save2 ④―モンスター討伐
FF校から少し離れた廃工場。そこに本郷さんと鶴舞さんが連れ去られたという不良達の溜まり場があった。
「ここに二人が……」
俺、御器所 武は協力な助っ人を二人連れて、今まさに不良の巣窟という"ダンジョン"へと乗り込もうとしていた。
一時間前。
本郷 生徒会長からその知らせを受けた俺達は対策を考えた。出番まで後三時間くらいしかない。今から全員で不良達を追いかけていざこざが起きれば、間に合わなくなるかもしれない。
そこで賢者、栄 智和先輩がすぐさま作戦を練ってくれた。
助っ人を呼び、俺達のパーティーの誰か一人が彼らを連れ、囚われた二人を連れ戻しにいく。
その間、残ったメンバーがステージに遅れた場合の交渉や準備を進めたりする。
そして現在、囚われの姫を救う騎士に選ばれた俺が連れてきたその助っ人の二人とは……
「君の方から呼んでくれるとは嬉しいぞ、武! やっと"打たれ姫"になる決心がついたんだな。」
FF校の"裏ボス"にして風紀委員長の妙音通 蒼真先輩。まさか、この人を頼る日が来るなんて。
男女両方いける生粋の超ドSな風紀委員長は、最強の戦力であると同時に俺の身が危険な諸刃の剣でもあった。
そして、もう一人。
「かったるー。早く土いじりしたいよー、御器所 先輩。」
初登場なので、みんな驚いたであろう。
彼女の名は車道 組華、浅黒い肌の後輩生徒。RPG部の幽霊部員の一人で、職業は"武闘家"だ。
栄 先輩が助っ人を呼ぶにあたり、妙音通 先輩に並ぶであろうと紹介してくれた戦力だ。
彼女はスポーツ万能で様々な運動部から声がかかるほどの天才だと聞いた。幽霊部員の理由は他の部活の助っ人で忙しいから……だと、彼女と実際に会うまでは思っていた。
「良質な泥団子作るのに時間かかるんだよー。勇渚先輩を助けるためだから、仕方ないけどさー。」
現実はこれ。彼女は無類の泥団子マニアなのだ。部室に来ないのは単に泥団子を作る時間がなくなるため。小学生レベルか。
変態の先輩とやる気のない後輩に挟まれ、俺はさっそくこの人選に後悔していた。
「行こう、時間がない!」
残り時間はもうわずかしかない。急ごう。
そうして、正面から突入する俺達三人。こそこそ動いては時間のロスだ、仕方ない。中にいた不良達は一斉に振り返り、戦闘態勢へと入る。
奥の方に不良に囲まれた本郷さんと鶴舞さんが立っていた。
「武くん、来てくれたのね!」
「新人戦士、遅い! Bダッシュしてきたか!」
鶴舞さんは泣いており、本郷さんは何かしら怒っていた。怪我や変なことをされた様子は見えない。無事で良かった。鶴舞さんに手を出そうものなら、俺が許さない。手加減はしないぞ。
群がる不良達に助っ人の二人が躍り出た。それぞれが己の戦い方で道を切り開いていく。
一撃目は"裏ボス"からの攻撃だった。
「弱い、柔い、やわい、ヤワイ! 武ほど、僕を満足させられるやつはいないのか?」
竹刀を持ち、敵を次々と打ちのめしていく妙音通 先輩。相手を叩く度にテンションと攻撃力が上がるハイスペックな裏ボス様のお顔は、そう言いつつも悦びに満ちていた。
後輩の車道さんも遅れはとらなかった。徒手空拳で敵を凪ぎ飛ばし、時には泥団子を投げ当て、敵をノックアウトした。
「知ってるー? 良質な泥団子は野球ボールより固くて、よく弾むんだよー。」
跳ね返り、戻ってきた泥団子をキャッチする車道さん。そんなバカな。泥団子にどれだけの性能を付与しているんだろうか。
助っ人のおかげで、俺は囚われた二人の元へたどり着き、救出に成功した。
そこにボスが現れる。
「……待て。」
廃工場の最奥より、金髪の肥満体な巨漢が姿を見せた。いかにも強そうなオーラを醸し出している。
妙音通 先輩と車道さんは戦いの手を止め、その男に視線を向けた。
巨漢は部下の不良を下がらせ、冷静に俺達と何やら話をするつもりのようだ。
「俺が用があるのはその女達ではなく、ある男なのだ……」
巨漢は語った、己の過去を。
一年前、駆け出しだった巨漢はこの地域の不良界に名を轟かせようと奮闘していた。しかし、ある男と出会った。
「あー、思い出した! お前は先代勇者にやられた……名前はえっと、何だっけ?」
本郷さんは彼を知っているようだ。彼女は去年から部員であるから、先代とも面識があった。
「いや……やられたのはあの男の方だったのだが。」
先代勇者も弱かったのか。
いきなりケンカを売ってきたその男を倒した巨漢であったが、その後、思いもよらない事態が起きた。
「そう、 "FF校の王様スライム"!」
「その名で呼ぶな!!」
先代勇者によって恥ずかしい異名を広められてしまったのだ。
王様スライムとは、大人気RPGゲーム"ドラキュラ・クエスト"に登場するボスモンスター。とてもふくよかな顔をしている。
不良デビューを台無しにされた逆恨みに、同じ部活に所属する彼女達にその男の居場所を聞き出そうとしていたらしい。本当に問題児しかいないのだな、"勇者"枠は。
「とにかく、奴の居場所を教えろ! そうしたら解放してやる。」
王様スライムが引きさがる気配はない。どこにいるかは知らないけど、OBを売るのも何か悪い気がする。どうしたものか。
「ここは僕に任せて彼女らを連れて先に行け、武。」
妙音通 先輩が巨漢に立ち塞がる。
「危険です、先輩!」
いくら、裏ボスでも一人では無茶だ。 王様スライムは現役の不良の中でも特に強い人。怪我だけではすまないかもしれない。
「やらねばならない事があるのだろう? それに……」
妙音通 先輩が荒い息を立て始めた。
「こいつは叩きがいがありそうだ!」
「………」
大丈夫そうだ。この人の性癖を忘れていた。
王様スライムを裏ボスに任せ、俺達は己の舞台へと急行する。果たして、間に合うのだろうか。