしい子じゃないか!遂にやってきたんだね!この"ラーヤの可憐な洋服店"に!」


 相変わらず酷い名前の店だ。


「どうもこんにちは。テューリィと申します。今日はよろしくお願い致します。」


 車椅子に座りながらもテューリィは礼儀正しくお辞儀をする。


「あら!可愛いわ!今最高にいいアイデアを思い浮かんだわ!!」


 ラーヤさんは俺から車椅子のハンドルをひったくる。


「ここら先は女の世界よ。男の子は待っててね♪」


 そのままラーヤさんは車椅子を押して店の奥へと行ってしまった。


 ラーヤさんはどうやら忌まわしき民達の中でも異質な存在らしい。まず見た目で分かる通り他の人々と違って若々しい見た目をしている。それに噂だが卑術とは違う水泡術という技を使うらしい。ただ本人曰く美しい女性にしか使わせたくないという身勝手な理由で弟子を取っていない為、俺はその技を見たことがない。


(テューリィならばな。)


 俺はそう思いながら店の中を見回す。

 飾られている服を眺める。空色を基調とした生地にフリルがついたワンピース。白をベースに黒いラインが入ったセクシーで大人なドレス。紫色の際どいガーターベルト付きのパンツ。次々に頭の中でテューリィに着せていく。

 これらの服ならばテューリィの美しいプラチナブロンドに似合うだろう。色々と。


「こらっ。妄想坊主。」


 後ろから割と強めの力で引っ叩かれる。


「痛いなぁ。ラーヤさん。」


 するとパンパンに膨れ上がった袋を手渡される。


「これ。全部あげるわ。サイズはぴったりだし、これから成長するだろうからちょっと大きめのサイズも入れておいたわ。」


「えっ。こんなに貰ってもいいんですか?」


勿論無料(タダ)じゃないわ。」


「うーん。こんな量だと俺にも払えるかどうか・・・。」


 ラーヤさんは髪をかき上げた。


「ゲー坊。テューリィちゃんを私の弟子として迎え入れたいの。」


 まさかの驚愕発言。


「勿論悪いようにはしないわ。彼女が抱えている障害も重々承知してるわ。私はね。彼女のような美しい子が傷ついているのを見逃せないわ。」


 いつもの彼女とは違う神妙な面持ちだった。それはまるでじいちゃんが俺を鍛えてくれると言ったその日の顔のような。


「彼女だってゲー坊にずっと護られるのを望んではいないわ。」


「そうですね・・・。彼女は何と?」


「勿論承諾済みよ。」


「そうですか。なら俺がとやかくいう筋合いはありません。彼女が自分の意思で選んだんですから。」


 ラーヤさんは微笑むと俺の頭を撫でる。


「あなたも大人になったわね。もうゲー坊なんて呼べないのかしら。」


「俺はいつまでもラーヤさんのゲー坊ですよ。」


「あら、口説こうったって無駄よ!その口説き文句はまだまだお子様ね。」


 ラーヤさんはいつもの顔に戻っていた。


「ゲルマ様。」


 店の奥からテューリィが来る。


「どう、ですか?」


 令嬢のドレスのような服を着たテューリィの姿を見て息を呑む。


「すごく、綺麗だよ。」


 俺はそれを見つめながら呟くように言った。


「そ、そんな見つめないでください。恥ずかしいです・・・。」


「ごっ、ごめん。でも本当に綺麗だなって。」


「そうですか。嬉しいです。」


 横からラーヤさんが肘でこづいてくる。


「私を口説いた後に見せつけてくれるじゃないか。」


「まあっ!ゲルマ様がラーヤ様のことを?」


「いやそれは誤解で!!」


「ん?ゲー坊は私のせいにしようっていうのかな?」


「いや!その!」


「うふふ。ゲルマ様ったら真っ赤になってしまわれて。」


 俺は恥ずかしくなってその場で俯くしかなかった。



ー ー ー



ー翌日ー


 祭りは成功に終わったようだった。広場にはまだ祭りで飲み明かした男たちが横になっていたり、朝早くから片付けをしている人たちがいた。


 あの後俺達はラーヤさんの店に泊めさせて貰った。


 そして朝早くから修行の為にラーヤさんはテューリィを連れて何処かへと出かけて行ってしまった。


 俺はといえば早朝から散歩をしている。


 朝の香りはなんというか気持ちがいい。まだ日が昇っていない為にひんやりとした空気が鼻腔を通り抜ける。この瞬間が好きだ。

 俺はポケットから酸を取り出して栓を抜きそのまま飲み干す。喉を強烈な痛みが襲うが。最近は少し唸るだけで痛みに堪えることが出来るようになっていた。


 俺は右手から瘴炎を出す。すると一匹の大蜻蛉が飛んできた。俺は背中に跨るとそのまま上に飛ぶよう指示をする。


 上空から街を見下ろす。小さくも大きくもない俺が愛する街。人々。だからこそ俺は旅に出なければならない。


 護るために。卑術を極める為に。

 

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