save2 ①―伝説の遊び人登場
continue? Yes or No
....................... ̄ ̄.........
ゲームの続編が作られると、喜ぶ人が多い。
それが好きなシリーズなら尚更だ。気に入っていたあのキャラと再び会えるのだから。新要素が加われば、もっと最高だ。
でもそれは名作に限ったこと。
この物語が名作か否かについては疑問の余地が残る。
「ぜってー、面白いってば! やってみろよ、新人戦士!」
富士宮フロンティア高等学校、略して"FF校"。そこにはRPG部と呼ばれる活動内容不明な変人揃いの部活が存在する。
「無理なんだ、本郷さん……だって、これ……」
俺、御器所 武はその意味不明な部活に入部してしまったごく普通の高校二年生。趣味はアクションRPG。
「男同士でアレをするシーンがあるゲームだろ! どこが名作なんだよ!」
最近やっと、この部活のメンバーの奇行に慣れてきた新人"戦士"である。
「バッカ、需要があるから続編が出るくらい名作なんじゃん!」
なるほど、一理ある。だけど俺は男だ。そんなものは認めない。
「そんな事もわかんねぇなんて、レベル足んないんじゃね? もっと経験値積めよ!」
俺が会話している相手は本郷 勇渚さん。RPG部の部長で二年生、ゲーム脳全快の自称"勇者"だ。
部員に職業という名の称号を与え、校内を暴れる問題児である。
「男同士でアレって……何をするゲームなのかな、武くん?」
「あーー! アレとはね、仲良くするだけだよ。気にしないで、鶴舞さん!」
無垢なる天使もとい"僧侶"の鶴舞 十美さん、二年生。クラスのマドンナで俺の憧れ。俺の実家、御器所剣道場の門下生でもあり、朝練で使った竹刀をいつも部室に置いている。
今日も結い上げた濡れ羽色の髪が清楚で綺麗だ。
「先輩、聞いてよー。こいつ、レベル低くてさー。」
「栄 先輩も本郷さんに何か言ってやって下さいよ。」
"賢者"、栄 智和先輩。黙々とノートパソコンに写された画像を見つめる、眼鏡をかけた知的なイケメン。
「すまない、二人共。後にしてくれ。少々"賢者モード"に入ってくる。」
そして、残念なイケメンでもある。
部室を出ていく先輩賢者を見送り、俺と本郷さんは再びいがみ合った。プレイをするのは保留にするで決着が付くのは10分後の話だ。
季節は8月を迎え、夏休みに突入していた。俺達は暇をもて余してはクーラーのきいた部室に遊びに来て、休日をだらだら過ごす日々を送っている。
RPG部に入部してから4ヶ月、俺は未だに解明されていない2つの謎を抱え続けている。
1つは鶴舞さんが何故、剣道部ではなく、この部活に入ったかの謎だ。本人に聞いてみたら、
"えっと……武くんには教えない。"
とそっぽを向かれ、俺はショックを受けてしまった。あの優しい鶴舞さんにそんな反応をされる様なことを俺は何かしてしまったのだろうか。
もう1つは、言わずも知れたあの謎なのだが――。
本郷さんとのケンカを終え、思考にふけっていた時、部室の引き戸が開いた。
「みんな、お客様が来たよ。それも飛びっきりだよ。」
顧問の日比野 先生だ。見た目は高校生、中身は童貞。結婚しないで30年、あだ名は"魔法使い"。
その隣には見知らぬ男性が立っていた。ホストクラブにいそうなチャラい格好の人だ。
「うそ……マジ!?」
本郷さんが俺を押し下げて、身を乗り出す。中腰の姿勢でのしかかれると辛いのですが。
「遊さんじゃん!」
自称勇者の知り合いか。経験則できっと、ろくな人ではないだろう。
「勇渚ちゃんのお知り合いなの?」
鶴舞さんが本郷さんの後ろへ隠れる。彼女は意外とシャイであるのだ。重量が女の子二人分になったとか、思ってないからね。
「"伝説の遊び人"だって! 前に話したすごい人!」
では、この人が例の永久欠番の"遊び人"枠。
「よっ! 元気そうじゃんか、勇渚ちゃん!」
RPG部のOB、茶屋ヶ坂 遊さん。これが俺の先代との初めての出会いだった。
「へぇー、君が今の戦士枠で。そっちの可愛い子が僧侶枠か。よろしく、二人とも。」
俺はOBに軽く挨拶した。この人の口調と服装で俺は警戒心を抱いていた。
鶴舞さんも会釈をすると、茶屋ヶ坂さんは彼女に小さく手を降った。さっそくか。鶴舞さんに色目を使わないで下さい。
「おっと、ごめんよ。電話だ。誰からかな?」
茶屋ヶ坂さんは携帯を取りだし、相手の名前を確認してから電話に出た。
「あー、アユミん。一週間ぶり!」
どうやら、話し相手は女性のようだ。土曜日にデートをする約束をしてたから、茶屋ヶ坂さんの"彼女"だと思われる。
OBが電話を切ると、また着信音が鳴った。
「あー、ユリぽん! どうしたの、寂しくなっちゃった?」
さっきとは異なる女性の声が聞こえた。これはどういうことだろうか。
その後、マユたん、モエ、リカち、どらきち、マーりんの順番で茶屋ヶ坂さんの携帯に電話がかかり、先輩はそれぞれ別の日にデートの約束をした。
「お店のお客さんからの電話が多くてさー、大変なんだよ。」
茶屋ヶ坂さんはFF校で3年も留年してたらしく、去年を期に退学してホストクラブを立ち上げたと話した。
プレイボーイだから、"遊び人"。一日お一人様ずつ楽しませますホストクラブのオーナー茶屋ヶ坂 遊、と渡された名刺に書かれていた。
色々な意味で凄すぎて、どう言い表せばいいのか困る人だ。
ただし、このOBは俺達をただ振り回すだけの人ではなかった。
「そう言えば、お前らちゃんと活動してる?」
「……!」
俺が抱えていた謎を話題に出してくれたのだ。
そう、RPG部のもう一つの謎。それは活動内容が不明なこと。俺はそれを今でも知らずにいた。自称勇者はゴールドがドロップするなど、わけの分からんことを言うし、先輩賢者はいずれ分かる時がくるだと予言めいたことを言うし。日比野には……そう言えば、聞き忘れていた。
「まあ…そろそろ生徒会から依頼がくる頃だろうけどね♪」
この時、俺達のちょっと普通ではない青春の物語は大きく動き始めた。
RPG部の晴れ舞台、"FF祭"を前にして――。