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隔離された島で忌まわしき者達に育てられた俺は本土では割と強いようです。  作者: シニスター
〜第一部〜始まりの地・流刑島
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新しい王と力

 戦場に伝令が来たのは俺たちが勝ってからまだそんなに時間が経っていない頃だった。


『王が死んだ。』


 と、その伝令から伝えられたあまりにも悲しい伝令はすぐ様味方たちに広まった。

 そしてそれが怒りに変わっていく。それはガルダン爺さんも例外じゃ無かった。


「仇を討つぞッ!!俺に続けぇ!!」


 爺さんに続いて俺たちもさっき敵がいた方へと走る。

 俺の心の中を代弁してくれているのか先程まで晴れていたそらは雲に包まれてポツポツと雨が降ってきていた。そして、すぐに強い雨へと変わっていき土砂降りになる。


 泥はより足元に絡みつくが皆んな何度転んでもすぐに立ち上がり走り出す。


 そして辿り着いたのは焦げ茶色の大きなクレーターだった。


「じいちゃん・・・。」


 無意識にそう呟いてしまった。

 俺はふらついた足取りでクレーターの真ん中へと向かう。するとその中心部分にキラキラと光るものがあった。

 俺は急いで駆け寄りその輝くものも掘り出す。それは黄紫色に光る蝕炎石だった。


 俺はそれを握った。その瞬間手のひらが光る。


 俺の手のひらから光が溢れ、そこから黄紫色に光るじいちゃんが形作られた。それは薄く透けている。


「ゲルマよ。我が息子。ワシの選択を責めんでくれ。」


「じいちゃんっ!」


 俺の涙が頬を伝う。


「こらこら、泣くでないわ。この姿にも時間制限があるんじゃ。」


 俺は袖で涙を拭う。


「ワシの書斎。そこに『黄衣の王』といういう本がある。それを引くと隠し扉が開く。そこに卑術の知識が沢山ある。それが助けとなろう。」


「分かった。」


「後、その石は我が師の物とは別のものよ。飲み込めばワシでさえ知り得なかった技が使えるやもしれん。その力も使うのじゃ。」


「ああ。分かった。俺、立派な卑術師になるよ!」


「よう言った。我が息子よ。では、あの世で先に待っているとしよう。お前は人間じゃからすぐ会えるだろう楽しみに待っておるぞ!」


 じいちゃんはそのまま俺の手の中にある蝕炎石の中に吸い込まれる様に消えて行った。


 俺は迷わずその石を飲み込む。


 身体中に暖かさが広がる。どうやら成功のようだ。


 俺は手のひらを広げる。そして毒炎とは別の新しい感覚を意識する。すると手のひらには黄紫色の炎が出ていた。芯は黄色で末端に行くにつれて紫色になっていく。それは何やらクッキーを焼いた様な香ばしく甘い香りがした。


 するとまだ焼け残っている森から黒い影が現れる。よく見ると巨大な蟲達だった。蠍蜻蛉や、大白色蟻などが歩いてくる。後ろの兵士たちも気づいた様で大声を上げる。


 俺はショーテルを抜いて、左手の炎を盾代わりにして前に出し、そのまま構える。

 蟲達は俺の前に辿り着くと。蜻蛉は地面に降りたち、蟻達はそのまま頭を地面にくっつけた。


「お前達は味方なのか・・・?」


 俺はショーテルを鞘に納めて、炎を大白色蟻の顔の前に出す。するとその鋭い牙がある口を開いて、小さな舌でその炎を舐める。

 その瞬間蟻は炎に包まれいき、その白色の体は黄紫色になっていた。

 俺は確信すると。両手を広げて前の蟲達に向かって炎を浴びせかける。蟲達はあっという間に炎に飲み込まれる。


 そして炎が消えた頃には全ての蟲達が同じ色になっていた。


 俺が心の中でそっちに行けと念じると蟲達はそちらに行く。


 俺は空を指差す。


「傷病者を村まで運んでくれ。あと馬代わりになって爺さん達を乗せて行ってくれ。」


 蟲達は俺の声を合図にある者は地面を這い、ある者は空を飛んで老人達を運んでいく。


「ゲルマ。お前。」


 後ろから声が聞こえる。振り向くとそこにはガルダン爺さんが立っていた。

 爺さんは既に兜を外しており困惑している様な表情でそこに立っていた。


「その力。まさかタヌスが・・・?」


「どうやらそうみたいだ。」


 俺は右手に(くだん)の炎を出す。


「あいつめ、死して尚爪痕を残すとは。飛んだ老い狸だな。待っていろ友よ。いずれお前の元に行ってやる。」


 ガルダン爺さんはその場にハルバードを突き立てる。


「さあ帰るか。俺たちの故郷にな。」


 すると俺たち二人分の蟻がやってきた。


「おいおい。その力滅茶苦茶便利じゃねえか!」


 俺達は蟻の背中に跨る。その背中はひんやりとしていてすべすべしていた。不思議な感覚だ。

 俺は頭の中で蟻に念じて町への方角を示す。それに蟻は従って走り出す。

 蟻に乗るなど想像してもみなかった。全然上下左右に揺れず、馬より乗り心地が良い。


「しかし今後はどうするよ。王は死に、王位継承権は弟の物の筈だがそれも無くなってしまった。ならばお前が王になるしかあるまい。」


「いや。ガルダン爺さんが王になってくれ。俺なんかでは務まらない。それに人望だった無いしな。」


「お前はそれでいいのか?」


「ああ。それに俺は卑術の道を探究しないと。それがじいちゃんの望みだ。」


 俺は手に黄紫の炎を出してそれを見つめる。


「そうか。ならなってやろうじゃねえか!強い王にな!」


 ガルダン爺さんはガハハと笑っている。しかしそれが虚勢だというのは俺にもわかるほど痛々しい笑いだった。

 永い間一緒に生きてきた友を失くしたのだ。無理もない。正直俺でもあの時じいちゃんが出て来なかったら心が折れていたかもしれない。じいちゃんの意思を継いで立派な卑術師になる。そしてこれまでと違った先の力さえも手に入れてみせる。


 俺は今一度覚悟を決めた。



ー ー ー



 街にたどり着いた。城下町は大変な騒ぎになっている。何せ王の死の後に蟲の大群が街に押し寄せたのだ。無理もないだろう。


 防衛の為に残された兵士達は自分達を攻撃してこない蟲達を警戒して槍を構えている。


「まあ、落ち着け。」


 ガルダン爺さんの一声で兵士達は恐る恐る槍を下ろした。


「良し。では街の中心広場でみんなに伝えたい事がある。触れ回ってくれないか。」


「分かりましたですじゃ!」


 兵士達は散り散りになると街の至る所で集会がある事を触れ回った。


「爺さん。」


「分かっている。しかし武人が王になっても良いのだろうか。それに俺に相応しいのか?」


 俺は。


「爺さんが王に相応しいのは俺が一番分かっている。強い者は弱い者を守る義務がある。それを爺さんは俺に教えてくれたから。」


「そうか。ありがとうゲルマ。お前はもう坊主じゃねえな。自分で物事を考えている。お前は立派な大人だ。」


 ガルダン爺さんは俺の頭を撫でようとするが、その手を下ろして微笑みかけてくる。これが爺さんなりの誠意だろう。


 そうこうしている内に街中の人が集まり出してきている。皆んなの目は不安の色が浮かんでいる。高名な卑術師と王を亡くしたのだ。これからどうしたらいいのかと路頭に迷っている様子だ。


「皆んな聞けッ!」


 地の底から響く様な力強い声が場の空気を呑み込んだ。


「王は死んだ!そしてタヌス。王の弟も死んだ!とても辛く悲しい事だ。本来ならタヌスの息子のゲルマが王を継ぐ筈だった。しかしゲルマは王位継承権を棄て、俺に託してくれたのだ!」


 爺さんは俺を見る。


「俺は武人だ。正直、(まつりごと)には疎い。助けてくれないか!この王を!皆んなで作るのだ!民達による!民達の政治を!」


 そして、空中に拳を突き出す。


「作ろうではないか!力強く!そして全てを守る国を!」


 すると民達から拍手と歓声が起こる。


「頑張れよ!ガルダン!」


「お前こそが王だ!」


 数千年前から共に生き、知り合っている彼らからの歓声は暖かかった。新しい王を心から祝福している声だった。

 ガルダン爺さんの顔から迷いはもう消えていた。既に王の顔になっていた。


 俺は民達が駆け寄る王を後に集会を去った。



ー ー ー



〜三ヶ月後〜



 良く日の当たる丘。そこにじいちゃんの墓を立てた。俺のじいちゃんでもあり親父だった。

 墓前にじいちゃんが生前好きだった酒を置く。


「おうおう!ゲルマ!またここか!」


 俺はやれやれと言った感じに振り向く。


「爺さん。また城を勝手に抜け出したのかよ。放蕩王としてまた噂されるぞ。」


「ぐぬぬ。しかし今回は用あってここにやってきた。」


「何だ爺さん。」


 爺さんはすぐ真面目モードに切り替える。


「戦後の処理の話だ。早めに人間達と和平条約を結ばなければならない。それでお前に大使として人間達の村へと行ってもらいたい。人間達には、俺たち忌まわしき民は信用がないからな。」


「それは王としての命令か?それともガルダン爺さんとして?」


 ガルダン爺さんは静かに目を瞑る。


「王としてだ。」


 それならば。


「謹んでお受けいたします。このゲルマめにお任せくださいませ。」


「う、うむ。では至急頼めるか?ゲルマよ。」


「今すぐにでも。」


 俺はピーっと口笛を吹く。する巨大な蟻が地面を突き破って出てきた。俺はその背中に蟻用の鞍を乗せる。


「頼んだぞゲルマ。そして無事に帰れ。これはガルダンとしての言葉だ。」


 俺は蟻の背中に跨りながら。


「ああ。必ずいい結果を持って帰ってくるよ。」


 頭の中で蟻に前進するよう命じる。蟻は一瞬のタイムラグも無く、俺の指示に従って走り出す。

 そして俺はこの日当たりの良い爺さんの墓を後にするのだった。



ー ー ー



 薄暗いトールの森を蟻に跨りながら移動する。舗装されていないこの森は馬ならば進むのは困難だろうが、蟻ならばその足で障害物を気にする事もなく移動ができる。

 木々の間を通り抜けながら地図を見る。この先半日もしない内には人間達の村に到着するだろう。


 俺が地図を仕舞おうとしたその瞬間。衝撃と同時に身体が宙を舞う。慌てずに背中から毒炎を出して勢いを殺しながら俺は地面へと激突した。


「がはっ!」


 そのまま地面を転がり、木に衝突して遂に俺は止まった。

 勢いが弱まっていたお陰で激突したものの大したダメージにはならなかった様だ。

 俺は状況を確認する為、すぐ立ち上がり周りを確認する。

 蟻は頭の部分が岩で潰されており、足をぴくぴくとさせている。俺は蟻の遺体に駆け寄り、ショーテルを取って鞘を外す。


「ギャイッ!!」


 しまった!ゴブリンかッ!!

 俺は身体を捻って後ろからの斬撃を躱す。そしてその勢いのままゴブリンの首にショーテルの先を引っ掛けてそのまま投げる。ゴブリンが宙を舞ったが既に首と胴体はサヨナラしていた。

 それを皮切りに他に潜んでいただろうゴブリン達が現れた。


 俺は左手から毒炎を放出するとそれを盾の形にする。


「かかってこい!下衆どもめっ!」


 俺の挑発に乗ってか、ゴブリン達が俺目がけて走ってくる。

 俺は構えた盾で飛びついてきたゴブリンの一体を防御する。そいつは俺の盾の上で燃えながらギャアギャアと叫んでいる。

 燃えているそいつを他の味方に投げつけるとすぐに延焼してその味方も燃え始める。

 俺はゴブリン達が臆したのを見逃さず、盾を構えたゴブリンをショーテルで斬りつける。ショーテルが湾曲しているお陰でその刃は盾を掻い潜り、ゴブリンの頭に突き刺さる。

 俺はそれを引き抜こうとした瞬間。他のゴブリンの棍棒が俺の右手に当たりそうになり、ショーテルを離した。


 ゴブリン達は勝機と思ったのか奇声を上げながら一斉に突撃を仕掛けてくる。


ーー正直この手は使いたくなかった。


 俺は素手になった右手を開いて意識を集中させる。手のひらが熱くなり炎が出たその瞬間俺は拳を握る。

 そこには毒炎で形取られた短剣が握られている。


 飛びついてきたゴブリンの胸を刺す。血液はすぐに蒸発し、背中側からは煙が上がっている。

 ゴブリンはまるで熱したナイフでバターを切るようにそのまま胸から肩にかけて真っ二つになった。

 俺は左からボロボロの刀で斬りつけてくるゴブリンの攻撃を防御しつつ、右にいるゴブリンを毒炎短剣で突き刺す。それと同時に盾から毒炎を迸らせ、盾の前面にいたゴブリン達が毒炎に包まれる。


「ンギャーーーッッ!!」


 一匹のゴブリンが視界の端っこで矢を放ってくる。俺はそれを見逃さず、右手の短剣を盾にしてそれを防ぐ。そして左手の盾を短剣にしてそれを投擲した。


「アギャッ?」


 それは見事に頭部に突き刺さるとあっという間にゴブリンを一刀両断。そのまま短剣は小さくなって消えていった。

 それを見たゴブリン達は戦意喪失。一斉にその場から逃げていった。


「ふう。」


 俺は一息つく。正直この毒炎短剣は酸の消費量が激しい為あまり使いたくなかった。

 俺は殻についたポーチの中から酸の小瓶を三つ取り出す。そして栓を抜くとそれを一気に飲み干す。


「んぐっ!!」


 強烈な痛みが胸を襲うがだんだんと痛みが引いていく。俺の胸の内の蝕炎石が酸を吸い取ったのだろう。


 取り敢えず新たな足が必要だ。

 俺は瘴炎(しょうえん)と名付けた黄紫色の炎を右手から出す。辺りにクッキーの様な甘い匂いが拡がる。

 すると森の木々をかき分けて出てきたのは。


「こ、これは・・・。」


 蟷螂百足(とうろうむかで)だった。


 俺は通常よりもかなり巨大な個体に驚いた。この百足は前足に付いている鎌で全てを捕まえて食べてしまう。

 その様はとても恐ろしく、ついた異名は森の虐殺者。


「しかし俺には。」


 俺は右手を掲げる。


 蟷螂百足は炎を見るとそれに顔を近づける。そしてそれをそのまま口に含んだ。すると、頭から尾にかけてその肌は黄紫色へと染まっていく。

 俺は頭の中で少し前進するように命令する。


「ギギィッ!」


 俺は前に進んできた百足の頭を撫でると蟻の亡骸から殻を取り、百足の背中に乗せる。

 百足はその間鎌で蟻の亡骸を捕らえてバリバリと器用に捕食していた。


「さあ行くぞ相棒。」


 俺は背中に跨りながらそう言った。


「ギィッ!」


 それに反応する様に百足は鳴き声を上げるとそのまま俺が頭の中で思うがまま人間達の村に向かって走り出す。

 この様な百足を襲う馬鹿はいないだろう。俺は思わぬ収穫に飽を緩めながら村へと向かうのであった。

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