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隔離された島で忌まわしき者達に育てられた俺は本土では割と強いようです。  作者: シニスター
〜第二部〜ロウウェルシュタイン公国編
25/32

裏切りの惨劇

「そうか・・・。」


 俺は裏切り者についてアルマフから報告を受けていた。


「つまりはあのテラウト。俺を出し抜こうとした訳か。」


「ええ。使徒様に対する不躾な行い。身の程を弁えるべきです。」


 傅くアルマフを立ち上がらせて頭を撫でる。


「取り敢えずはご苦労だった。引き続き監視を頼む。信じられる人間は少ない。」


「はっ。使徒様。」


 アルマフは影の中へと消えていった。


 流石はラテシアの流砂。暗殺者の真似事もお手のものだ。


 俺は短刀を手の中でくるくると回して天井から吊るしたふくよかな男を見る。

 手の腱と足の腱はすでに切断しており拘束から解放されたとてここからは逃げられないだろう。


「き、貴様!テラウト様が許さないぞ!」


 この豚。まだ喚き散らかしやがる。いい加減煩わしい。


「飽きた。」


 俺は短刀で男の首を掻っ切る。その男は目を白黒させながら絶望の表情で俺を見ている。やがて血の勢いが無くなっていくと意識が混濁してきたのか瞼がゆっくりと閉じていく。

 それを確認すると俺は毒炎で流れ出た血と身体を一瞬で溶かす。宿屋の一室であっても証拠隠滅が容易なのがとても助かる。


 その瞬間。部屋の扉が開いた。


「し、師匠!!危険です!」


「フィリップか。どうした。」


 俺は急いで指輪をつける。


「路地裏で変な男たちが師匠に関する事を!」


 俺は手でフィリップを制する。


「大丈夫。すでに対処済みだよ。」


「本当ですか!でも・・・。」


「お前はソーニャのとこに行ってやれ。ほらっ!」


 俺はリンゴを手に取ってフィリップに向かって投げる。


「一晩中歩き回ってたんだろ?疲れたろう。」


「あ、ありがとうございます・・・。」


 そう言うとフィリップはドアを開けて出ていった。


「世の中うまくいかないものだな。」


 俺はそう言うと指輪を外し、酸を一気に煽った。



ー ー ー



 翌日、俺達はシュワルツシュタットを発った。

 外套を羽織って身元がバレないように入念に移動する。


 しかしあのテラウトが俺の命を狙っているとは思わなかった。普段は好々爺だが一枚皮をめくれば腹黒狸だったのだろう。

 気が付かなかった自分に腹が立つ。


 奴の部下はほぼ全員殺してしまったのだからそう遠く無いうちに俺の行動がバレるだろう。その前に行動しなくてはならない。


「ソーニャ。フィリップ。お前達はアールに任せる。こいつはこう見えて怖い。ちゃんと言うことを聞くんだぞ。」


「あ、あの。ゲルマさん。ぼ、僕には...。ガキはこのアニー姉ちゃんに任せとけッ!テメーはケリぃつけるんだろ?」


「ああ。裏切り者には死を。街のはずれで落ち合おう。」


「おうよ!」


 その瞬間、強烈な殺意を感じた。

 咄嗟に身を捻るがソレに左胸を貫かれてしまう。


「軍師様。貴方が行おうとしている事は反乱です。ならば...。」


 しまった!!

 アカツキ。この中でも純粋なロウウェルシュタイン軍人...!!

 当然俺たちに着いてきたのはお目付役。ならばあのシュウドウも一枚噛んでいると言う事か!?


「アニーッ!早く!!」


 彼女は無言で頷くと子供達を抱えて強靭な跳躍力で屋根へと飛び上がる。そしてそのまま走り去っていく。


「へへ。奴らは最初から眼中に無しか?ええ?」


 左胸から銀色と赤色が混じった血が流れる。


「アカツキぃ!!」


 俺は左手で刀身を握りしめて、毒炎を流し込もうとするが。


一閃退き蛙(いっせんひきかわず)!!」


 目にも止まらぬ速さで左胸より刀が引き抜かれ、それを掴んでいた人差し指から小指が見事に斬り落とされた。


「ロウウェルシュタインに仇なす者に死を!」


 振り下ろされた斬撃を反対側の手に出していた毒炎盾で防ぐ。


 しかしそれすらも両断されてしまい右手は手首から先が斬り落とされた。

 あまりにも見事な技のせいか痛みなども全く無く。出血量も少ない。


「どうですか。もうやめられますか。降伏すれば命はだけは助かると思いますが。」


「そんなモン知ったこっちゃねぇ!!俺を勝手に排斥しようとした挙句そのポストを奪おうとしている真の悪人がいるんだぞ!!俺なんかを攻撃してどうなる!」


「秩序こそ全て!!」


 再び鞘より抜かれた斬撃が俺を襲う。


 その瞬間。アカツキの刀が目の前で止まる。


「あーあー。やっちゃったねぇ。」


「アルマフ!」


 そこに立っていたのは褐色の美しい少年。アルマフだった。


「やっぱ怪しいと思ったんだよ。いつも使徒様に付き纏って。いつでも首を狙えるよーに近くにいたんだね。」


「・・・。」


「その沈黙を答えと受け取るよッ!」


 剣撃を止めていたシミターを刀身上で滑らせ、アカツキの顔を斬りつけようとするが、彼女は見事な身のこなしでバク転をしてその斬撃をかわす。


「使徒様ッ!お逃げください!ここはこのアルマフめに。」


 俺はその言葉に甘えて満足に再生できていない左手で地面を押して立ち上がる。今の俺の力ではアカツキは倒せない。この両手を満足に使えない状態では。


 銀と赤が混じった血を滴らせながら俺は無駄に入り組んだ裏路地を彷徨う。その時右手首から血が大量に流れ出る。

 急な失血に視界が霞む。しかしここで意識を手放す事は許されない。


 俯きながら歩くからか、時間感覚が麻痺し、どれぐらい歩いたかが分からなかくなってきた。


ーーミヲマカセテ


 ああ。クソ。幻聴まで聞こえてきやがった。


ーーコワガラナイデ


 遂には足に力が入らなくなり、俺はその場に倒れ込んでしまう。


 頭の中には銀色の触手のイメージが流れ込んでくる。都市を丸ごと呑み込み殺戮の限りを尽くす破壊の神。


 めんどくさい。全てを破壊したい。全てを終わらせたい。復讐。軍師。親。兄。師匠。全てを・・・。


 その瞬間俺の個人としての意識は途切れた。





ー数日後ー


「急げ!!怪我人はそっちに!補給物資はそこに頼む!」


 豪華な広間で衛兵が叫ぶ。

 ここ数日間シュワルツシュタットは地獄だった。

 突如現れた謎の銀色の生物達。おそらくは中心地点にいるあの巨大な触手が産み出しているのであろう。


挿絵(By みてみん)


 この町で一番大きな建物。シュワルツシュタット城。


 その頂点の部屋から豪華な服を着た金髪碧眼の美青年が恨めしげに銀色の触手の王を見つめる。その横には左手が義手になっている騎士が立っていた。


「はあ・・・。姉さんが攻めてくるっていう噂を聞いてから勇んで来たのは良いものの。」


 その青年。ディートマル・デ・ロウウェルシュタインは呟いた。


「ディートマル様・・・。」


 室内だというのにフルフェイスのヘルメットを被った隣の騎士。ドミニクが囁くように呟いた。


「ディートマル殿下!!よくぞいらっしゃいました!」


「ふむ。都市長殿。」


 都市長と呼ばれたよく肥えた男が縋り付くように喋り出す。


「私もよく分からない内にこのような事態に・・・。魔導師達も訳がわからないと申しております。これはもうこの都市で手に負える問題では・・・。」


「・・・。みたいだね。参ったよ。」


 ディートマルは指をパチンと鳴らす。

 その瞬間都市長。いや。都市長だったものから頭が滑り落ちる。


「今この瞬間よりこのディートマル・デ・ロウウェルシュタインが指揮を取る。」


 先程の美少年とは思えない鋭い眼光でその場にいた全員の心を凍り付かせた。


「さあ、化け物退治と行こうか。」





「弾丸をもってきてくれ!!」


「擊ちまくれェッ!!!」


 横一列に並んだ銃手達が触手が生えた犬風な化け物を撃ち抜く。しかしそれは穴が空いている箇所から粘液を少し垂らすだけですぐに何も無かったかのように再生してしまう。


挿絵(By みてみん)


「バ、バケモノッ!!」


 男達が銃に球をこめようとした瞬間その犬のような化け物は一人の銃手に飛びかかる。

 男は頭と同化したそれから逃れようとのたうち回るが、少しするとその身体は完全に静止した。その命が絶たれたというのは誰が見ても明白だった。

 体感したことが無い恐怖に怯えた兵士たちは散り散りになって逃げる。しかし何処に行っても触手の犬達が道を塞いでいる。


 一人。また一人と先程の男と同じ運命を辿る。


 そして最後の一人。痩せた兵士が腰を抜かしてしまう。


 それが飛びかかろうとしたその瞬間。それは見事に真ん中から一刀両断され、男の左右へと落ちる。


「さあ、早く。こっちだ!」


 浅く湾曲した剣を持っているその髪の黒い女に誘導されるがままに走る。

 途中あのバケモノ達が何度も襲いかかってくるが女はそれを全て剣で撃退してしまう。


 必死に走っていると前に大きな即席の門が見えた。


「開けろ!!」


 女のその大声は合図なのか門がゆっくりと開いていく。

 兵士は全身全霊をかけてその少しだけ開いた門に飛び込む。その後に続いて例の女が、しなやかな身のこなしで門の中へと入ってきた。


 痩せた兵士は安堵する。自分の部隊と彷徨い続けたこの数日間の地獄がやっと終わるのだ。

 息を整えた男は周りを見回す。


 そこはまるで城砦のようだった。

 瓦礫やガラクタで作り上げられた壁は例のバケモノ達の侵入を許していないようだ。

 それに俺のような兵士達もいれば、他にも避難民らしき者や冒険者といった風体の者までいる。


 男はそれに驚きながらゆっくりと立ち上がる。


「まだこんなに生存者たちがいたとは・・・。」


 張られたテントに人が並んでいる。どうやら食料は配給制のようだ。


 男は黒髪の女に礼を言おうと振り返るがすでに彼女は何処かへと消えてしまったようだ。


「おーい。そこの人!新入りか!?」


 6メートルほど先に男と同じ軍服を着た男が立っていた。


「あ、ああ。」


 男はフラフラと歩きながらそこへ向かう。


「ここに名前を書いてくれ。あとこれ。配給券。そっちで食料と引き換えられるから。数が限られてるから考えて使うようにしてくれ。」


「こ、ここは一体?」


 受付らしき男が苦笑いする。


「ま、無理もないか。ここは俺たちにとって最後の希望。最終防衛ラインだ。冒険者達がこの騒動が始まった時に即席で作った要塞がコレだ。」


「最終防衛ライン・・・。」


 男は改めて周りを見回す。シュワルツシュタットの外壁を背中にして作られた即席要塞。急拵えにしては櫓が建っていたりバリスタがあったりなど防衛施設がしっかりとしている。

 それに。


 防壁の上に立った冒険者の魔術師達が火炎放射の呪文でバケモノを寄せつかないように攻撃している。


 防衛形態が成り立っている。いったいどんな有能な指揮官がここを運営しているのだろうかと男は考えた。


「ま、仕事は大量にある。仕事しながら慣れていってくれ。ほれ、取り敢えずはこれをあの大きな天幕まで運んでくれないか。」


 男は大量の紙を手渡される。


「頼んだぞ。」


 大きな天幕。たしかに中心には一際目立つ大きい天幕がある。

 郷に入れば郷に従えという。男は紙の束を抱えながらおぼつかない足取りで天幕へと向かった。

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