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隔離された島で忌まわしき者達に育てられた俺は本土では割と強いようです。  作者: シニスター
〜第二部〜ロウウェルシュタイン公国編
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それぞれの道

「・・・フィリップ。ソーニャ。平気か?」


「は、はい!何とか。」


「だいじょうぶだよ!」


 瓦礫の山。宙を舞う砂埃の中から三人の人影が現れた。


「畜生!何だってんだよ。」


 フィリップ、ソーニャ、アールことアニーの三人はゲルマと別れた後、惨劇に巻き込まれつつもなんとか街の中で生き残っていた。


「あー。イテテ。」


 アールはしばらく姿を表していない。それはアニーなりの気遣いだった。もしも彼がこの惨状を見たらショックで一週間は塞ぎ込んでしまうだろう。


「あの、アニーさん。アレ・・・。」


 フィリップが街の中心を指差す。そこにあったのは灰色になり、散っていくあの巨大な触手の王の姿だった。


「なんとか治ったようだな。よしテメーら。そうと決まれば早くズラかるぞ。」


「ズラかるぅ?」


 ソーニャが首を傾げる。


「チッ。逃げるってことだよ。」


 それに対して面倒臭そうにアニーが答える。


「しかし、アレは一体なんだったんだ。まさかな・・・。」


 アニーは考察をやめ、幼い2人を引き連れてそのまま灰の山を後にしたのだった。





 阿鼻叫喚の地獄。

 人々の希望だった壁は流星群によって破壊し尽くされ、もうそこにはかつての威厳はない。

 それは壁だけでなく、人々の居住スペースにまで影響が及んでいた。


 キーンと耳鳴りがする中、アカツキがゆっくりと目を開ける。

 彼女は隕石落下の衝撃により気を失っていたようだ。すでに固まっているが流血したのだろう、顔の右半分には黒々とした血の跡がこびりついていた。

 彼女はそれを袖で拭うと刀を支えにしてやっとの思いで立ち上がる。


「ああ、腕がッ!うでがぁーー!」


「目が見えねぇ!」


「うぁぐ、いでぇよ゛お゛」


 周りにできた瓦礫の山の中から声が聞こえる。


「助け・・て・・・。」


 地面に倒れていた女がそう呟くと静かにそのまま息を引き取った。

 それを見ていたアカツキは己の無力さに歯を食いしばった。


「おーい!誰か生きてる奴はいるかい!?」


 その時、後ろから聞き覚えのある陽気な声が響いた。

 それに反応して振り返ろうとすると。


「・・・ッ!!」


 アカツキの足が膝のすぐ下で外側に折れ曲がる。どうやら脛骨が骨折してそこに偽関節が生じているようだった。

 彼女は苦痛に歪んだ顔をしながら地面に倒れる。


「誰かそこにいるのかい!?」


 声の主が駆け寄ってくる。

 辺りを舞う砂埃の中から現れたのは勝った顔。鬼人(オーガ)のアルデだった。

 その赤い肌のところどころに傷があったもののどれも軽症のようだ。


「アカツキっ!」


 アルデはその巨大な体躯でアカツキを抱き抱える。


「どう、した。悪いのか、私の状態は。」


 抱き抱えられた冬の本人は苦痛に顔を歪ませながら声を絞り出す。


「足、プランプラン。」


 アルデは無遠慮にアカツキの足叩く。


「ッッッッッッ!!!!????」


 鬼畜鬼人はガハハと笑う。


「んま!こんなのアタイの経験から言うと唾つけりゃ治るって。」


 アカツキは怒りに一瞬顔を歪ませるが、一拍置いてため息をつく。


「生憎、人間の体はそんなに頑丈に出来てはいない。私の事は後回しにして瓦礫の下の人達を助けてやってくれ。」


「アイアイサー♪」


 彼女は軽々と瓦礫を持ち上げて、下敷きになった人達を救助していく。


 アカツキはその光景を見つめながら心の中で誓うのだった。


(必ずやあの恐ろしい銀の王を倒して見せる)


と。





「う、うぅ・・・。」


「ディートマル様!!どちらにおられるのですかぁ!」


 その頃ディートマルは現実を受け入れられずにいた。

 幸い魔術師たちの防護魔法が間に合ったおかげで城の被害は最低限に収まっていた。

 しかし、心の被害とそれとはまた別だったのだ。


 ディートマルの頭の中に流れる映像。美しいまでの青い光。巨大な星々。降ってくる空。

 何度も何度もフラッシュバックする。

 美青年と呼ばれたその美しい顔。いや、美しかった顔は今やトラウマに歪み。以前の面影は無いと言える。

 ただ1人幼子のように半壊した部屋の隅で丸まって震えているだけだ。


「ディートマル様・・・。」


 ディートマル・デ・ロウウェルシュタインが騎士。ドミニクが囁いた。彼が見つけたのは以前の自信に溢れた青年では無かった。

 ただ恐怖に震える事しかできないウサギ。彼の目にはそう映っていた。


 ドミニクはディートマルを静かに抱えるとそのまま何も言わずに他の兵士たちを残して城を後にした。

 彼らは目を見開いて震えるかつての上官を無言で見送る事しかできなかった。沈黙が城の中を支配したのだった。





「姫様ッ!」


 ラヴィアの軍はシュワルツシュタットから一日程のところまで進軍していた。

 ひと足先に異変を感じ取ったのはエルンストだった。

 あれ程地面から大量に生えていた触手はまるで干からびたかのように灰色になり、風が吹くとチリになって消えていった。


「今が好機なんだな。」


「ええ。今しかありません。」


 ラヴィアは深く息を吸い込む。


「全軍!全速前進!!!」


「全速前進!!」


 兵士たちが伝言ゲームのように次々と叫ぶ。


「銃騎兵隊!用意!」


 ラヴィアが腰に下げたレイピアを抜くとそれを天高く掲げた。


 銃騎兵と呼ばれたその兵士達は鉄砲の中に火薬を詰め始めた。

 全員の弾溜めが終わったのかガチャガチャと言う音が聞こえなくなった。


「後に続け!!」


「「「応ッ!!」」」


 ラヴィアが鐙を馬の太ももに蹴るように当てると、後ろ足で立った馬がヒヒーン嘶く。

 まるでそれは絵から飛び出してきたかのような光景だった。


 ラヴィアの馬が駆け出すと銃騎兵隊がそれに続くのだった。





「・・・。」


 褐色の美しい少年はまるで彫刻に彫られたかのような悩ましい表情で空を見上げていた。


「使徒様・・・。」


 その手にはまだ赤い血の滴る曲剣を持っていたそしてその傍には血まみれで倒れている恰幅のいい男とそれより一回り小さい人間が血まみれで倒れていた。


「確か、ローベル・・・だっけ?」


 少年は微笑む。


「やっぱり神様はサディストだね。しかもそれに気づいていない。そんな神様。完璧じゃ無い。」


 彼は剣についた血を舐める。


「俗っぽくて罪悪感に苦しみ、そして優しくて残酷。新世界にはそんな神様が必要。使徒様のような。」


 少年は静かに笑った。

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