現実世界ってほんと思い通りに行かないこと多いよね
「おい、さっさと座れよ!とっくに授業始まってるぞ!」
教室に俺の怒鳴り声が響き……渡らない。
教室の喧騒に虚しくかき消される。
「あーくそっ!やられた!」
「ギャハハハハ。また俺の勝ちー。」
「ねー、このリップマジ可愛くない?」
「え、ヤバイ。マジ可愛い。新色?」
明るい髪色のピアスをたくさんつけたヤンキー集団はゲームに夢中になって騒ぎ、髪の毛を巻きに巻いたギャル達は机の上に出した鏡に向かってお化粧をしながらおしゃべりに精を出す。
「おい、お前らもうゲームしまえって。君らも化粧やめよう。はい、教科書出して。」
「せんせー、教科書捨てたかもー。」
「俺も俺も。もう授業やめとこうぜー。ギャハハ。」
「あのなー…」
「はあー…とりあえずゲームしまってくれ。」
「はい、教科書ある人は43ページ開いて!ここの5行目から今日はやっていきます。まず前に書く内容をノートに写してください。」
「でさー…」「マジ?…」「ギャハハ…」
俺の声はまたしても喧騒にかき消されていく。
「はあー…」
俺は大きなため息をつきながら、黒板に字を書く。
俺は南総司。公立高校の国語教師だ。
俺の勤務する学校はいわゆるヤンキー校と言われるような学校で、今までにまともに授業ができたことは数えるほどしかない。いや、0かもしれない。…たぶん0だ。
授業時間以外も、ケンカ、ガラスを割る、タバコや万引き、などなど生徒の起こす問題に振り回される日々を送っている。
やりがい?そんなものは、ほぼ無いね。そりゃ嬉しいこともたまーーーにはある。でも、毎日毎日言うことを聞かない生徒と格闘する日々で、心がすり減ることばっかりだ。
ーープシュッ
「ゴクゴクゴク、ふーっ。あー…今日も疲れたー。」
1日がようやく終わり、俺は家に帰ってビールを開ける。
「あー、マジ疲れる…」
「明日も学校…」
「…行きたくないなあ…」
目の前のトラブルに一杯一杯の日々だが、たまにふと、ものすごく虚しくなる時がある。
今がまさにその時だ。こう言う時は考え過ぎると、どんどん悪い方向に行ってしまう。
「ダメだ、ダメだ、考えるな。動画でも見よう。」
俺はスマホを手に取り、動画アプリでお気に入りの配信者の新作動画を見始める。
少しすると、動画の途中で広告動画が流れ始める。
いつものことなので、俺はボーッと画面を眺めていた。
「人生を変えるアプリです。このアプリであなたの現実世界がソシャゲの世界に様変わりします。現実世界に飽き飽きしている、もしくは現実世界が嫌なあなた、ぜひダウンロードしてみてください。」
見たことの無い広告動画だった。いつもなら、無視してスキップしていただろうが、その時の俺はやっぱり精神的にまいっていたのだろう、画面の「ダウンロード」と書かれた所をいつの間にかタッチしていた。
すると、画面が明るく光り出した。徐々に明るさは増し、眩しくて直視できないほどになった。
その光のせいか、意識が遠のいていく気がした。
「えっ、何これ?えっ、ウィルスだったのかな?」
慌てて俺はスマホの電源を切ろうとしたが、その前に俺は意識を失ってしまった。