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隔離された島で忌まわしき者達に育てられた俺は本土では割と強いようです。  作者: シニスター
〜第二部〜ロウウェルシュタイン公国編
15/32

オデュッセア解放戦

投稿まで長引いてしまいました!!お待たせして申し訳ないです!

「期間を設けよう。これより3日以内に開門しなかった場合は攻め落とす。いいか?」


「ええ。十分な猶予かと。」


「俺も賛成するよ。」


 作戦会議。その場にいる俺たち3人は頷き合う。


「軍人だ!軍人がいるぞ!!」


 天幕の外で叫び声が聞こえた。

 俺は天幕を出ようとするラヴィアを制して外に出る。


 そこには民兵により取り押さえられて地面に押し付けられている女軍人がいた。


「何用だ。」


 女は俺を睨みつけると。


「ラヴィア・ロウウェルシュタイン皇女に伝えなければならないことがある!御目通りを願いたい!」


「一応聞いてみよう。」


 俺は再び天幕の中に戻る。


「何事だ?」


「軍人がお前に用があると。」


「その者は怪しいか?」


 正直怪しくないと言えば嘘になるが、害悪を持った者がわざわざ軍服のまま来るとは思えない。

 本当に大事な用の可能性が高い。


「少々怪しいが話を聞くだけでも損はないと思う。」


「そうか。よしその者を連れて来い。」


 俺は再び天幕を出て民兵達に目で合図をする。民兵達は女を立たせると背中を小突く。女は前によろけて振り返って民兵達を睨む。

 どうやらこいつも勝ち気な女のようだ。


「すまないがそれは預からせてもらおう。」


 俺は瘴炎を触手のように出して腰に下げていた曲刀に巻き付けて俺の手に引き寄せる。


「んなっ!何を!」


「行くのか?行かないのか?」


「くっ。」


 女はそう呻くと俺について天幕に入る。


「連れてきたぞ。」


 女は天幕に入った途端に敬礼をする。


「キョーコ・アカツキ海曹長!ラヴィア・ロウウェルシュタイン皇女殿下に直ちに伝えることがあり参上仕りました!」


 ラヴィアは敬礼に簡易的に応えると。


「その伝えることとは何事だ?」


 キョーコ・アカツキと名乗ったその女は事の顛末を話し出した。


 駐屯地内では意見が真っ二つに分かれており、抗戦派と恭順派がいること。この女は恭順派であること。

 抗戦派達のリーダー。リヒターなる者が強硬手段に打って駐屯地司令を人質に取ったこと。


 一通り聞いた後ラヴィアは静かに目を閉じた。


「エルンスト。お前はどう思う?」


「姫様のお望みのままに。」


 ラヴィアは呆れながら。


「お前はそう言うと思った。」


 そのまま俺はと視線を向ける。


「ならばゲルマ。お前はどうだ?」


 俺は。


「今すぐに攻めるべきだ。どうやらその抗戦派は論理が通じる相手ではないと思うし、放っておけば恭順派の兵士たちを処刑しかねないだろう。それに今回恩を売っておけば我々の軍勢が強化される筈だ。」


「そうか。理にかなっているな。私もそう思っていたところだ。」


 ラヴィアは女軍人を見つめる。


「では直ちに行動を開始する。アカツキ曹長。私のために働いてもらうぞ。」


「承知!」


「ゲルマも暴れていいぞ。但し程々にな。」


「分かった。」


 俺たちは天幕を出る。


「そう言えばこれを返さないとな。」


 曲刀をアカツキという女に渡そうと差し出すが。


「ふんっ。」


 彼女は奪い取るように曲刀を手に取った。

 ひょっとして嫌われてしまったのか?


「兵達よ!戦支度をせよ!今より駐屯地を包囲。攻め落とすぞ!!」


「「おおーーーっっ!!!」」


 寄せ集めだが兵士は兵士。それぞれが革鎧を着たり槍を手に持ったりしてお互いを鼓舞し合う。


「ゲルマ。門を破れるか?」


「問題ないと思う。」


「では行くぞ!」


 ラヴィアがそう叫んだ。

 それを聞いた俺は毒炎を身に纏い空を飛ぶ。そして心の中で念じて飛行する蟲達を呼び寄せる。


「敵達を蹂躙せよ!しかし縛られていたり閉じ込められたりしている者は攻撃するな!」


 蟲達は一斉に駐屯地に向かって飛んでいく。


 俺もそれに続き自分を毒炎の隕石となし駐屯地の門に突撃する。

 地面がどんどん近寄ってくるがこの速度ならばしっかり破壊できるだろう。俺はその場で止まり身に纏っていた毒炎を全て門へと放出する。


 ドガンッ!!と大きな音がすると門と一部の壁が崩れる。


 俺はそのまま毒炎で勢いを殺しながらゆっくりと地面に降り立つ。そして背中に背負っているショーテルを引き抜く。


「行くぞっ!!」


「「おおーーーっっ!!」」


 背中から兵達が走ってくる。俺も走る。


「と、止めろっ!!奴らを止めるんだ!!」


 戦列を組んだ歩兵たちが槍を構えて待ち受けている。俺はそれに向かって毒炎を投げつける。着弾点の者は炭と化し周りにいた数人が吹き飛んだ。


 俺はそこにできた穴に向かって走る。俺が通り抜けた後後ろで兵士たちがぶつかり合う音が聞こえた。


「ここは通さん!!」


 待ち構えていたのは2mを超えるであろう体躯を持った大男。両手にはファルシオンを持っていた。かなりの手練れであろう雰囲気に一瞬圧倒されるが左手に毒炎盾を形成して構える。


「戦魔術師か!面白い!」


 大男は体に風を纏い飛び掛かってくる。想像以上に速いっ!


 両手で振り下ろされるファルシオンを盾で防ぐがあまりの勢いに盾が真っ二つになり地面に落ちる。俺はその刃が腕に届く前にバックステップで距離を取る。

 毒炎盾だったものが地面で二つの小さな炎になって燃えている。


「この"盾割りのヴィンヘイム"!血湧き肉躍るわ!!」


 また風を纏い飛び掛かってくる。今度は両手を交差させている。斬り開くような斬撃を行うようだ。

 俺は盾なしでショーテルを構える。


「ほう!盾無しで挑むか!面白い!」


 大男はまたもや飛び掛かってくる。

 俺はそれに合わせて前へと走る。そしてスライディングをしながらショーテルを前方に構える。そして男の脚を斬る。しかし角度が浅かったようで切断には至らなかった。


「やるなぁ。ならば!うっ!」


 大男が毒炎に包まれる。

 仕込ませていた甲斐があった。破られた毒炎盾を地面に這わせて忍び寄らせていたのだ。

 卑術ここりありだ。


 大男は叫びながらその場に倒れ込む。


 俺はそれに一礼すると、一際大きな建物に向かって走る。


「止めろっ!」


 行手を塞ぐ敵を次々にショーテルで切り刻んでいく。


「銃兵!構え!放て!」


 その声が聞こえた途端ズドンッ!というような轟音が辺りに鳴り響く。


 飛んできた何かが俺の左肩を直撃する。


「ぐっ!」


 右手で衝撃があった部分を触ると血が流れている。


 俺は銃兵と呼ばれたその存在を見る。

 横に一列になって手に持った鉄の筒のようなものに何かを詰めている。

 しかし認識さえしてしまえば!


 俺は毒炎をビーム状にして横に薙ぎ払う。するとたちまち銃兵達は炎の中に消えて行った。


 しかしあの銃というもの。反応が間に合わなかった。これは今後使えるかもしれない。


 俺は傷口に指を入れる。


「ッ!」


 中に感じる鉄の塊のようなそれを指でほじり取る。

 これを放っているのか。どうにも見えない訳だ。

 俺はそれをポイッと投げ捨てると毒炎で傷口を焼く。これで大丈夫だろう。


「大丈夫か。」


 後ろからアカツキら一部の兵士達が合流してきた。


「ああ。これぐらい大丈夫だ。」


 後ろを見るとまだ民兵達は門のすぐ内でもみくちゃの乱戦になっていた。


「あの建物で合っているか?」


「ええ。間違いない。あの中にいる筈。」


 先ほど俺が走って行った建物。どうやら間違いはなかったようだ。


「行くぞ。」


「承知。」


 俺は毒炎で槍を作る。それを固く閉ざされた扉に向かって投げる。それは容易く刺さり燃え広がって扉は焼失した。


「突撃!!」


 俺は毒炎短剣を形成する。飛び出してきた兵士に飛びかかり馬乗りになる。そしてそのまま首を掻き切る。


 横では彼女が面白い剣術で敵を倒していた。一々鞘に曲刀を納め、引き抜く時に力を入れて敵を一刀両断にしている。非常に興味深い。

 

 俺は彼女の後ろから飛びかかろうとしていた兵士に向かって毒炎短剣を投げる。それは頭に命中。

 彼女は俺に向かって目を合わせて軽く頷く。

 俺はそれに頷き返して、建物内へと侵入する。


「撃て!!」


 吹き抜けになっている二階から銃兵が攻撃してくるが今度は盾を生成して弾を塞ぐ。

 しかし仲間の複数人には命中してしまったようだ。


 銃兵が再装填している間、敵が走ってくる。

 どうやら時間稼ぎをして銃兵を攻撃させないようにする工夫のようだ。だが。


 手すりに向かって鞭を巻きつけそのまま自分自身を引き上げる。


「こ、殺せ!!」


 俺は手すりを乗り越えてショーテルで敵を斬りつける。俺の接近に銃兵達は銃を投げ捨てて腰に下げていた剣や短剣を引き抜く。


「食らえ!」


 投げてきた短剣を手甲で弾く。俺は手から毒炎を針状にして前方に放出する。

 体中針に貫かれた兵士達はその場に倒れる。


 下を見るとどうやら制圧は完了している模様。俺はとりあえず奥へと進んで行く事にする。


 廊下を歩いていると突然ドアが開いて4人の兵士たちが出てくる。

 ショーテルを横に薙ぎ払い二人を一刀両断する。それを見た兵士は雄叫びを上げるとサーベルを叩きつけるように降ってくる。それをショーテルで受け止めて巻き付けるようにしてサーベルを手から奪い取って左手で持つ。


 武器を失った兵をサーベルで袈裟斬りにする。


「この野郎!!」


 俺は敵の剣撃を躱しサーベルで腹を刺す。そしてポメル(柄頭)の部分を足の裏で蹴ってより深く突き刺す。


「大丈夫か!?」


 アカツキと少数の兵がやってくる。


「問題ない。で、捕虜がいそうな場所は?」


「この先の会議室だと思うが。きっと人質に使われる。」


「俺に考えがある。乗ってくれるか?」


「是非も無い。して、その考えは?」


「よし。ではまず・・・。」



ー ー ー



〜会議室〜


「ええい!外はどうなっているのだ!」


 リヒターが叫ぶ。

 会議室の中まで剣同士がぶつかり合う金属の音が聞こえてくる。すると扉を開けて伝令の兵士がやってきた。


「報告します!敵が押し寄せ我らの軍勢が劣勢の模様です。」


「クソッ!新兵器の銃を使ってもこのザマか!」


 リヒターが机を叩く。そして隣で縛られている男を下衆な笑みを口に浮かべながら見た。


「シュウドウ准尉。交渉材料になってもらうぞ。」


「くっ・・・。」


 その瞬間大きな音が響き会議室のドアが破られた。


「シュウドウ准尉!」


「アカツキか!!」


「黙れッ!」


 リヒターはシュウドウの首にナイフを当てる。


「それ以上近づけばこの男の命は無いぞッ!」


「准尉ッ!」


「構わん!俺が殺されようともコイツを殺してくれ!」


 リヒターはシュウドウの後頭部を殴る。


「交渉だ。曹長。私の命を補償するならばコイツを見逃してやろう。お前はただ見逃すだけでいい。」


「少佐!我々は!!」


 近くにいた兵士が反発する。


「ええい!黙れ!貴様ら雑兵などここで死ねッ!!」


 リヒターは笑みを浮かべる。


「さあ、どうする?」


「お前は物事を有利に進めたと思っているが勘違いをしている。」


「何だと?」


 その瞬間窓が割れて鎧の男が中に入ってきた。手には何やら緑紫色に光る縄のようなものを持っていた。

 リヒターはそれに気がつくとシュウドウの首をナイフで切り裂こうとしたが、次の瞬間。自分の右手首から先がない事に気がついた。


「ぎゃああああ゛あ゛あ゛あ゛」


 リヒターは自分の右手を押さえながら蹲ることしかできなかった。


 アカツキがシュウドウの手首に巻かれていた縄を切る。


「終わりだ。リヒター・ベリッツ少佐。」


「はぁ・・・。はぁ・・・。認めんッ・・!認めんぞッ・・!私にはまだ為すべき事があるのだ!約束された未来がッ!」


 鎧の男が地面を這いずるリヒターの後頭部を力強く踏む。


「これでお終いだ。そうだろう?」


 鎧の男はさも当たり前かのようにそう言った。



ー ー ー



「何だ?何だと・・・いうのだ・・・?」


 リヒターは目を覚ますと木に磔にされていた。


「人殺し!!」


「悪魔め!」


 人々が自分を罵り手に持ったトマトや卵を投げてくる。


「やめないか!!」


 民衆の間から出てきたその人物には見覚えがあった。

 その勝ち気な瞳。王族のくせにお高くとまってない表情。武人然とした立ち振る舞い。


「これはこれは、皇女殿下ではありませんか?祖国を裏切った魔女のお出ましとは。」


「そういう貴様はリヒター・ベリッツ少佐。必死に王族にゴマをすっていた犬だな。」


 ラヴィアはフッと鼻で笑うと振り向いて市民達に向かって話しかける。


「この男はしっかりと裁かなければならない!法を犯し上官を謀った罪でな。」


「何を今更。このような事は一方的な処刑ではないかッ!!」


 ラヴィアはその言葉を無視する。


「民達よ!この男にはどのような刑が相応しいか!」


「「死刑!!死刑!!死刑!!死刑!!」」


 民達が声を揃える。リヒターは悟った。もはや自分が生き残る道は無いのだと。


「お前達の気持ちはわかった!判決を言い渡そう。」


 リヒターは既に目を閉じていた。自分の運命を受け入れる覚悟ができているようだった。


「貴様を追放処分とする。」


 その場にいた全員が驚いた。無論リヒターはその数倍驚いただろう。

 腕を組みながら壁に寄っかかっていた鎧の男だけはそのチェーンのベールの下で笑みを浮かべてはいたが。


「後悔するぞ!ラヴィア皇女!私を殺しておけばと!」


「もう良い。コイツをつまみ出せ!」


 民兵達は困惑しながらもリヒターの縄を解いて脇を抱えながら街の外へと向かっていった。


「必ず殺してやる!必ずだ。」


 その怨嗟の声は遠ざかっていった。


「奴の国を想う気持ちは本物だった!敗軍の将としては見事だろう。あの時命乞いしようものなら直ちに処刑していた。だが軍人として尊敬したかったのだ。奴をな。」


 市民達は感嘆した。ラヴィアの器の大きさに。彼女ならば全てを変えてしまうのだろうと。


「「ラヴィア皇女!ラヴィア皇女!ラヴィア皇女!」」


 民達は顔に笑みを浮かべながら声を揃えた。

 ラヴィアは誇らしい顔をしながら手を挙げて民達の声に応えていた。


 鎧の男は寄りかかっていた壁を後にするとそのまま路地裏へと消えていった。

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