表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代のRPG - Continue! -  作者: 琴救(きんぐ)
8/8

save2 ⑧―新しい冒険の書を作ってください


「ここにいたのかよ、本郷さん。」

 富士宮フロンティア高等学校、略して"FF校"には一風変わった部活動が存在する。

 それはRPG部、"変人揃いで危ない"という噂が流れる謎だらけの場所。俺、御器所 武は半年近く、この部活でハチャメチャな生活を送り、一つだけわかったことがある。


 ここにだって、確かに"青春"がやって来る――。


 周囲の人にどう思われようと、自分の好きなことを貫ける居場所がここなのだと俺は知った。それを教えてくれたのがヘンテコで、ゲーム脳で、自称"勇者"と名乗る彼女だった。

「らしくないよ。そんなとこで、うずくまって。」

 一人で戦っていた彼女を、俺はあちこち探し回ってようやく見つけ出した。盗撮の現場であるテニス部や体育館、生徒会室。思えば、最初からここへ来ればよかったのだ。

 RPG部の部室。俺達はいつだってここに集まるのに。

「……新人戦士には関係ねぇし。」

 膝を抱えてイスに据わっている本郷さん。きっと、彼女も必死で聞き込みをしていたのだろう。テニス部の人達の話によると、揉めてばかりいたようだが。

「本郷さんがそんな調子だと、俺達だって困るんだよ」

「うるせえ! 何も知らねぇくせに!」

 そうだ、俺には知らないことが多い。鶴舞さんがこの部活に入部した理由も、先代勇者のことも。活動内容だって、ここ2ヶ月でやっと判明した。

「なら、教えてくれよ。」

 本郷さんは半べそをかきながら、俺を睨んだ。そして、ゆっくりと口を開いた。

「祐樹さんは、姉貴の言いなりだった私に勇気をくれたんだ。なのに、悪く言われるなんて許せるかよ!」

 憧れの人を守りたい。その一心だったのか。俺と同じだな。俺だって、鶴舞さんの悪口を言う奴らは許せない。

「だったら尚更、今の本郷さんを祐樹さんが見たら、こう言うんじゃないのかな」

 俺は先代勇者と面識がない。だけど、みんなが話してくれた彼はたぶん、俺が知る本郷さんのような人ではないだろうか。

「"君は勇者なんだぞ"、て。」

 少し、偉そうだったろうか。彼女の心に、このメッセージが届くといいな。

 本郷さんはうつむいたまま、立ち上がった。反って、怒らせてしまったかもしれない。

「そこ、どいて。新人戦士。」

 部室のロッカーへ向かい、何やら取り出そうとしていた。ガサゴソと、国語13点や数学7点と書かれたテストの答案用紙、ゲーム機などの私物をどかしていく。

 ついに探し物を見つけたらしく、それを天高く掲げた。


 "勇者の剣(笑)"


「……いよぉし!」

 竹刀を片手にし、彼女の魂に火がついた。

「私が魔王の手下を退治してやんよ!」

 声高らかに叫ぶ姿はまさに、勇者そのものだった。盗撮犯を魔王の手下と呼ぶのはどうかと思うが、それでこそ本郷さんだ。破天荒で、無根拠な自信に溢れている。時には迷惑もかけるが、それが何だ。

 どんな時も、元気にはしゃいでしまえばいい。

「……勇渚ちゃん?」

 鶴舞さんが部室に駆けつけた。いつもの本郷さんの勇姿を見て、安心したようだ。晴れやかな笑顔が眩しいです。

「ちょうどいいところに来た、とおみん。一緒に行こうぜ!」

「うん!」

 鶴舞さんも竹刀は持ち、"剣道小町"状態となる。

「えい、えい、おー!!」

 二人は息を合わせ、(とき)の声を上げた。本郷さんが校内を暴れ回らないか心配であるが、今回は大目に見よう。せっかく、勇者が復活したのだから。

 三人で部室を出ようとする。パーティーメンバーは揃った。残る問題は祐樹さんの疑いを晴らすことだ。


 それも自ずと解決へと向かうのであった――。


 本郷さんが誰かとぶつかる。部室へ訪れたその人物を見て、俺は思い出した。まだ、知り合いがいたことに。

 車道 組華、最後の幽霊部員にして職業は"武闘家"。泥団子制作に夢中な後輩である。

 車道さんは俺が手に持つビデオカメラを見つめ、驚く。

「あー、ようやく見つけたー!」

 これはいったい、どういうことだろうか。彼女は俺の手から"祐樹"の名前が記されたビデオカメラを取った。

祐兄(ゆうにい)に叱られるところだったよー。」

 説明して下さい。俺達は完全に混乱魔法をかけられていた。

「……もしかして、それをテニス部に置いたのって車道さん?」

「そうだよー。泥団子がどれだけ弾むか、ビデオに収めようとしたら、テニス部に助っ人頼まれちゃってさー。帰って来たら、ないんだもん。びっくりだよー。」

 つまり盗撮ではなく、ただの臨時置きだったということか。いや、まだ腑に落ちないことがあるぞ。

「……この祐樹さんと君の関係は?」

「兄妹だよー。」

 車道さんに詳しく聞いてみると、ビデオカメラは兄から借りた物のようだ。彼女がRPG部に入ったのは元々、兄に頼まれたのがきっかけだった。祐樹さんと連絡がつかないのは、世界中を冒険しに旅へ出ているからだそうだ。

「今頃はオーストラリアにいるんじゃないかなー。エアーズロックの写真が昨日、届いたしー。」

 彼は写真家になって、世界を転々としているらしい。先代勇者は大きな夢を持つ人だった。

「見つけてくれてありがとー、御器所 先輩。じゃあねー」

 車道さんは手を降って、その場を後にした。俺達は呆然と彼女を見送ることしか、できなかった。

「……」

 返事がない。ただの無駄骨だったようだ。

 何はともあれ、一件落着!


 その後、俺達は本郷 真緒 生徒会長に事の真相を告げ、車道さんの証言もあり、RPG部の廃部は免れた。日比野 先生はクビにならず、泣いて喜んだ。栄 智和 先輩は俺達に「よくやった。」と褒め、振り返ることなく"賢者モード"になるため部室を出て行った。後日、茶屋ヶ坂 遊さんにも電話で騒動の顛末を話したら、大笑いしたそうだ。

 ――季節は移りゆき、"魔王"様や先輩"賢者"、"裏ボス"様は卒業し、その称号を別の人へと譲った。

 栄 先輩は本郷 元生徒会長と同じ大学へと進学。RPG部にもたまには顔を出すと言っていた。

 妙音通 蒼真 先輩は名残惜しそうに竹刀を次代の風紀委員長に手渡した。どこへ行っても彼の性癖は変わらないだろうけど、その背中はかっこよかった。


 そうして春、俺達はいつも通り部室へ集まっていた。今日は新入生が登校する日だ。もちろん、俺達がやることは一つ。

「部屋を暗くする意味あるのかよ、本郷さん。」

「バッカ、その方が雰囲気があるからじゃん!」

「勇渚ちゃん、武くん。来たみたいだよ。」

 また、ゼロから始めよう。先輩達がいなくなって寂しくもあるけど、その分、新しい出会いが待っているはずだ。

 今度は君の番かもしれない。人生の主人公は自分なのだから、どんな方法でだって、楽しめばいいのだ。

 さあ、どこまでも広がる青春の物語へようこそ。お気軽に入部届けを出して欲しい。

「せーの、冒険の書を作って下さい♪」


 Their story continues……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ