終わりはいつも突然に
終わりはいつも突然に訪れる。
なんてことない休日。僕はその日なんてことない妹となんてことない食事を終え、なんてことない会話を交わしながら街を歩いていた。
その時間はもしかしたら今までで一番大切な時間だったのかもしれない。
ドシャッ。
隣を歩く妹の足元に、球体が落ちた。
球体の黒い髪の下、恐怖の色に染まった双眸と目が合う。
人の、頭。
速くなる心音と妹の小さな悲鳴が強張った鼓膜を叩く。
僕の眼球はそれをしっかり捉えていた。
悲鳴を上げ、逃げ交う人々を小枝を摘むかのように次々に血飛沫へと変えていくそれ。
人間よりもふた回りほど大きい、ヒト型の生物。
人間を貪り生きる残酷な種族、「マンイーター」だった。
空想のものだと思っていたのに…!
その考えを打ち破るような赤い道路、断末魔、死臭……
瞬間、口元を赤に染めたマンイーターと目が合った。一気に顔の血の気が引く。
五感が逃げろと叫んでいる。妹が僕の手をぎゅっと握った。
守らなきゃ…逃げなきゃ!!
弾かれたようにマンイーターに背を向け地面を蹴る。強張って上手く動かない足を懸命に動かし、ただただ走る。
マンイーターは図体が大きいから、その分体が重いはずだ。きっと逃げ切れる。
走れ、走れ…!妹を守るんだ!!
背を向けた血飛沫がフラッシュバックする。
何もできなかった。だからせめて、妹だけでも…
「お兄ちゃんが絶対守ってやる…か…ら…」
振り向いた先には、妹はいなかった。
千切り取られた妹の左手だけが、縋り付くように僕の右手を掴んでいた。
ぼたぼたと頭上に何かが降ってくる。ゆっくりと顔を上げた。
僕より背の低い妹の顔が、上にあった。
特別かわいいわけではないけど、僕がこの世で一番大好きで、愛しい顔には、驚きと恐怖が張り付いていた。
「……!!!」
妹の頭はグンと上昇し、大きく黒い穴に放り込まれた。
穴から覗く赤い牙で妹が砕き潰されている。綺麗な亜麻色の髪も、お気に入りだった髪飾りも、透き通った青い瞳も、全部。全部があいつの餌になった。
色がない。目の前の赤色だけがやけにはっきりと映り込む。
妹を守れなかった。世界で一番大切な人を。
ごめんエリス、弱いお兄ちゃんで。
今から行くから。
僕を斬り殺そうとする大きく尖った爪を、どうすることもせず、ただ見つめていた。
ザンッと音がした。
痛くない、苦しくない…死んだのか?
朦朧とする意識の中、首から上をなくしたマンイーターの姿を捉える。
そのマンイーターは動きを止め、ゆっくり後ろに倒れた。
「おい坊ちゃん、立てるかい」
「やめとけアンさん、妹殺されてんだ。暴走すっかもよ」
「厄介だったら殺す」
「おいおい…」
誰かが会話している。性別もわからない。ただ、こんな状況でも気楽に会話ができるような2人組ということだけがわかった。