夢見る少女じゃいられない
カーディガン一枚羽織っただけの姿であぜ道を歩いている私を見たら、町のみんなはあたしの気がふれたと思うだろう。
そうして、すぐに電話で、あるいは親切にも車で我が家にやってきて、堅物の父とファンシー好きな母にそのことを懇切丁寧に報告するだろう。
あたしは、この町のそういうところが何より嫌いだ。1年の半分が雪に埋まるとこよりも、もっとずっと嫌いだ。
だから、あたしはこの町を出ることを決めた。
アテなら、もちろんある。
オンナはいつだって計画性があるものだ。
私はどうしても手放せないものと向こうですぐに必要なもの(友達がプレゼントしてくれたアリスのガラスコップ、愛読書のダンテの神曲地獄篇、ドライヤー、マスカラ、頭痛薬、サンダル、健康保険証、財布、双眼鏡)をトランクにつめて、あぜ道を歩いていく。
吐く息は白く、かじかんだ手は今にもトランクを落としてしまいそうだ。
でも、もう少し。
このあぜ道は町を出る長距離バスの停留場への近道なのだ。
顔が自然とほころぶ。スキップしそうになる足を落ち着かせるのも大変だ。全身がうきうきしている。
でも、まだダメだ。
雪道で焦りは禁物、生れてからずっとこの街で生きてきた私が学んだことが町を出る時にも役立つとは!
慎重に。町を出るまで、この気持は抑えなければ。
雪がズクズクヒールの靴に入ってくる。
ヒールが雪に埋まる。
その冷たさがあたしを落ち着ける。
停留場までもうすぐだ。16:10の発車まであと少し。
まずはバスに乗って、次に電車を乗り継いで、私はあの人の待つ、常春の都会へ行ってみせる!!