目覚め、それは地獄だった
真っ暗だった。
溺れた事は無いが、溺れたらこんな感じだろうと不思議と思った。
キモオタは暗闇の中、一人考えた。これはどういう事なのだろうか、あの少女に触れようとした途端に意識がなくなった。何が起きたのかわからない。道端に一人の少女を見つけた時から何かが、おかしくなった。少女を見つけた時、キモオタは少し、違和感を感じた。
それだけのことだが、何故か心に深く残っていた。
キモオタは考えても仕方が無いと割り切り、意識の復活を待っていた。
そして、意識は浮上するーー
◆◇
意識が上がった、神経が体に順応していくことを感じた。手を、足を感じて、最後に目を開けた。
「ーー地獄…」
そう感じた。周りは燃え上がり、熱を肌で感じた。様々な場所から悲鳴が飛び交い、中には木造の家から必死に肘で歩き、出てきた子供もいた。叫びながら走り回る人々は、服が焼け焦げていて、髪も少し縮れていた。
キモオタはただ立ち尽くしていた。突然の事の連鎖で、自分に出来る事を探した。少女が出てきて意識が遠のいた時には異世界か!? と、ウキウキしていたが異世界はキモオタに厳しかった。
(何か、何か、何か!!何か!!!)
『前世での記憶から、スキル「体術」を獲得。また、記憶の参照からジョブ「魔法使い」を獲得しました。さらにエクストラスキル「勇気」を獲得しました。』
頭に無機質な女性の声が響く。
その声は、やることをキモオタに提示している様だった。
キモオタは異世界の魔法を不思議と理解していた。スキルの影響だろうか、不思議と魔力と言うものを感じ、体を巡っているものに気づいた。
キモオタは自分だけ無傷な事に罪悪感を感じた。これもスキルの影響だろうか、勇気というと正義というワードが頭に浮かぶがそれは少し汚い勇気だった、罪悪感に突き動かされているからだ。
罪悪感に突き動かされる勇気は、すぐに体を動かす。火を消さなければならない。
やり方は分からない。が、やるしか無い。体を巡る魔力を感じ、この空に魔力を送るようにイメージする。当然だが、何も起こらない。だが、やるしか無かった。自分の力で雨が降る様を頭が痛くなるくらいにイメージした。だが、何も起こらない。
キモオタはその時、自分の体が十年前くらいまで若返っていることに気づいた。元々30だったので20代の体に見える。そして筋肉質で痩せていた。元々鍛えていたので、そこそこの体躯をしていた事を思い出した。
キモオタの心の根底には、自分の太った体で何も出来ないという気持ちがあった。だがその思い込みも消え、その代わりに、なんでもできるという思い込みができた。
さっきよりも魔力を送る。すると、魔力がゴッソリ抜ける感覚があった。
瞬間、頭に鋭い痛みが走り…
意識が消えるようにプツっと切れた。