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隔離された島で忌まわしき者達に育てられた俺は本土では割と強いようです。  作者: シニスター
〜第二部〜ロウウェルシュタイン公国編
22/32

都市シュワルツシュタット

 あれからは特に何もなく、シュワルツシュタットに辿り着いた。


「昨日の夜は激しかったですね使徒様♡」


 訂正。


「ただカードゲームしただけだろう。」


「ええー。あそこであの大胆な選択は激しいとしか言い様が。」


「え、えっと、その、僕は。」


「何も言わなくていいアール。」


「尊い。」


「何だってアカツキ。」


「いえ。何でもありません。」


 想像以上にやばいメンバー達だった。


 俺がため息を吐くと、検問所での俺たちの番が回って来たようだった。


「シュワルツシュタットには何の用で。」


 御者の男ことダインが口を開く。


「私は商売で。こちらの方々はフリーランスの冒険者です。この街に連れてくる代わりに護衛を引き受けてくれたんですよ。」


「成る程。では交通許可証を。」


「交通許可証・・・ですか?そんなの前までは・・・!」


 衛兵がニヤッと笑う。


「ひょっとしてお持ちで無い?」


 事前の情報では街に入る時にはそんなもの必要ではなかったはずだが。


「宜しければ提供いたしましょう。良心的な値段でね。」


 衛兵は俺たちの身なりを見る。きっとカモれる相手だと判断したのだろう。とことん腐っている。


「・・・わかりました。いくらですか。」


 ダインが折れそうになるが、俺が前に出る。


「何ですか?あなたは。たかが冒険者が出しゃばると痛い間に合いますよ。」


 俺は衛兵の耳元で囁く。


「実は高価な物を持っていてな。それで大丈夫か?あまり周りには見られたく無い。」


「ほう、本当ですか?」


 衛兵が下衆な笑みを浮かべる。


「ちょっと向こうでいいか?」


 彼は他の衛兵に視線を向ける。どうせグルなのだろう。


「良いでしょう。」


 俺たちは近くにある休憩所と思われる小屋に入る。


「で、その高価な物とは?」


 衛兵が振り向く。


「ああ、これなんだがな。」


 手に少量の瘴炎を出して衛兵の口に押し付ける。


「ムグッ!!」


 そのまま彼は白目を剥いてふらふらと歩く。


「お通ししまぁす!はいはい!どうぞぉ!」


 素っ頓狂に叫ぶ男を俺は引きつつ見る。

 何度やっても不自然になってしまう。


「ありがとう。じゃあ通らせてもらうぞ。」


「はいッ!歓迎!歓迎!」


 何か違和感を感じて急いで駆け寄って来た他の衛兵にも同じように瘴炎を食らわせる。


「「歓迎!歓迎!」」


 二人は同じような顔をしてそう叫んだ。気持ちが悪い。


 どうやらここを担当しているのはこの二人だけらしいかなり都合が良い。

 俺は小屋を後にする。


「どうやら通してくれるみたいだぞ。」


「「歓迎!歓迎!」」


 俺達は遠くから聞こえてくる声に苦笑する。


「軍師殿。もう少し自然にはならないのですか。」


「これが限界だ。とにかく悪目立ちしないうちに街の中に入ってしまおう。」


 俺達はそそくさと街の中に侵入する。通報があったのだろう途中で衛兵達とすれ違う。


「これからはもっと気を引き締めろ。間違っても軍師殿とか使徒様とか呼ぶんじゃ無いぞ。」


「ゲルマ様は、だ、ダメでしょうか・・・?」


 アールが不安そうにそう言う。


「それは大丈夫だ。」


 俺は彼の頭を撫でる。よく手入れされているそれはとてもサラサラしていてまるで絹を触っているようで心地が良かった。


「使徒・・・ゲルマ様ぁ!!僕も!!僕もぉおお!!」


「うるさい。」


「アカツキぃ。ゲルマ様が虐めるぅ!」


「ふむ。放置プレイもそれはそれで尊い。」


 アカツキよ。お前ここ数日でどうしてしまったんだ。


「取り敢えずダイン。お前はスパイチームとの接触を図ってくれ。俺達はアリバイを作るために冒険者ギルドへと赴こう。」


「分かりました。では。」


 俺達はダインと別れて街の奥へと進む。


 辺りを回すと確かに倉庫が目立つ。物流都市の名は伊達ではないといったところか。

 至る所にも武器や防具。生活雑貨の工房らしきものがあり、ロウウェルシュタイン国内を流通するあらゆる品々がこの都市内で生産されているようだった。


 国境より北のこの位置は対ラテシア戦略においての兵站基地としても有用なはずだ。

 しかし、ラヴィアの台頭は予知できなかった。

 ロウウェルシュタインという国こんなにもシュワルツシュタットの都市機能に依存しきってしまっていては国内に生産力を分散させる困難を極めるだろう。


 実質王都より価値があると言えよう。


 それに。


 裏路地を覗くと、裏社会の構成員らしき人物がやつれた若者に何かを渡していた。


「違法薬物の流通。そしてそれを咎めない当局。」


 アルマフがそう呟く。


 そうだ。この都市自体が腐敗している。一見華やかなこの街だがその体制には膿が溜まりつつある。

 ロウウェルシュタインという国の膿がここに凝縮されていると言っても過言では無いのだろう。


「我々がここに秩序をもたらす。そう言う事ですねゲルマ殿。」


「ああ。しかし腐ってもロウウェルシュタインの重要拠点。街は石壁に囲まれているし、兵士たちの健康状態。装備も良い。」


 すれ違う兵士達は汚れ一つない鎧を着ており、栄養価の良い食事が与えられているのだろう。肥えている者までいた。


「ゲルマ様。やはり、この街は大当たりですよ。なんとしても僕達の手中に収めなければ。」


「ああ。」


「ヒック!おじょーちゃん。」


 後ろを見るとアールが酔っ払いのジジイに絡まれていた。


「あ、あのっ。僕はそういうのじゃなくてっ・・・!」


「金貨4枚あげちゃうから、一緒にいこーよー。ウィッ。」


 見かねた俺は。


「あのなぁ。じいさ。」


「テメー!ナメてんじゃねぇぞコラッ!!」


 アールはアニーへと変化してジジイにハイキックをお見舞いする。


「ゲブッ。」


 ジジイは泡を吹きながらそのまま地面へと倒れる。


「地獄に堕ちな。酔っ払いのクソジジイ。」


「・・・アニー。」


「ヘヘッ。久しぶりだなっ!ゲルマ。」


 俺は頭を掻く。


「よっ!アカツキ!アルマフっ!」


「あっ!久しぶりじゃん。アニー。元気してた〜?」


 どうやらアルマフはアニーの事を知っていたようだが。


「ゲルマ殿。これは一体。」


 俺は軽くアカツキに説明する。


「つまり一つの肉体に魂が二つ。それとも憑いているのですか?」


 アカツキがブルブルと震えだす。


 アニーは怯えたアカツキを見てニヤリと笑う。


「そうだぞ。俺は悪ーい幽霊なんだぜ?」


 アニー両手を広げ、アカツキに向かって走る。


「ひゃぁああっ!」


 アカツキは叫んで腰を抜かしてしまった。


「ヘヘッ。この仏頂面の美人中々可愛いとこあんじゃねえか。大丈夫だってとって食ったりしねえから。」


 アニーはアカツキに手を差し伸べる。


 彼女は不安そうに俺の顔を見る。


「大丈夫だ。彼女はその。無害じゃないけど無害だ。」


「どーゆーこったよ!ったく。」


「ふふっ。アール殿とはまた違った感じですね。」


 アカツキはその手を取って立ち上がる。


「しっかしゲルマっ。この街はひでぇな。反吐が出るぜ。」


 アニーは頭の後ろで手を組んでそう言った。


「で、どーすんだよ。ゲルマ。策はあんだろーな?」


「・・・正直、今回の大規模な軍勢では攻め落とせないな。」


「けっ。まっ、数でどーにかなんなら直接ここにくる意味もねーしなぁ。」


 やはり俺が直接力を振るうしかないのだろうか。

 しかし、毒炎を使おうにも瘴炎を使おうにも甚大な被害が出るだろう。出来るだけ都市機能を残しつつ攻め落とす方法はないものだろうか。


「ゲルマ殿。ギルドが見えて参りました。」


「ん、ああ。」


 正面に見えてきたのは、豪華な造りの建物だった。正門には盾を持った剣士とそれに対峙する獅子の紋章があしらわれている。


 俺たちは扉を開けてギルドへと足を踏み入れる。


「想像以上にふつーだな。」


 表の作りとは違って意外と慎ましくやっているようだ。中にいる冒険者チームの数も少ない。


 それに掲示板を見てもあまり依頼は舞い込んではいないようだ。


 取り敢えず受付に向かう事にする。


「いらっしゃいませ。ご登録ですか?」


 受付嬢は意外と地味な顔つきの子だった。だが上手に化粧をしておりそれなりに美人に見える。やはり受付とはこれぐらいの方が良いんだよな。


「ああ。1人を除いて俺たち3人で登録したい。」


 既にギルドへと加盟しているアールとアニーは取り敢えずここでは放っておく。


「んじゃー向こうで待ってるわー。」


 アニーはそう言うとベンチに向かって歩いて行った。


「はい。ではまず公国の方ですか?それとも外国の方ですか?見た目で判断させていただき失礼しますが皆様はロウウェルシュタインの人には見えませんね。」


 確かにこのメンバーはロウウェルシュタイン国内において中々異質だろう。

 だがそれがかえって。


「ああ。実は東のテグルス帝国からロウウェルシュタイン入りをしたばっかりでな。」


「なるほど。」


 テグルス帝国。隠れ蓑にはうってつけな多種族国家だ。


「ではまず軽く説明からさせて頂きますね。」


「頼む。」


「まずメリットから申し上げますね。」


 彼女は人差し指を立てる。


「冒険者登録をして頂くとまず、冒険者である証。このカードを差し上げます。各種割引制度や他国に行く場合の身分証明などなど。多岐にわたってご利用できますよ。」


「ふむ。しかしそれだけの恩恵。タダというわけでは無さそうだな。」


「そこがデメリットなんです。冒険者様には年に一度の更新義務が課されます。ここで冒険者様のランクに応じたお金を払って頂くことによって更新が完了になります。一日でも支払いが超過してしまうと即失効。冒険者では無くなってしまうので再度登録。手数料が発生します。」


 なるほど上手くできている。冒険者はランク分けされ、高ランクになればなるほど貰える金品が増加。それと共に支払い金額も上昇という訳か。

 これならば各国に冒険者制度が浸透するのも頷ける。


「といった風に色々義務も発生しますが、冒険者としての腕が確かなら全く問題無しです!」


「概ね理解した。早速登録させていただきたいのだが。」


「はい!まずはこちらにサインを。」


 受付嬢から紙を3枚受け取る。アカツキとアルマフに紙を渡して早速記入していく。


 フム。名前か。

 本名で登録など論外だ。俺は『タヌス』と記入欄に書き込み、それを彼女に渡す。


「ではこちらで登録を進めさせていただきますね。あちらにお掛けになってお待ちください。」


 俺達はアニーが待っているベンチへと向かう。


「ラクショーだったろ?」


「ああ。しかしこんなに緩くて本当に大丈夫なのか?」


「冒険者ってのはな。どっか暗い経歴がある奴らが多いんだよ。ま、金稼ぎの最後の砦ってとこだな。そんな死んでも困らねー奴らをタダ同然で扱えるってんだから身分を問わねーのさ。」


「そういうものなのか。」


 するとアルマフが腕に抱きついてくる。


「ということで、ゲル・・!」


 俺は急いでアルマフの口を塞ぐ。


「ここでは『タヌス』それが俺の名前だ。」


「タヌス・・・様?なんと良い響きでしょうっ♡んー好き好きッ!」


 アルマフが俺の腕に頬擦りする。


「私は『アケボノ』に致しました。」


 アカツキは冷静沈着にそう言った。


「ふーん。僕だって。『ファルダ』って名前にしたもんね!なかなか可愛い名前でしょ?どうですかッ?タヌス様!」


「あ、ああ。かわいいな。」


 アルマフはふぁーっと形容し難い叫び声を上げると、へなへなとベンチにもたれかかった。」


「きっと彼の許容範囲を超えた喜びだったのでしょう。」


「ああ。二度と可愛いとは言わん。」


 俺たちは互いの顔を見つめあって笑う。


 ひょっとしたらこのままのんびりと冒険者として暮らせる未来があったのかもしれない。だがこれはこの街を奪う為の一手間なのだ。そして未来へと繋がる一手間。

 タヌスという冒険者が現れる街は必ず。滅ぼす。

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