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『TKG』……卵かけご飯といっても、ひと口にいって色々ある。
シンプルだからこそ無限のアレンジが可能な、奥の深い料理なのだ。
ちなみに俺がナンバーワンだと思っている、卵かけご飯の食べ方はこう。
炊きたてのご飯の上に、卵黄だけを載せ、その上に醤油を回しかける。
そしてかき混ぜずに、箸で卵黄を崩しながらいただく。
濃厚な黄身が絡んだごはん、醤油だけがかかったごはん、何もかかっていないごはん、の三つの味のコントラストが絶妙なのだ。
なお余った白身については、フライパンなどで『白身焼き』にして、付け合わせにするといい。
その組み合わせはベストマッチで、食する者を神の領域へと導いてくれるだろう。
しかし今回は、卵かけご飯を知らないヤツらが相手なので、ベーシックにいくことにした。
醤油がないのが残念だが、塩でもまあいいだろう。
教壇の上、即席で作られた調理スペースに俺は立つ。
クラスメイトたちはみんな席を立ち、俺のまわりに集まってきていた。
「では見せてもらおうではありませんの。『ニッポン帰り』のジャブくんが主張する、『TKG』を……!」
生徒会長の言葉に頷き返し、俺は調理を始める。
まず、小学生が授業で作ったような、変な形の陶器の茶碗を手に取った。
そして見よう見まねで作ったような、歪な形のおひつから米飯をよそう。
復活祭か、と突っ込みたくなるようなカラフルな卵たち。
俺はそれを籠ごと持ち上げ、生徒会長に尋ねた。
「これは、何の卵だ?」
「赤いのはフェニックスで、黄色いのはサンダーバード、緑色のはスザクで、黒いのはヤタガラス、青いのはルギアですわ」
「どれも神話の鳥じゃねぇか、最後のはポ○モンみたいだし……普通のニワトリの卵はないのか?」
「……ニワトリの卵? ガールズバンドが卵を産みますの?」
そりゃ『バ○ドリ!』だな。
「ないってことか、まあいい。ここにある卵はどれもニワトリと大差なさそうだから、味も似てるだろ」
俺は適当に緑色の卵を取って、教壇の平らなところに叩きつけて割る。
それを白身ごとご飯の上に垂らしてみると、色鮮やかな黄身がトロリと乗った。
これなら大丈夫かな、と俺は安心したが、周囲は不安をあらわにしたようなどよめきに包まれている。
「ジャップの野郎……一体、なにをしようとしているんだ?」
「ご飯はいいとして、卵……? ……も、もしかして!?」
以前、俺の戦闘力の低さを指摘した、属性揃い踏みのメガネエロフが気付いたようだ。
「TKGとは、『卵かけご飯』の略だと……!?」
どよめきが、おぞましい事実を知ったような悲鳴に変わる。
「ホワイ!? ニッポン!? ホワイ、ジャップ!?」
「オーノー! 正気か!? 卵を生で食べるだなんて!」
「あまりにもクレイジーだ! これを食うくらいなら、自分のケツにキスしたほうがマシだぜ!」
「あっ!? でも、ニッポン人は生で魚を食べるっていう研究成果を、『大日本第四学園』が発表してたじゃない!?」
「それは不可能って結論になっただろう!」
「だよなぁ! 実際にやった第四学園のヤツら、全員死んで廃校になったし!」
……一体、なにをやったんだ?
デーモン・コアでもいじったのかよ。
ともかく俺は、味付けに塩をパラリとひと振りしたあと、仕上げにかきまぜる。
「できた! これが本物の『TKG』だ! さぁ、おあがりよ!」
それは異世界、そしておかしな材料だらけで作ったとは思えないほどの、完璧な『TKG』だった。
一粒一粒のご飯に絡んだ卵が、キラキラと輝いている。
さすが俺……! と見惚れていた、その瞬間、
……うにょ……!
米粒が、のたうつように動いた……!?
それも一粒だけじゃなくて、いくつも……!
うにょにょにょにょっ……!
この世界に来て、ずっと米飯だと思っていたも、それは……。
なんと、虫だったんだ……!
「こんなモノ、食えるかっ!?」
俺は背筋に悪寒を感じ、反射的に茶碗を叩きつけていた。
ガシャァーーーンッ!!
「急にどうしちゃったの!?!?」




