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隔離された島で忌まわしき者達に育てられた俺は本土では割と強いようです。  作者: シニスター
〜第二部〜ロウウェルシュタイン公国編
21/32

ロウウェルシュタインへ

「今年の出兵は大規模になりそうですな。」


 テラウトがそう言った。

 これまではラヴィアが統治する土地からの徴兵だったが今年は交渉の甲斐があってラテシアから兵を借りる事ができた。

 今回こそロウウェルシュタインの喉元に食らいついてみせる。


「ラテシアの兵達も続々とこのオデュッセアに向かってるようだよ。まっ!僕の交渉が上手くいったって事だよね〜。どうどう使徒様!僕有能?」


 アルマフが誇らしげに言う。

 実際アルマフがいなければこの話は纏まらなかったと思う。なので今回は素直に。


「アルマフ、良くやってくれた。俺にできる事ならば何でもするぞ。」


 するとアルマフは顔を赤くしながらモジモジし出す。


「どうか僕に使徒様の、お・・・。」


「ここは評定の場だぁ!」


 ラヴィアが顔を真っ赤にしてそう叫んだ。


「あれぇ?僕はまだ何も言ってないんだけどなぁ。」


「ぐっ!お前が言うことは全て危ないのだ。特にゲルマについてはな!」


「お二人ともそ、そこら辺に。」


「「うるさいっ!」」


 いや、そこは息が合わずとも・・・。


 ただ、この雰囲気は好きかもしれない。俺たちはいつまでこんな感じに冗談を言い合う事ができるのだろうか。


 俺がそう考え込んでいると、ラヴィアとアルマフは喧嘩を止めて俺を不安そうな目で見る。


「二人は仲が良いなぁ。」


「なっ!そんな事ないだろう!アルマフ!」


 アルマフはその言葉に合わせて頭をぶんぶんと縦に振る。


「フフ、アハハハハッ!」


 ついつい笑ってしまう。俺の反応に彼らはばつの悪そうな表情をする。


 そんなこんなで評定は何事もなく終わった。


 今回決定したのはロウウェルシュタイン公国の南に位置する大きな街、シュワルツシュタットに攻め込む事。

 援軍の頭数は4万である事だ。


 先立って斥候部隊を派遣することになったらしいが、俺はその隊長に立候補した。

 最初は反対されたが、軍師である俺が直接敵の街を見る事で都市の弱点を見つける事ができ、作戦の立案が容易になるだろう。

 それと同時にロウウェルシュタイン国内にスパイを複数人送り込む。これで次からは俺が直接出向かなくても都市の攻略が楽になる筈だ。


 それ故に最初の斥候は俺が直接行かなくてはならない。


 それほどこのシュワルツシュタットはこの戦争の要という訳だ。この街はロウウェルシュタイン国内の物流拠点になっている。国境付近に現れたラヴィアとその軍隊の存在によってもっと内地にそれを移そうとしているらしいが、いかんせん長年国がここに依存していたせいで難儀しているらしい。


 俺達はそれが完了する前に物資ごと街を頂く。


 数日後、準備を整えた後俺達斥候チームは街から出立した。


 メンバーは俺、アルマフ、護衛であるアカツキとその部下複数。スパイとして送り込む人員は後日現地で合流することになった。



ー ー ー



「しかし軍師殿。その顔は・・・。」


「ああ、これか?」


 出立する前にラヴィアが渡してくれた指輪を外す。


「どうやら上手く作動しているようだな。」


 俺の顔は瞬く間に鉄仮面へと変貌する。


真実の指輪(リングオブトゥルー)


 どうやらこれには着用者の素顔を周囲に見せる効果があるらしい。

 ただ常に素顔を晒しているラヴィアが持っていても特に使い道は無かったようなのであっさりと俺に渡してくれた。


 俺はまた指輪を嵌める。


「軍師殿がまさかそんな顔だったとは・・・。声からしてもっとお年を召して渋い方なのかなと勝手に想像しておりました。」


「ははは。そういえば君たちには歳を伝えてなかったからな。それも無理は無いか。」


「えへへ♡使徒様の素顔素敵です〜♡」


「お、お前は相変わらずだなアルマフよ。」


 無理矢理キスをしようとするアルマフを手で抑える。


「しかし他言無用で頼む。軍師がこんなに若いと思われると舐められる可能性があるからな。謎である方がまだ好都合だ。」


「承知!」


 アカツキは凛とした表情で答える。


「アルマフ。お前は。」


「勿論ですよ〜!僕達だけに見せてくれるという事は信頼の証っ!より一層の忠義を!」


 アルマフは頭を垂れる。


「そう言うの。いいから。」


「フフッ。何やら軍師殿は若返られましたね。何というか反応が年相応というか。」


 確かに。他人に素顔を晒せるという事はこんなにも心を開くという事なんだな。


「しかしシュワルツシュタットまで馬車とはいえ、15日程掛かるのか。俺の蟲さえ使えればもっと短縮できそうなものだが。」


「確かに時短にはなるでしょうが目撃されるリスクは何としても避けたいですね。それに。」


 ぶるっとアカツキが震える。十中八九彼女の虫嫌いが関係しているな。


「まあ、それには僕も賛成だね〜。早く着いちゃ味気ないよ。この旅はね・・・♡」


 アルマフが熱視線を送ってくる。お前の場合はまた別の理由だろう。


「あの、私が着いてきても宜しかったのですか・・・?その、皆様が楽しまれているのに邪魔じゃ無いですか・・・?」


 アルマフとはまた系統の違う可愛らしいその子がおどおどしながら言う。


「もお〜。アール。そうやって自分を貶す癖どうにかした方がいいんじゃないかい?」


「で、でも・・・。」


 また俯いて黙ってしまった。それならば。


「挨拶が遅れたな。俺はゲルマ。一応軍師をやっている者だが。」


「あ、あわっ、ぼ、僕はアール・アルベールと言いますっ!よ、よろしお願いします!」


「使徒様。彼は僕がスカウトしたんですよ。元シーガーズの一員で回復系魔法が得意なんですよ。確かこっちでは回復術士(ヒーラー)って言うんでしたっけ?」


「成る程。」


 俺は今一度彼の容姿を見る。


 全体的にはまだ幼さが残っている。おかっぱの髪は綺麗に切り揃えられていてとてもサラサラしていそうだ。

 夏の海よりも青く深い瞳は特定の趣味の人間が見たら惚れてしまうだろう。


「あ、あのぅ・・・。」


「し、使徒様っ!ひょっとしてぇッ!!惚れてしまったのですかぁ!?」


「軍師殿・・・。」


「い、いや違う!誤解だ!」


 冷たい目で俺を見るアカツキ。顔を真っ赤にして俯くアール。泣きそうな顔にになるアルマフ。

 この状況はカオスだ・・・。


「ゲルマ様ッ!」


 その時御者が大声で叫んだ。


「どうしたっ!」


 運転席と荷台に分けられている幌が捲られる。


「この先に人型の魔物がいます。」


 俺は御者の肩越しに遠くを眺める。確かに人型の何かがふらふらと道を歩いている。


 ここはヴァイヅァーサンドシュトランドの近く。恐らくは腐敗人(ゾンビ)だろう。

 よく戦場後の付近で出没するという。


「俺がなんとかする。ここで待機していてくれ。」


「はい。分かりました。」


 俺は馬車を降りる。


「共に参りましょうか?」


 アカツキはそう言うが俺は。


「いや。一人で大丈夫だ。それよりも付近を警戒しておいてくれ。他の腐敗人(ゾンビ)がいてもおかしくない。」


「承知。」


 俺は歩いて人影の元へ向かう。


「おい!お前!」


 それに話しかけるが特に反応は無い。ただフラフラと歩いているだけだ。


「止まらないと攻撃するぞ。」


 しかし尚もそれはフラフラと歩き続ける。


 俺は無言で毒炎を手から放出する。


『う゛あ゛あ゛う゛』


 やはり腐敗人(ゾンビ)か。それは暫く歩き回った後、塵になって消えていった。


 戦場跡には注意しないとな。今度聖魔法を使える神官を派遣して土地を清めてもらうか。


 そう思いながら馬車の方を見ると何やら人影に囲まれている。


「クソッ!罠か!」


 俺は背中から毒炎を出して馬車へと最速で飛んでいく。


 キンッ!カキンッ!と鉄と鉄がぶつかり合う音がする。


「オラぁっ!」


 俺はスピードを活かして御者と鍔迫り合いをしていた男の首を刎ねた。


「ゲルマ様ッ!ありがとうございます!」


「礼なら後だ!」


 アルマフは宙をクルクルと舞いながらシミターで複数人の男と渡り合っている。彼は問題ないだろう。

 アカツキも刀の間合いに入った者を最速の一刀で斬りつけている。


「アールは何処だ!?」


 俺は周りを見渡す。すると、短剣を両手で構えて震えている彼がいた。

 俺は急いで駆ける。



ー ー ー



「お嬢ちゃん。俺と遊ばねぇか?ヒヒ。」


「ち、近寄らないでくださいっ!」


「おうおう可愛いじゃねぇか。俺の物もお前を可愛がりたいってよ。」


 アールはぶるぶると震えている。


「いい加減そんなの振り回してんじゃねぇぞッ!!」


「あっ!」


 男は手に持っていた剣で彼の短剣をたたき落とす。


「ヒヒッ。ほんじゃまあ頂くとすっかな。」


 男はその細い手首をがっしりと掴んだ。


 アールは不敵な笑みを浮かべた。


「んなっ!なんだよォ〜!!」


 激しい痛みを感じた男はアールを掴んでいた手を離す。彼は急いで袖を捲るとその腕は表皮が無くなり筋肉が露出していた。


「俺に気安く触ってんじゃねぇぜ!このゲス野郎が!」


 先程の可愛らしい顔から一転、彼の顔は沢山の修羅場をくぐってきたかのような表情へと変わっている。


「やっ!やめてくださいぃ〜!命はッ!命だけはッ!」


 男はみっともなく地面に這いつくばって命乞いをする。


「てめー。俺を犯そうとした癖に自分が殺されそうになると命乞いかぁ?」


 アール?は頭をブーツでぐりぐりと踏みつける。


「お、お願いじまずっ!」


 彼はSっ気たっぷりの表情で笑う。


「駄目ぇ〜。オメーは死ぬんだよこのゲス野郎ッ!!」


「ひぶッ!」


 男は情けない声を出すと、ブーツで踏まれている頭を中心に融解していく。先ずは皮膚が溶けてその下の筋肉も溶けてしまいには骨と服だけになってしまった。


「ふう〜。ゲスが死んでいくのは気持ちいいなぁ。アール。」


「う、うんっ。アニー。」


 一瞬彼は元のあどけない少年の顔に戻ったが。すぐに例の顔へと変貌する。


「しょうがねえから暫くは俺が体の主導権を貰うぜ。」


 アールはそう言うと短剣を拾った。


 それをゲルマが唖然としながら見ていた。アールはそれと目があって固まってしまった。



ー ー ー



 お、おいおい。


 あの痛ぶりながら男を殺した苛烈さ。これが彼の本性なのだろうか。


「おうおう、お前がゲルマか。アールの目越しには見てたがやっぱフツーだな。」


「それが君の本性か。」


「違えな。俺はアールの・・・。話している暇は無いようだな。」


 周りを見渡すと男達に囲まれていた。


「こいつらを倒したら教えてもらうぞ。」


「へっ。死ぬなよッ!」


 彼は男の懐に飛び込むと手で触れ、一瞬で溶かしてしまった。


 俺も負けられない。


 ショーテルに瘴炎を纏わせると俺は敵を斬りつける。すぐに狂ったそれを放置して次々と敵を斬っていく。


「へっ!やるなっ!見た目通りの優男って訳じゃなさそうだな!」


「お前もやるじゃないか。まさか回復術士がこれ程とは!」


 左手を鞭状にして敵の胴体を薙ぐ。熱したナイフでバターを切るように胴体と下半身が分断される。


「気に入ったぜ!ゲルマッ!」


 アールは拳で男を殴り抜ける。それも例に漏れずぐずぐずになった肉が宙を舞う。


「に、逃げろっ!化け物だ!」


 一人の男がそう叫ぶと、他の男達もそれに釣られて一斉に逃げ出す。


「逃すわけねエェエだろォーーー!!」


 アールは落ちている骨を一人の男に投げつける。それは胸を貫いて男は斃れた。


 何という怪力だ。


 俺も逃げる男達へと次々に毒炎短剣を投げつける。それは俺の思う通りの軌道を描いて頭へと突き刺さっていく。


 最後の男が倒れる。


「ふぅ。やったなゲルマッ!」


 俺はアールとハイタッチをする。


「しかしアール。お前。そんな感じの性格だったとはな。」


「アールじゃねぇよ。俺はアニー。ま、アールの姉みてーなもんかな。」


「姉・・・?」


 アニーと名乗ったそれは顔を歪める。


「あっ!テメー信じてねぇな。」


「いや。あまりにも雰囲気が違うからにわかにも信じ難いというか。」


「まっ。アールはお前の事気に入っているみたいだし、許してやるがよ。おっと。アールに身体返さなきゃな。」


「アニーと呼んだ方がいいか?」


「女心が分かってねえなぁ。そんなのあったり前じゃねぇか。」


 うっ。身体はアールのものだから混乱する。


「ま、俺もお前の事は嫌いじゃねーよ。またな。ゲルマッ!」


 風が吹いてそのおかっぱの髪で一瞬アニーの目元が隠れる。


「ゲ、ゲルマさん・・・?」


 アール・・・なのか?


「あのぅ。その・・・。ごめんなさい。お姉ちゃんが何か無礼なこと、しませんでしたか?」


「いや。大丈夫だ。」


 やはりアールだ。このおどおどした感じはやはり演技ではないようだ。


「使徒様ぁ〜!!」


 遠くからアルマフが手を振りながら走って来た。


「大丈夫ですか!お怪我は!?」


 彼は遠慮なしに俺の体をベタベタと触る。


「ああーーッッ!!こんなところがッ!」


 アルマフが俺の股間を触りながらそう叫んだ。


「なんとっ!これは早く治療しないとぉー。たいへんだー。」


「あ、アルマフ様っ、ぼ、僕が治しますッ!」


「アルマフ、お前なぁ。アールも騙されるな。」


「えっ?怪我してないんですか・・・?」


 アルマフが舌を出して悪戯そうな表情を浮かべている。


「あっ・・・はわわわ。」


 アールは顔を真っ赤にして俯く。


「ははっ!騙されてやーんの!」


「・・・。」


 俺は無言でアルマフの頭にチョップを食らわせる。


「い、痛いです!使徒様ぁ。でもこれはこれで・・・♡」


 こいつ、俺が何をしようとも興奮するだろう。ど変態が。


「あの、宜しいですか?」


 振り向くとそこにはアカツキがいた。あのゴミでも見るかのような冷たい目だ。

 彼女は白目を剥いた男の首根っこを掴んでいた。



ー ー ー



 男を尋問した結果分かったのは、彼らはヴァイヅァーサンドシュトランドで敗れて盗賊になった元公国軍の兵士達らしい。

 今更オデュッセアに降る事はプライドが許さなかったのか、せめて被害を与える為に盗賊になったとのことだ。

 素直に降参すればラヴィアは許しただろう。だが俺は許さない。


 俺は男を殺すと他の死体と共に火葬する。腐敗人(ゾンビ)にならない為のせめてもの供養だ。


「軍師殿。灰は全て埋めました。」


「ありがとうアカツキ。」


「ゲルマ様。そろそろ。」


 御者が運転席に座りながらそう言う。


「行くぞ皆。いざシュワルツシュタットへ!」



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