13
失敗作を壊した陶芸家のような俺に、クラスはドン引き。
俺は床で動き回る虫たちに虫唾が走り、狂ったように叫んでいた。
「ど……どうしたんですの、ジャブくん? 急に邪神に呼ばれたように暴れだして」
「お……オコメーっ! オコメオコメオコメオコメ……! オコメーっ!!」
「そんなにオ○コを連呼するだなんて……欲求不満ですの?」
「ああそうさ! そんなパイオツが……ってちがーうっ! この世界には、お米すらねえのかよっ!?」
「……? そこにたくさんあるではありませんの」
と、おひつを指さす生徒会長。
「違う! これは虫っていうんだ! ロス○ボーイじゃあるまいし、こんなの食えるか! 俺が欲しかったのは、農耕で作った米だよ!」
「ノーコー? こってりしているお米ということですの?」
「そりゃ『濃厚』! 俺が言いたいのは、田んぼや畑を耕して作物を育てる、『農耕』!」
そこから先は、噛み合わない話の連続だった。
コイツらは戦闘種族だけあって、食べ物というのはすべて、生き物を捕らえて食らうことだと思っていたようだ。
ニッポン人のことは、『濃厚種族』という、こってりした味の生き物が好みだと思っていたらしい。
別にそう思うのは勝手だが、これは俺の今後の食生活にも影響する、ゆゆしき問題であった。
虫を食うのは絶対に願い下げだったので、俺は米作りをコイツらに教えることに決める。
やれやれ……。
これじゃ異世界人というよりも、原始人を相手にしてるみたいだな……。
しかし米作りというのは、土作りも含めて半年以上はかかる。
いよいよ虫食いの覚悟をすべきかと思っていたのだが……。
俺は意外にも、その日の夕方に、頭を垂れる稲穂に囲まれていた。
「種もみ」は研究資料として保管されているものがあり、畑は学校のまわりに腐るほどある平地で、クラスメイト全員を働かせて作った。
決定的だったのは『成長促進魔法』の存在で、猫型ロボットの秘密道具ばりの便利さで、あっという間に急成長させることができたのだ。
脱穀については、今は使っていないという拷問器具のなかで脱穀機に近いものがあったので、それを使う。
血がこびりついていたが、まあいいだろう。
そのあとは最後の仕上げ。
茶碗に分配した玄米を、クラス全員ですりあげて精米した。
「あっ、なんか白い粒みたいなのが出てきましたわ!」
「これが、オコメ……!?」
「たしかに、見た目は俺たちが普段食ってるのに似てるぜ……!」
「でも古文書に載っていたのは、こんなに堅そうなものではなかったよわ! もっとふっくらしてて、やわらかくて……」
「まあ慌てんなって、ここからもうひと仕事する必要があるんだ」
皆が畑の横で精米している間、俺は炊飯用のカマドを組み上げる。
大きな鉄釜に、精米されたばかりの米を入れ、水で研ぐ。
手首のあたりまで水を入れ、カマドの上にセット。
拾い集めた薪をその下に入れ、生徒会長の発火魔法で火をつける。
まずは弱火で。
「どうしてこんな、回りくどいことを……? 魔法なら、米粒ごと一気に加熱することもできましてよ?」
「いや、それだと美味しいご飯にはならないんだ。『はじめチョロチョロ中パッパ』ってな」
「……????」
「またワケのわからねぇことばっかり言いやがって! おいジャップ! 時間がかかり過ぎなんだよ! もう昼飯どころか晩飯じゃねぇか! それに俺たちをここまでこき使っといて、俺たちのご飯よりマズいものを食わせやがったら、どうなるかわかってんだろうな!? ああんっ!?」
作業の間、クラスメイトはずっと半信半疑だった。
クラスの番長的存在である、ビーバップな感じの学ランに身を包んだドヴァーフ。
痺れを切らして俺の胸ぐらを掴んできたんだが、米が炊ける匂いが漂ってきて、眉をひそめる。
「……なんだ、この匂い……?」
「なんとも言えない、不思議な香りですわね……? 初めてですわ、こんな香り」
「でもなんだか、イイ匂いですね」
鉄釜から立ち上る白煙に、眼鏡を曇らせているエロフ。
それにつられるように、カマドの回りに集まるクラスメイト。
「そろそろ、良さそうだな……!」
俺は番長の手から逃れると、カマドの蓋に手をかけた。
「いいか、みんな。ご飯というのは、この蓋を取る瞬間が、いちばんの醍醐味なんだ。『ニッポン人の心』といってもいいくらいのな……!」
「ニッポン人の、心……」と反芻する、クラスメイトという名の異世界人たち。
「それは流れ星のように一瞬だが、何よりも尊く、美しい……! そしてそれは、ナンバー3の殺し屋ですら魅了してしまうほどの、とんでもないものなんだ……!」
俺の煽りに、誰もが真剣な表情になった。
もうたまらない様子で、ごくり……! と喉を鳴らしている。
「心の準備をしっかりするんだ。半端な気持ちじゃ、飛ばされちまうぞ……! 来るぞ、来るぞ……! 鳥肌注意だぁぁぁぁーーーっ!!」




