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隔離された島で忌まわしき者達に育てられた俺は本土では割と強いようです。  作者: シニスター
〜第二部〜ロウウェルシュタイン公国編
27/32

人々の希望。勇者登場。

 砂嵐に包まれたシュワルツシュタットに転移魔法陣が現れる。そしてその中から出てきたのは例の男だった。


「うっわー!スゲーこれ!レイドボスって感じ!」


 彼はタイプの違う美女達を後ろに2人引き連れている。


「勇者様・・・!」


「わーってるよ!!さっさと片付けりゃあいいんだろっ!」


 勇者が腕を構えるとその先に光が収束していく。


「アトミックレイ!!」


 ビームが手から放たれると街の中心部にいる巨大触手を貫通する。そして少しした後に触手を中心に大爆発が起こる。

 空から銀色の肉片と液体が降り注ぐ。


「ちょろいもんだぜ!!」


 勇者はガッツポーズを取る。


 崩壊していく触手の山。


 すると、ドスドスと足音を立てながら筋骨隆々の何かが歩いてくる。


「エ゛ア゛ァ゛ァ゛!!!!」


 それはまるで絞り上げるような高音の声を上げながら堂々と歩いてくる。


挿絵(By みてみん)


「ボスの登場ってか!?」


「私に任せてぇ!勇者様ぁ!」


 勇者の後ろから飛んできたその女は身の丈を超える巨大な大剣をその大声を上げている存在に叩きつける。


 それは驚異的な反射で刀身を手で掴んで防御した。


「チッ!」


 女は地面を蹴って後ろへと一旦逃れた。


「へー。手強いじゃん。行けんの?オリヴィア。」


「燃えてキタァ!!」


 オリヴィアと呼ばれたその女は剣を地面に叩きつけてその力を利用して再びそれに飛びかかる。


 砂埃を上げながら再び斬り掛かっていく。


「マジで直線的すぎだな・・・。身体強化(フィジカルブースト)!!」


 勇者がそう呟いた途端、オリヴィアの速度が数倍に跳ね上がった。

 ソニックブーム。大気中の音速を超えたそれは彼女を中心にして衝撃波が生まれる。


「うぉおおおお!!!」


 鬨の声。


 その怪物は再びその刃を掴もうとするが今度は間に合わない。


 巨大な刃が見事に体を捉えてキレイに一刀両断した。

 上半身と下半身が別れ、銀色の血液が噴き出す。


「やったぁ!!」


 女が叫んだその瞬間、怪物の腹から腸のような触手が伸びてきて女を締め上げる。


「くっ!」


空烈斬(エアカッター)!!」


 勇者が手から空気でできた刃を放ってそれらを切断する。


「エ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!」


 それはまた叫ぶと、地面をものすごい速度で這いずり回る。

 そして勇者に向かって突撃していく。


「うわキモっ!!」


 勇者は空烈斬を連続で放つが、あまりにも素早いその動きに中々当たらない。


「エ゛ァ゛ッッ!」


 怪物はそのまま勢いをつけ、勇者に殴りかかる。


 ガギンッ!!


 勇者を見事に捉えたまでは良かったものの、その殴打は青色の魔法陣に阻まれた。


「サンキューな。」


「油断しないで・・・!」


 後ろに控えていた魔法使いの女が腕を前に出している。


「へいへい。」


「・・・アレ。」


 勇者が指差された方向を見ると、ひとりでに歩いていた下半身と上半身がくっつこうとしていた。


「シャーロット!」


「分かってるぅ!!」


 シャーロットが巨大な剣を投げる。それは見事に胴体に命中して突き刺さる。


「でかした!!」


 勇者は腕を構える。


雷杭(サンダーボルト)!!」


 そう叫ぶと天が光り、青い雷が降ってくる。

 巨大な剣を避雷針にして雷が命中。とても高温である為にすぐに自然発火した。


「エ゛ァ゛ッッッッ!!」


 それは鎮火しようと地面をのたうち回るが、炎の勢いが強い。


「ッ!」


 魔法使いが手を構えると炎の勢いが強まった。


 怪物の動きが段々と弱くなっていき、遂にはぐずぐずになって消えていってしまった。


「まあ、中ボスにしては強かったかもな。」


「勇者様。油断・・・多すぎ。」


「ええぇ。良いじゃないですかぁ。強者の振る舞いっぽくてぇ。」


「ダメ・・・!油断すると・・・どんなに強くても・・・!」


「俺説教めんどくせーからパス〜。」


「じゃあ私もぉ〜。」


 魔法使いの少女は指を噛む。


「私がしっかりしないと勇者様を・・・。でも勇者様さ奔放だし、シャーロットさんとも・・・。」


「うわぁ。またぶつぶつ言ってますよぉ。」


 シャーロットが剣を拾いながらそう言った。


「オーロラには困ったな・・・。ああ見えても年寄りだからお節介焼きてーのかも。」


「ん〜。私は楽しければ良いのでなんでもぉ。」


「お前はお前で戦闘バカすぎるっちゅーの。ったく。」


 勇者が腕を組むと、街中に生えていた触手達が黒くなってぐずぐずに崩れていく。

 触手の塊。コアを壊した為にこの事件は収束するだろう。そこにいた皆んながそう思っていると。


「勇者!!」


 天から声が聞こえた。それは40メートルはあるだろう巨人だった。それは全身が銀色で顔は無く、ツルツルしていた。

 背中からはジェット噴射のように緑紫色の炎が出ており、腕を組んでいる。


「ラスボスのお出ましってか。アトミックレイ!!」


 再び勇者は高威力のビームを放つが、その巨人は巨体に見合わない動きで見事にそれを避けた。


「・・・殺す!!」


 純粋な殺意で巨人は呟いた。

 巨人が腕を前に出すと、手には例の炎が収束していく。いくら勇者とはいえアレをまともに喰らうと死んでしまうだろう。


「チッ。ここでは街を巻き込む。オーロラッ!」


「分かってる・・・。」


 オーロラは地面に手を当てながら呪文を呟く。そうすると金色に輝く魔法陣が出来上がる。


「早くッ・・・!」


 シャーロットと勇者が魔法陣の中に入ると三人の姿は何処かへと消えていってしまった。


「クソッ!!クソッ!!」


 巨人はそう叫ぶと空高くへと飛び上がる。そしてゆっくりと宙で坐禅を組む。





「・・・危なかった。」


「どうやら街は無事みたいだな。」


 勇者達は転移魔法陣からゆっくりと歩いて出る。そしてそれは段々と弱い光を放ちながら消えていってしまった。

 どうやら近くの森の中のようだ。木々のおかげで空からバレることは無いだろう。


「で、アレは何だ。まさか魔王が?」


「いえ・・・。その線は薄いと思う・・・。」


「もぉ〜戦いましょうよぉ!」


「戦闘バカッ!お前という奴は。」


 勇者達パーティーメンバーは全員戦闘スキルが高いのだが空は管轄外。飛び道具はあるが、動きの鈍いドラゴンならまだしもあいつは。


「今はアイツと戦うのは難しい。ここは一旦撤退すべきなんじゃないか。」


「勇者達・・・!でもあの街の人々は・・・!」


「俺たちがやられたらあの街だけじゃ無く他の街にも被害が出る。今は対策を練らないと。奴に対して!」


「チッ。戦えないのかぁ。」


 勇者は敢えてそれを無視する。


「一つ・・・一つ心当たりが。半龍(ハーフドラゴン)をパーティーメンバーに加える事です・・・。」


半龍(ハーフドラゴン)?」


「はい・・・。彼らなら考える知能がありますし・・・。私たちが背中に乗って戦うことも・・・。」


「良し。そうと決まったら善は急げだ!オーロラ!」


「・・・。転移魔法陣は使えませんよ。」


 勇者は頭に手を当てる。


「あちゃあ。そうだったか。こんな短時間に2回も使えばな。」


 オーロラは俯く。


「ま、アイツも俺たちを見つけられて無いようだし、って何だこの虫の群れは。」


 勇者達の周りを小さい羽虫達が飛び回っている。


「強顎蝿です・・・!でもこんな・・。」


「ああ、邪魔だっ!」


ーー見つけたぞ。


 重く低い声が聞こえた。


 いつの間にか覗き込んでいた巨大な顔。次の瞬間。木々を吹き飛ばしながら拳が叩きつけられる。


「ガッ!!」


 不意の攻撃は勇者に命中。その体は地面に埋没する。

 そのまま巨人は次の拳を叩きつけようとするが。


「ヒヒッ!戦えるぅ!!」


 シャーロットが大剣を構えながら走るが、巨人の胸の中心が緑紫に光る。


「シャーロット・・・!」


 巨人の胸から一直線の太いビームが放たれる。


「あっ・・・。」


 彼女がそう呟いた瞬間。そのビームは彼女に命中。彼女は眩い光の渦の中に消滅してしまった。


「・・・。」


 巨人は無言のまま気絶している勇者に拳を再び叩きつけようとする。


「バ、バケモノ・・・!こっちだ!」


 オーロラが必死に叫ぶ。


 その手には魔法陣が形成されている。


「・・・。」


 巨人が手を振り払うと強風が発生して、オーロラは飛ばされてしまった。そして岩に頭を強打してしまい、そのまま気を失ってしまった。


「遂に。遂に終わりだ。」


 巨人は再び地面に半分埋まった勇者を見る。


「この時をどれほど待ち望んだか。この時を!」


 勇者がゆっくりと目を開け、巨人に言い放つ。


「このバケモノがッ・・・!俺が何を。」


「・・・お前は覚えていないのか。」


「お前なんか知らねぇし!会ったこともない!!」


 巨人の動きが止まる。そしてわなわなと怒りに震える。


「それならば思い出させてやろう!!」


 胸に収束していく黄色くて紫色のようでもある光。それが放たれる。


「うああああああああっっっッッッッ!!!」


 強烈な光の奔流。そして見えてくるビジョン。怒り。憎しみ。絶望。そして失われた愛。

 人智を超えた情報が勇者の頭の中に流れ込んでくる。

 暴力的な映像の数々。愛するものが死んでいく感覚。全てがその瞬間に頭の中へと無理やり捩じ込まれていく。


「俺はァ!俺はァァぁぁ!」


 そして巨人も感じていた。彼の故郷である日本という存在。ここではない別の場所。宇宙。もしや別の次元。


 その瞬間、巨人の後頭部に光の球が当たる。


「・・・させないッ!」


 頭から血を流した少女のその手には魔法陣が展開されている。


「どうか無事で・・・。」


 オーロラは最後の力を振り絞って金色の魔法陣を展開した。


「やめろおおおお!!!」


 巨人が勇者に手を伸ばすがそれは届かず、勇者は消えてしまった。


「クソッ!クソぉ!!」


 巨人が悔しそうに地面を叩く。まるで地震が起きたかのような地響き。


「・・・彼さえ生きていれば私達の勝ち・・・!」


「お前ッ!!!」


 巨人が少女を掴み上げる。


 そしてその手でゆっくりとその細い身体を締め上げていく。


「グッ・・・。ああっ・・・。」


「お前さえッ!お前さえいなければッ!」


 巨人の手には少女の骨が一本一本折れる感触が伝わってくる。


「・・・。何があなたを憎しみに・・・。」


 少女は全身の骨が折れているはずなのに銀の巨人に向かって微笑みかける。


「テュー・・リィ・・・?」


 その瞬間。巨人の体のサイズがみるみると小さくなっていく。そして最後には普通の人間サイズに戻った。


「ハア・・・ハア・・・。」


 オーロラは動けない体でゆっくりと巨人だったその男を見る。


「そうだったの・・・。貴方だったの・・・。」


 彼女は目から涙を流す。


「ごめんなさい・・・。あの時私が・・・。私が止めていれば・・・。」


 銀色だった体はすでに鎧の形へと形成されていき、彼はまるで異国の戦士といった風貌へと変化していった。


「ごめんな・・さ・・。」


 少女はゆっくりと目を閉じる。


「お、俺は・・・。俺は・・・。」


 鎧の男は自分の両手の平を見る。血に汚れ切った手。罪なき人々の悲鳴が心の中で聞こえるのだ。それならば俺は奴と同じじゃないか。


 浅い呼吸をしている少女を男は抱き上げる。そして深い森の中へと消えていった。




ー第一部完ー

第一部完です。

復讐に人生を支配され、世界の憎しみを背負うことになったゲルマにはこれから先何が待ち受けているのか。

それは是非続きをお楽しみください。

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