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「ズグワァァァァァァァァァァァァッ……!!」
俺がエアメガネをクイと持ち上げると、生徒会長だけが反応した。
「はっ……『灰色の脳細胞』っ!?」
生徒会長室での出来事を思い出したのか、彼女はたじろいでいる。
いったい何のことかと不思議がるクラスメイトたちに向かって、
「ジャブくんは、ああやって掛けてもいないメガネを直すことによって、眠っている力の20%を解き放つことができるのですわっ!!」
そのうろたえように、クラス全体が不穏な空気に包まれた。
「に……20%だって!?」
「そうだ、確か聞いたことがある! ニッポン人の脳細胞は、普段は10%しか使われてないって!」
「ってことは……ヤツは実力を隠してたってことか!?」
「しかも、小出しにするなんて……! なんだか『ブシドー・スピリッツ』を感じさせるじゃねぇか!」
「クソッ、さっきの戦闘力は、自らの力を制御してたってことか!」
「リミッターを外した今こそが、ヤツの本気……!」
「普段は10%で、戦闘力が5ってことは……100%になったらいったいどうなっちまうんだ!?」
すっかり恐れおののいているクラスメイトたち。
フフフ……いいぞ……! と思ったので、もうちょっと溜めようかと思ったのだが、
「単純に10倍したとしても、戦闘力50ですね」
メガネに三つ編みに巨乳に黒髪という、揃い踏みのエロフ女子にそうつぶやかれてしまい、場は一気に消沈した。
ま……負けるもんか!
俺は、再び形勢不利になりつつある空気を払い飛ばすように、声を振り絞る。
「『TKG』は、『ちんこキックごはん』というメニューである……! しかしその主張には、決定的におかしい所があるっ!」
俺はムジュンを指摘するときのポーズで、生徒会長をバッシィー! と指さす。
「『ちんこ』のスペルは、シー・エイチ・アイ・エヌ・ケー・オー……! すなわち『Chinko』……! 『ちんこキックごはん』ならば、略称は『CKG』にならなければ、おかしいんだよっ……!!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?」
クラスはふたたび沸騰する。
「い、言われてみれば、確かに……!」
「『T』が頭文字であるならば、『ティンコ』になってしまうわ!」
「ティンコってなに!? そんなものはニッポンにはないでしょう!?」
「いや、たしかあるぞ! 七つの海の……」
それはテ○コな。
「ティンコってなんかへんー! ティンコティンコー! きゃはははははは!」
俺の隣の席にいる、コビット女子……。
どう見ても小学校低学年にしか見えない幼女が、足をパタパタさせながら連呼していて、なんともいえない気分になる。
生徒会長もさぞや悔しがっているだろう……と思っていたら、彼女はさもおかしそうに肩を震わせていた。
「んふふふ……。ニッポン帰りのジャブくんが、まさかこんな事も知らなかっただなんて……! んふふふふ……! んっふっふっふっふ……!」
最初は上品に口を押さえながら笑っていたが、やがてたまらなくなったのか、
「おっほっほっほっほ! おーっほっほっほっほっほっほっほっほっ!!」
手のひらをクルリと返し、手の甲を口に添えるという、『お嬢様高笑い』を響かせはじめた。
その態度が、強がりやハッタリなどではないことは、俺にはすぐにわかった。
彼女は追い詰められるとヘタレになるが、そうでない時はトコトン高飛車になるからだ。
しかし、この自信はどこからやって来るんだ……!?
「な……なにがおかしいっ!?」
「それはおかしくもなりますわ! ヘソティーにもなりますわ!」
「ヘソティー?」
「おかしさのあまり、おへそがお紅茶を淹れ始めてしまうという意味ですわ!」
午後ティーみたいに言うな。
「そこまで笑うのであれば、俺の指摘に反証してみせるがいい!」
「んふふ、もちろん! ティーキッズ・ライノ・ライノですわ!」
「なんだそりゃ?」
「『お茶の子さいさい』という意味ですわ……!」
お茶の子・さい・さいってことか。
もうわけわかんねぇな。
呆れる俺。
さらなるドヤ顔に、頬を歪める生徒会長。
彼女はひきつれた笑いとともに、こう叫んだんだ……!
「『ちんこ』は花魁用語で、『ティンコ』とも言いますのよぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ! おぉーーーっほっほっほっほっほっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーっ!!」




