09
『 T ・ K ・ G 』
教室の黒板には、ある意味……。
異世界に相応しい混沌な一文が踊っていた。
クラスは騒然となる。
「すげえ……! すげえよ生徒会長っ!」
「さすがはこのクラスでも一番の『ニッポン通』だけあるぜ!」
「股間を蹴られながらメシを食うだなんて、さすがは『ニッポン人』……! オー! クレイジー!」
「やっぱりニッポンという国は計り知れないわ! いつだって私たちの予想の上を行くもの!」
まるで外人四コマのように熱狂するクラスメイトたち。
面白いからこのままでもいいかな、なんて一瞬でも考えた俺がバカだった。
「異論がないようであれば、明日発表する給食メニューはこれで決定ですわ! 向こう一ヶ月、全校の男子は女子に股間を蹴られ、女子は男子の股間を蹴りながら、ごはんを食すのですわっ!!」
「ちょ……ちょっと待ったぁ!!」
締めにかかった生徒会長の一言に、俺は反射的に立ち上がっていた。
熱狂は冷や水をあびせられたかのように、静まりかえる。
そして俺の身体は針のむしろに包まれているかのような、刺すような視線が突き立つ。
皆が、俺を見ていた。
空気の読めないヤツを見るかのような目で。
「あ~ら、今日転校してきたばかりの『ニッポン帰り』のジャブくん……。長年に渡るあたくしたちの研究の成果に、なにか不満でもあるんですの?」
教壇の高みから、フフンと見下ろす生徒会長。
彼女に向かって、俺は声を振り絞った。
「あ……あるっ!」
給食というよりも拷問のようなメニューを、正式採用させるわけにはいかない。
しかも1日だけならともかく、1ヶ月間も……!
30日間、毎日毎日……決められた時間に股間を蹴り上げられるヤツだなんて、お笑い芸人にだっていやしねぇ……!
そんなの、毎日が命日みたいなもんじゃねぇか……!
なんとしても誤りを正して、この悪夢のような暴挙を阻止せねば……!
「身体を痛めつけながら食事をするなんて、ありえないだろう! ニッポン人は何事も、一意専心……! 『ながら食べ』など言語道断だ!」
俺の反論に、クラスがにわかにざわつく。
「なるほど、言われてみれば確かに……!」
「よく考えてみたら、『オギョーギ』が悪いわね……!」
「そうだ! 股間を蹴り上げるのなら、みんな立って食事をしなくちゃならない……! それは大変『オギョーギ』が悪いんじゃないか!?」
「それはダメだ! ニッポン人は、『オギョーギ』が良いんだ! いつだってそうさ!」
「ってことは生徒会長の発表が、間違ってるってことか!?」
コイツら、やけに流されやすいな……。
でも生徒会長だけは、挑戦的な笑みを崩さなかった。
「フフン、さすがは『ニッポン帰り』。ニッポンのことを少しは知っているようですわね。でもそのくらいのことは、このあたくしも気付いておりましたわ。でもTKGが『ちんこキックごはん』であることが揺るぎない証拠が、ふたつもありますのよ。殿方のマタンキのようにね」
俺が必死に下ネタから離そうとしているのに、いちいち引き戻しやがって……。
もしかしてコイツ、下ネタを口にしてないと死ぬ病気なのか?
「その証拠とは何だ?」
「まずは、ニッポン人の『ワビサビ・オーラ』を体現している言葉のひとつに、『一蹴一菜』というものがあるのをご存じでして?」
それを言うなら『一汁一菜』な。
「『一蹴』とはすなわち、キックのこと。ニッポン人は一品だけの質素な食事を、ちんこキックで豊かに彩っていたということですわ」
もう一品増えたみたいに言うんじゃない。
「そしてふたつめの証拠……。それは、ちんこキックごはんが『ブシドー・スピリッツ』に溢れているメニューだということ」
やな武士道だな。
「『セップク』という言葉をご存じでして? 失態を犯したサムライが、腹を切ることによって自らを罰することですわ。このニッポンを象徴する、偉大なる文化である『セップク』……。それが表しているように、ニッポン人というのは自浄意識が非常に高い民族なのですわ」
『切腹』の意味は、まあだいたい合ってる。
でもそこまで日本のことが分かっているのなら、なんで『卵かけ』が『ちんこキック』になるんだよ……!?
「死ぬほど自分を罰する事ができるのが、ニッポン人……! なれば『食事』という命を頂く行為に対して、かわりに己の命の源である『ちんこ』を捧げようとするのは、何ら不自然な行為ではありませんわ!」
『女体盛り』の時に俺がしたように、ビシイッ! と指さしてくる生徒会長。
解釈はメチャクチャだが、展開された理論には相変わらず変な説得力があるな……。
だが、俺は少しも慌てなかった。
なぜならば生徒会長の主張には、決定的におかしな所がある……!
いや、おかしな所だらけではあるのだが……。
いくら脳筋でもわかる、ハッキリした矛盾が、ひとつだけあるんだ……!
さぁて、今からソイツを指摘して、また這いつくばらせてやるとしようか……!




