save2 ⑧―新しい冒険の書を作ってください
「ここにいたのかよ、本郷さん。」
富士宮フロンティア高等学校、略して"FF校"には一風変わった部活動が存在する。
それはRPG部、"変人揃いで危ない"という噂が流れる謎だらけの場所。俺、御器所 武は半年近く、この部活でハチャメチャな生活を送り、一つだけわかったことがある。
ここにだって、確かに"青春"がやって来る――。
周囲の人にどう思われようと、自分の好きなことを貫ける居場所がここなのだと俺は知った。それを教えてくれたのがヘンテコで、ゲーム脳で、自称"勇者"と名乗る彼女だった。
「らしくないよ。そんなとこで、うずくまって。」
一人で戦っていた彼女を、俺はあちこち探し回ってようやく見つけ出した。盗撮の現場であるテニス部や体育館、生徒会室。思えば、最初からここへ来ればよかったのだ。
RPG部の部室。俺達はいつだってここに集まるのに。
「……新人戦士には関係ねぇし。」
膝を抱えてイスに据わっている本郷さん。きっと、彼女も必死で聞き込みをしていたのだろう。テニス部の人達の話によると、揉めてばかりいたようだが。
「本郷さんがそんな調子だと、俺達だって困るんだよ」
「うるせえ! 何も知らねぇくせに!」
そうだ、俺には知らないことが多い。鶴舞さんがこの部活に入部した理由も、先代勇者のことも。活動内容だって、ここ2ヶ月でやっと判明した。
「なら、教えてくれよ。」
本郷さんは半べそをかきながら、俺を睨んだ。そして、ゆっくりと口を開いた。
「祐樹さんは、姉貴の言いなりだった私に勇気をくれたんだ。なのに、悪く言われるなんて許せるかよ!」
憧れの人を守りたい。その一心だったのか。俺と同じだな。俺だって、鶴舞さんの悪口を言う奴らは許せない。
「だったら尚更、今の本郷さんを祐樹さんが見たら、こう言うんじゃないのかな」
俺は先代勇者と面識がない。だけど、みんなが話してくれた彼はたぶん、俺が知る本郷さんのような人ではないだろうか。
「"君は勇者なんだぞ"、て。」
少し、偉そうだったろうか。彼女の心に、このメッセージが届くといいな。
本郷さんはうつむいたまま、立ち上がった。反って、怒らせてしまったかもしれない。
「そこ、どいて。新人戦士。」
部室のロッカーへ向かい、何やら取り出そうとしていた。ガサゴソと、国語13点や数学7点と書かれたテストの答案用紙、ゲーム機などの私物をどかしていく。
ついに探し物を見つけたらしく、それを天高く掲げた。
"勇者の剣(笑)"
「……いよぉし!」
竹刀を片手にし、彼女の魂に火がついた。
「私が魔王の手下を退治してやんよ!」
声高らかに叫ぶ姿はまさに、勇者そのものだった。盗撮犯を魔王の手下と呼ぶのはどうかと思うが、それでこそ本郷さんだ。破天荒で、無根拠な自信に溢れている。時には迷惑もかけるが、それが何だ。
どんな時も、元気にはしゃいでしまえばいい。
「……勇渚ちゃん?」
鶴舞さんが部室に駆けつけた。いつもの本郷さんの勇姿を見て、安心したようだ。晴れやかな笑顔が眩しいです。
「ちょうどいいところに来た、とおみん。一緒に行こうぜ!」
「うん!」
鶴舞さんも竹刀は持ち、"剣道小町"状態となる。
「えい、えい、おー!!」
二人は息を合わせ、鬨の声を上げた。本郷さんが校内を暴れ回らないか心配であるが、今回は大目に見よう。せっかく、勇者が復活したのだから。
三人で部室を出ようとする。パーティーメンバーは揃った。残る問題は祐樹さんの疑いを晴らすことだ。
それも自ずと解決へと向かうのであった――。
本郷さんが誰かとぶつかる。部室へ訪れたその人物を見て、俺は思い出した。まだ、知り合いがいたことに。
車道 組華、最後の幽霊部員にして職業は"武闘家"。泥団子制作に夢中な後輩である。
車道さんは俺が手に持つビデオカメラを見つめ、驚く。
「あー、ようやく見つけたー!」
これはいったい、どういうことだろうか。彼女は俺の手から"祐樹"の名前が記されたビデオカメラを取った。
「祐兄に叱られるところだったよー。」
説明して下さい。俺達は完全に混乱魔法をかけられていた。
「……もしかして、それをテニス部に置いたのって車道さん?」
「そうだよー。泥団子がどれだけ弾むか、ビデオに収めようとしたら、テニス部に助っ人頼まれちゃってさー。帰って来たら、ないんだもん。びっくりだよー。」
つまり盗撮ではなく、ただの臨時置きだったということか。いや、まだ腑に落ちないことがあるぞ。
「……この祐樹さんと君の関係は?」
「兄妹だよー。」
車道さんに詳しく聞いてみると、ビデオカメラは兄から借りた物のようだ。彼女がRPG部に入ったのは元々、兄に頼まれたのがきっかけだった。祐樹さんと連絡がつかないのは、世界中を冒険しに旅へ出ているからだそうだ。
「今頃はオーストラリアにいるんじゃないかなー。エアーズロックの写真が昨日、届いたしー。」
彼は写真家になって、世界を転々としているらしい。先代勇者は大きな夢を持つ人だった。
「見つけてくれてありがとー、御器所 先輩。じゃあねー」
車道さんは手を降って、その場を後にした。俺達は呆然と彼女を見送ることしか、できなかった。
「……」
返事がない。ただの無駄骨だったようだ。
何はともあれ、一件落着!
その後、俺達は本郷 真緒 生徒会長に事の真相を告げ、車道さんの証言もあり、RPG部の廃部は免れた。日比野 先生はクビにならず、泣いて喜んだ。栄 智和 先輩は俺達に「よくやった。」と褒め、振り返ることなく"賢者モード"になるため部室を出て行った。後日、茶屋ヶ坂 遊さんにも電話で騒動の顛末を話したら、大笑いしたそうだ。
――季節は移りゆき、"魔王"様や先輩"賢者"、"裏ボス"様は卒業し、その称号を別の人へと譲った。
栄 先輩は本郷 元生徒会長と同じ大学へと進学。RPG部にもたまには顔を出すと言っていた。
妙音通 蒼真 先輩は名残惜しそうに竹刀を次代の風紀委員長に手渡した。どこへ行っても彼の性癖は変わらないだろうけど、その背中はかっこよかった。
そうして春、俺達はいつも通り部室へ集まっていた。今日は新入生が登校する日だ。もちろん、俺達がやることは一つ。
「部屋を暗くする意味あるのかよ、本郷さん。」
「バッカ、その方が雰囲気があるからじゃん!」
「勇渚ちゃん、武くん。来たみたいだよ。」
また、ゼロから始めよう。先輩達がいなくなって寂しくもあるけど、その分、新しい出会いが待っているはずだ。
今度は君の番かもしれない。人生の主人公は自分なのだから、どんな方法でだって、楽しめばいいのだ。
さあ、どこまでも広がる青春の物語へようこそ。お気軽に入部届けを出して欲しい。
「せーの、冒険の書を作って下さい♪」
Their story continues……