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現代のRPG - Continue! -  作者: 琴救(きんぐ)
7/8

save2 ⑦―ラスボス戦


 それは栄 先輩がちょうど席を外していた時、自称勇者の本郷さんがゲームに悪戦苦闘していた時にやってきた。俺は鶴舞さんと癒しの一時もとい、ただの日常会話を楽しんでいた。だが、まさかこんな事態になるとは思ってもみなかった。

「貴方達に重大な任務があります。」

 "魔王"こと本郷 真緒 生徒会長が俺達の部室を訪れて、開口一番にそれを言い出した。クエストかと俺は心を踊らせたが、どうやら深刻そうな面持ちをしている。

「テニス部の女子更衣室に部員以外の者がカメラを置いていました。」

 第一発見者である女子部員はそのビデオカメラについて知らず、すぐに部外者の私物であることに気がついた。それで盗撮騒ぎになったらしい。

 あれ、待てよ。最近、似たような話があった気がする。少なくとも、その犯人は女子であったが。

「つまり、俺達に盗撮犯を捕まえて欲しいというのが、今回の活動依頼ですか?」

「いいえ、犯人と思われる人物に目星はついてるの。」

 生徒会長は俺達にビデオカメラを見せてくれた。実物を目の当たりにして、俺は察した。いや、あまりにも間抜け過ぎて、何か違和感を覚えるほどの証拠だった。

 自分の下の名前をご丁寧に大きく書いてあった。しかも、漢字でわかりやすく……

「それなら、犯人を特定できるのでは?」

 同じ漢字の人はそうはいない。これはもう解決したも同然なのではなかろうか。

「それが、この"祐樹(ゆうき)"という人物はね……」

 その名を聞き、先ほどまでゲームに集中していた本郷さんが急に立ち上がった。

「うそだ……祐樹さんがそんなことするわけない!」

 意外にも、話を耳にしていたのか。それよりも、自称勇者がこんなにも動揺しているのはどうしたのだろう。

 生徒会長がその事実を口にする。

「RPG部の前の部長と同じ名前なのよ。」

 つまりは、先代勇者が盗撮犯と疑われているのだった。


 先輩賢者が帰ってきたところで、状況整理が始まった。そもそも、先代勇者も当代勇者と同じく素行が悪かったようで、テニス部から疎ましがられていたようだ。そこに、この盗撮疑惑で火が着いたらしく、先生に訴えたとのこと。このままでは、RPG部が廃部になる恐れがあった。

「ところで、日比野 先生は何故、そんなに落ち込んでいるんですか?」

 高校生と見間違えるくらい若く見える30歳。童貞の魔法使いと生徒に弄られても挫けない先生が頭をうなだれて、何を悩んでいるのだろう。

「教頭先生に今回の問題を指摘され、クビがかかっているらしい。」

 職員室から共に来た栄 先輩が教えてくれた。日比野 先生、場の空気が凍りつくので、氷結魔法も大概にしてほしい。

「頼むよ、御器所くん! 祐樹くんの無実を証明してね!」

 この人にプライドはないのだろうか。

「俺も茶屋ヶ坂 先輩に電話をしてみよう。何か手がかりがわかるかもしれん」

 こういう時には頼りになる栄 先輩。俺はふと、彼と本郷 生徒会長に質問してみた。

「お二人は先代の勇者……部長を知っているのですよね。こんな悪さをするような人だったんですか?」

 否定の言葉がくるかと思いきや、予想外にも二人は無言で目線を横に向けた。あれ俺達、その人を無罪にしなければいけないのですよね。

「先代勇者は正義感の強い人だったが、ただ一つ欠点があった。良くも悪くも人に影響を与えるのだ。」

「勇渚をゲーム脳に変えたのも、あの人よ。それまではおとなしい良い子だったのに。」

 自称勇者にそんな過去があったのか。今では想像がつかないな。

「だから首謀者が彼じゃなくても、結果的に誰かをそそのかしてしまったか、恨まれて犯人にされた可能性だってあるわ」

「――祐樹さんの悪口を言うな、姉貴!」

 妹の方の本郷さんが叫んだ。その目には涙を浮かべていた。鶴舞さんが辛そうにしている彼女の傍に寄り添っている。

「私が無実を証明してやる!」

 そう言い残し、本郷さんは部室を一人で飛び出した。俺はそんな自称勇者の背中を見て、胸が痛くなるのを感じた。


 翌日、俺は鶴舞さんと一緒に情報を集めに出た。

 まず始めに訪れたのは、後輩の教室だった。そこに盗撮についてなら、詳しいであろう人物がいる。

「何の御用でしょうか、見知らぬ先輩。」

 一言目から刺々しい言葉を放ったのは伏見 夜兎子。RPG部の幽霊部員にして"盗賊"枠。

 彼女は栄 先輩のいる部室を密かに盗撮している。目には目を、盗撮犯探しには同じ盗撮犯を。

「大したことではないのなら、戻ってもよろしいでしょうか?」

 できれば、俺だって関わりたくない。盗撮の件をばらすと、命の危険を伴うから。でも、俺は引き下がらなかった。

「率直に聞くけど、このカメラに心当たりはない?」

 伏見さんは首をかしげてビデオカメラに書かれた名前を見つめた。

「さあ、栄 先輩以外には興味ないので。」

 手がかりなしか。当然と言えば、そうなるが。

「しかし、これ。RPG部の部室でも見かけた気がします。」

 彼女は一年生。すなわち、先代勇者がいない時期にはこのビデオカメラは学校の他の場所にあったというわけだ。

 これは使える情報かもしれない。

「もういいでしょうか、さようなら。」

 伏見さんはビデオカメラを俺に返し、教室へと戻っていった。何はともあれ、手がかりゲットだ。


 放課後。次に向かったのは、風紀委員が使っている委員室だった。ここにも、本当は寄りたくなかった。

「武、よくぞ来てくれた。さあ、ここは僕の城だ。思う存分、"打たれ姫"としての君を解放するといい!」

 表向きは美形の風紀委員長、その正体は生粋の超ドS、妙音通 蒼真 先輩。俺には変人の知り合いしかいないのか。悲しくなってくる。

「武くんは渡しません。彼の王子様は私がなります!」

 鶴舞さんが俺の前に出た。王子様発言は懐かしいけど、鶴舞さんがどんどん毒されるのは困る。

「そう言えば、あの"FF校の王様スライム"との戦いで、ケガとか大丈夫でしたか?」

「安心してくれ。僕が調教し、手懐けた。」

 さすがは"裏ボス"様。不良でさえも、その手中に収めるなんて正直、恐いです。

 念のため、妙音通 先輩にも話を聞いておこうと考えて、俺は風紀委員を訪ねたのだった。一応、三年生であるし。

「先代のRPG部の部長か……柔い印象しかないな。」

 この人にとって、人の価値基準は防御力でしかないようだ。先代勇者もゲーム機を学校に持ってきては、竹刀を振り回していたと話してくれた。そんな頃から竹刀が流行っていたのか。

 結局、妙音通 先輩からは情報を得られなかった。


 先輩賢者から連絡があり、校門で茶屋ヶ坂さんと合流したそうだ。俺達も急いで駆けつけると、そこには二人の人影が立っていた。

「おー、新人の戦士くんと僧侶の可愛い子ちゃんが来たね。」

 RPG部のOBで永久欠番の"遊び人"枠、茶屋ヶ坂 遊さん。隣には知らない女性を連れていた。

「あれ、栄 先輩はどうしたんですか?」

「智くんはね、いつものアレにね、行ったよ……」

 こんな時でも、"賢者モード"かよ。推理力を高めるためだと、茶屋ヶ坂さんはフォローした。むしろ肝が据わっているのか。判断がつかない。

「――ねえ、遊。本題に入ったら。」

 女性が話を切り出す。茶屋ヶ坂さんのお客さんだろうか。彼はホストクラブのオーナーで、1日お一人様ずつデートのお相手をしている。

「ああ、彼女は赤池(あかいけ) 麻衣(まい)ちゃん。彼女もここのOBだから、連れてきちゃった。」

 では、この方が茶屋ヶ坂さんの本命の彼女。そうだ、俺はこの方に聞きたいことがあったのだ。

「赤池さん、ちょっといいでしょうか?」

 脱線しているのは承知の上で質問した。

「どうして"踊り子"枠だったんですか!?」

 ずっと気になっていたのだ。

 赤池さんは顔を赤くして、押し黙った。すると、焦りながら俺の質問に答えてくれた。

「言っとくけど、私が選んだわけじゃなくて、こいつらが勝手にそう呼んでるだけよ!」

「麻衣ちゃんはダンス部にも入ってたからね。俺と先代の"勇者"枠で決めちゃった♪」

 それで踊り子か。俺は納得した。

 赤池さんはRPG部としての活動には参加することが少なかったが、先代勇者とは面識があった。これは良い証言が得られそうだ。

「あいつは……そう、バカだけど真っ直ぐなやつだったわ。女子からは引かれてたけど。」

「そうそう、バカで単純でさ。騙し甲斐があったよー!」

 どうしよう、バカという情報くらいしか引き出せない。例のビデオカメラを見せたら、間違いなく先代勇者の私物だと言うし。その上、本人とは連絡がつかないみたいだ。

 ますます、祐樹さんの疑いが深まっていく。 


 俺は鶴舞さんと廊下を歩いていた。

 これで俺が聞ける人脈は終わってしまった。知り合いが少ないんだなと、日比野 先生ではないが落ち込みそうだ。

 俺達は見えないボスモンスターに挑んでいたのだ。祐樹さん以外に、犯人がいる実証もない。探偵でもない素人が太刀打ちできる相手ではなかった。RPG部が潰れてしまったら、鶴舞さんは悲しむだろう。どうにかならないものか。

「ねえ、武くん。本当は勇渚ちゃんのこと、追いかけたいんじゃない?」

 突然の鶴舞さんの問いかけに、俺は驚き、足を止めた。「そんなことないよ。」と俺はすぐに言い出せなかった。おかしい。自称勇者はいつも通り、勝手に暴走しているだけだ。心配なんて、する必要はないのに。

「武くんなら、勇渚ちゃんを元気づけることができるんじゃないかな?」

 鶴舞さんは俺に何かを期待しているようだった。その役目は回復役である"僧侶"枠の彼女にこそ、できるのではないだろうか。

「私、知ってるよ。二人は本音でケンカし合える仲だって。それって親友なんじゃないかな。」

 俺は出会った当初、本郷さんのことを友達だと認められずにいた。恥ずかしかったのかもしれない。それくらい、彼女は俺の理解の範疇(はんちゅう)を超えていたから。

 でも、いつの間にかお互いの趣味を紹介し合えて、ケンカが当たり前になって、本郷さんの言動にも慣れてきた。


 それって、もう友達なのではないだろうか?


「勇渚ちゃんのおかげで、私は踏み出す勇気をもらえたの。でも、今の私にはどうしたらいいか、わからない。私の大事な友達を助けて、武くん。」

 自称勇者と俺が親友なのかなんて正直に言うと、わからなかった。俺はそこまで、単純じゃない。だけど、鶴舞さんの頼みなら断れない。

 それに、本郷さんには言ってやりたいことが、たくさんある。

「……わかったよ。本郷さんを探してくる!」

 俺は駆け出した。一人、奔走するパーティーのリーダーを迎えに。鶴舞さんはそんな俺を静かに見送った。


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