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隔離された島で忌まわしき者達に育てられた俺は本土では割と強いようです。  作者: シニスター
〜第一部〜始まりの地・流刑島
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卑術の教え

 家に帰ってきていた俺はじいちゃんの授業を受ける事になった。


「まずは卑術の歴史から行くかの。寝たら飲酸の罰じゃ。ゆめゆめ忘れるでないぞ。」


「はっ、はい!師匠!」


「よろしい。」


 じいちゃんはおほんと咳払いをすると語りだす。


「卑術とは、ワシら忌まわしき民に伝わる謂わば邪術に近いものよ。名前の由来はワシらや他の者がこの術に軽々しく触れてはならないという意味が込められておる。敢えて卑しい術を使いたいと思う者がおらん様にな。誉高き魔法の対極と言えような。」


「じゃあ、俺がこれから学ぶのは・・・。」


「そう。邪道よ。」


 じいちゃんは古びた本を取り出す。


「卑術はワシの師匠が考案した術じゃ。もう数百年も前のことじゃがな。この島が流刑地なのは知っておろう?」


「ああ。流刑人は見たことないがそれはじいちゃん達が対処してるんだろ?」


「そうじゃ。ワシら忌まわしき民の存在が外に知れては困るでな。火種は消しておくに限る。しかし我らが生まれた当初は卑術なぞ存在しなかった。その時は流刑人達との戦があってな。老いて生まれた我らなぞ蹂躙されるしか無かったのよ。」


 俺はこの話を知っている。少し前に街の図書館で読んだ『我らの歴史』という本に綴られていた内容だ。

 流刑人達と忌まわしき民の戦いが記されていた書だ。

 確かその時に民は3分の1まで減っているはずだ。


「その顔。どうやら大体の流れは知っておる様だな。戦の流れを変えたその戦い。ランスター廃城での戦いは熾烈を極めた。ワシも当時は奴らに勝てる術を探究しておった。その時ワシの師が初めて卑術を使ったのよ。」


 そう。卑術の登場により戦争はこの戦いで終結したのだ。


「その時師匠が使ったのが先ほど見せた手から毒炎を放出する技よ。当時はワシらもまだ探究の身であった故、師匠はそこで己を犠牲としワシに蝕火石を託してくれた。」


 じいちゃんは小袋から他の小さな蝕火石を取り出す。


「これはワシの師匠だった者の体の一部よ。己が体を蝕火石となして巨大な毒炎を放出したのじゃ。」


 じいちゃんは人差し指と親指摘みで大切そうにその石を見つめている。

 そしてその石を大切そうに小袋に仕舞う。


「これが卑術の始まりよ。ワシは戦の中でそれを己が物とし、術へと昇華させた。己に蝕火石を宿し、自分自身を触媒にすることによって自滅せずに技を使うことが可能となったのよ。」


 じいちゃんは昔のことを思い出しているのか遠い目でそれを語っていた。何故かその瞬間はじいちゃんが若々しく見えた。


「それでじゃ。戦の上でその恐ろしさを知ったワシは元々毒炎術と呼ばれていたそれを卑術と改めた。まあ、使う技は毒炎だけではないのもあるがの。」


「つまり、あれ以外にも技は沢山あるという事か?」


「うむ。それは順を追ってお前に教授しよう。」


 じいちゃんは酸の入った小瓶を取り出す。


「では、ワシらの命綱となるこの薬液の調合方法から教えんといかんな。」


 じいちゃんは台所に行き、いくつかの葉っぱを持ってきた。


「これら全て、そこら辺に生えてる草じゃ。」


「おいおい!それでいいのかよ!」


 俺は拍子抜けしてしまった。薬の調合と言うからには何か特別な草だとばかり思っていた。


「まあまあ。これが肝心じゃ。」


 じいちゃんは手の平から小さい毒炎を放出して囲炉裏に火をつける。


「一番大切なのは毒炎で調合することよ。その上でこれらの草を使う理由は吸収効率といったところかの。」


 鍋を火にくべてその中に水を注ぐ。


「草は何でも良いが、わざわざ痛い思いをして酸を飲むのに少ししか燃料が補充されなかったらお前も嫌じゃろう。つまり、酸と相性の良い葉を探す必要がある。ワシの長年の研究ではこのアオコカゲの葉とブラッドリーフの相性がとても良い。」


 じいちゃんはシワシワの手で草を裂きながら鍋の中に放り込んでいく。


「フムフム。」


 俺は、羊皮紙にメモを取る。


「そして待つのじゃ。上に何か他の葉をかざしてそれが一瞬の内に茶色く変色したらそれが完成の合図じゃな。アッツアツのまま小瓶に注ぎ、はい完成と言ったところじゃな。」


 やはり長年の経験なのか、ものの数分でじいちゃんは酸を完成させた。


「まあ、これはお前が自分でやって上手くなれば良い。」


 じいちゃんは小瓶を箱の中に仕舞った。

 俺は素直に感心して。


「こんなにじいちゃんが凄い人だとは思わなかった!」


 じいちゃんは恥ずかしそうに。いやーそれほどでもと言った感じで頰を掻いている。

 そして、オッホンと咳払いをする。


「さ、次じゃ次じゃ。お待ちねの毒炎を出す授業を行おうかの。」


 待ってましたと言わんばかりに俺は拍手をする。


「良いな。この技は危険が伴う。お前は卑人と化しておるから毒炎の影響を受けぬが、卑人でない者には毒炎が効く。とてもな。」


 じいちゃんのシワシワの掌でゆらゆらと毒炎が燃えている。


「これが毒炎。やっぱり近くで見ると結構綺麗な色だな。」


 炎の本体の部分は緑色だが炎の末端に行くにつれて紫色が増していく。それは何やら野生の蝶の様に見えて、美しさを感じる。


「さあ、手のひらを出せ。」


 俺は手を出すと、じいちゃんは俺の手の上に毒炎を垂らす。

 毒炎は俺の手に燃え移ると身体中に拡がっていく。不思議と熱さは感じず、暖かい温もりを感じる。

 そして毒炎は吸収されるかの様に俺の身体の中に消えていった。


「お前は火を宿した。これで晴れてお前も毒炎とその他の技を使える。但し。使うならば家の遠くで使う様に。良いな?」


「ああ!分かったよ!」


「うむ。では後は好きに探究するが良い。まずは毒炎の術を己で制御できる様になったら次の技を教えてやろう。」


「ありがとう!じいちゃん!早速練習してくるよ!」


 俺は家を出ようとすると丁度家のドアがノックされた。


「おい!タヌス!いるか!?」


 俺はじいちゃんの代わりにドアを開ける。

 そこに立っていたのはこの島には珍しい筋骨隆々とした老人が立っていた。

 その男はガルダン。忌まわしき民達の将軍であり、剣でもある。普段は軽く剣の稽古をつけてもらっている。


「おう!ゲルマ!久しぶりじゃねえか!」


「がふっ。」


 丸太の様に太い腕で抱きしめられて胸が押れ、肺の中の空気が一気に口から全部出てしまう。


「将来有望な弟子を今殺されたら困るのう。」


 じいちゃんが助け舟を送ってくれた。ナイスじいちゃん!


「おう。そうだったそうだった。」


 ガルダン爺さんは俺を離すとじいちゃんの方に向き直る。


「奴らやはり戦準備をしている。俺たちに割り当てられた土地がよっぽど気に入らないらしい。」


「ほう。しかし肥えた土地をくれてやったのにまだ不満と?」


「どうやら、土地を枯らしちまったみたいだぜ。飢饉が起きてるとよ。しかもそれを助けようとしたお人好し達が物資を届けようとしたところ、殺されて物資を略奪されたとよ。」


「下衆どもめ。和平を望んだのは奴らなのに恩を仇で返しおったな。所詮は罪人達の末裔か。」


「どうするよ?俺としちゃあっちがやる気ならこっちも準備した方がいいと思うが。」


 じいちゃんは俺の肩に手をおく。


「ゲルマ。ワシは城と王を守らねばならぬ。やってくれるか?」


 俺もいつか覚悟はしていたがこんなに早くこの時が訪れるとは思っていなかった。


「分かった。じいちゃん。俺がやるしかないんだろう?」


「すまぬな。息子よ。」


「良いんだ。俺はじいちゃん達が一番大事だ。」


 じいちゃんは俺の背中をポンポンと叩いた。


「おうゲルマ!お前初陣だろ!目出度いじゃねえか!戦場では背中は俺が守ってやるよ!」


「ガルダン。頼んだぞ。」


 じいちゃんはそう言って身支度整え始める。常に準備していたのか普段見ない鞄を肩から掛けていた。


「では参る!!」


 既に待機させていた馬にじいちゃんは乗った。その姿はいつもの腰が曲がったじいちゃんとは違って背筋が伸びていた。

 顔つきも若々しくなっている。


「ヤー!!」


 じいちゃんは大声でそう叫ぶと馬はヒヒーン!と勇ましく嘶き後ろ足で立つ。その姿は絵画になってもおかしくないぐらい格好良かった。

 そして馬は廃城へと向かって走り出した。あっという間にじいちゃんは豆粒の様に小さくなっていき丘を超えて見えなくなった。



「あいつは、根っからの戦好きだ。お前を養子に取ってからだぜ。あいつが落ち着いた様子を見たのは初めてだった。」


 じいちゃんはそんな感じだったんだ…


「ま、つまりあれがあいつの本性ってこったな。卑神タヌス。」


 ガルダン爺さんは顎に蓄えられた長い髭を撫でている。遠い過去を思い出しているんだろう。


「さ、行くぞ。俺も久しぶりの戦。血湧き肉躍るわ!」


 ガハハと大声で笑うと、ガルダン爺さんは乗ってきた馬に跨る。


「さあ行くぞ!我らの戦にな!」


 俺は急いで厩に行き、一番若くて良い雄馬に鞍をつける。そしてそのまま跨る。


「やあ!!」


 俺の掛け声と共に馬は全速力で走り出す。

 俺はガルダン爺さんの隣に行きそのまま舗装された道を並走する。

 俺は初めての戦に興奮していた。


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