第3話 男たちの作戦会議
午後七時。稔の家にて。
ピンポーン、と家のインターホンが鳴った。そこにいるのは先ほどのSNSでやり取りした面々であった。僕は家のドアを開けて、三人を迎え入れた。
「よっす、来たぞー」
「適当にお酒持ってきたし、買ってきた」
「ピザは頼んであるかー?」
泰典、瞬、真典が口々に言う。
「とりあえず、お肉系とシーフード系、それから定番のやつは頼んでおいたよ。」
僕はテーブルにあるピザを指しながら答えた。
「おっ、俺の好きなやつじゃん。ありがとー、みの。」
「冷蔵庫にお酒を入れておくぞ」
真典はピザを見るなりテンションが上がり、泰典と瞬は持ってきたお酒を冷蔵に入れていく。
「とりあえず、適当なところに荷物を置いて食べようか。」
「そうだな、ちゃちゃっと食べて、話を聞かせてくれ。」
四人はテーブルを囲んで座り、ピザを食べ始めた。
「んで、相談ってのは何だ?」
ピザを頬張りながら、瞬が聞いた。
「えっと…好きな人ができたんだけど、それでちょっと…」
「おおつ、ついに法学部の朴念仁が恋をしたか!」
「で、そのお相手とやらはどこの大学の人なんだ?」
真っ先に瞬と真典が食いついた。泰典は変わらず、ピザをモグモグしている。
「実は大学生じゃなくて、社会人の人なんだけど。」
「なん…だと…、社会人だって。前に受けに行った会社の人か?」
真典が尋ねた。こういう恋愛沙汰は真典が好きなネタなのである。
「いや、就活帰りにたまたま寄った喫茶店で出会った。」
「出会っただけって、一目ぼれってことか。その人と連絡先は交換してるのか?」
「いや、してない。」
「「はぁ――っ」」
真典と瞬が大きなため息をついた。
「おま、それって、うまくいかないやつだって。大体、なんで連絡先を交換してないんだよ。」
「いや、この朴念仁らしいというか。ほんと、そういうのに慣れてないよな。」
瞬と真典の言うことはもっともな話だ。連絡先もない状態で恋愛ができるはずがないのだ。
「ぐっ…。ただ、その喫茶店に行く日とかは決まってるから、そこに合わせて行くとかさ…」
「「はぁ!?」」
瞬と真典が愕然とした。
「おい、マサよ。この男、恋愛を何か勘違いしてるんじゃないか。」
「違いない。こいつ、どこかの恋愛シミュレーションゲームみたいに行動パターンとか把握できていれば、そこでばったり出会えると思ってるやつでは??」
「これだから、理論野郎は……。」
瞬と真典は二人とも顔を合わせて頭を抱えていた。
「まぁ、それはいいとしてさ。みのが恋心を自覚したのはすごいことなんじゃないの。」
ピザを食べていた泰典が言った。
「それは確かに……」
「あぁ、それな。『俺は一生、独身のままでいる!』とか言い出すかと思ってたよ。」
「さすがにそこまでは言わないよ。」
僕は笑いながら答えた。
「で、みのは何か付き合うための手立てはあるの?」
と泰典が尋ねる。
「それがさ、無くてさ…。だから、その…、相談を…」
「「連絡先も聞けてない状態でどうやれと!!」」
瞬と真典の二人からのツッコミがきた。瞬と真典の二人が顔を合わせ、眉間にしわを寄せている中で泰典が言った。
「とりあえず、会える日は分かってるんだから、何とかなるでしょ。そもそも、初対面で連絡先を聞くなんて高度なこと、君らにもできるの?」
「「うっ」」
瞬と真典は息を詰まらせた。泰典の正論には流石に二人もぐうの音も出なかったようだ。
「毎週土曜日は来てるみたいだって、オーナーが教えてくれたんだ。」
僕はそのときの話を三人に話した。
「ふーん、それじゃ、オーナーは味方してくれてるんだ。それはチャンスだね。」
泰典は僕の話を冷静に聞いた上でそう言った。
「みの、これはチャンスだって、行けって。」
「そうだそうだ。いけいけ!!」
瞬と真典が囃し立てる。
「うーん、次、会えた時に何したらいい?」
僕は三人に尋ねた。
「「デートの誘い!!」」
瞬と真典が大声で言った後に、泰典も
「うん、デートのお誘いだね」
と呟くように言った。
「うーん、デートかぁ…。どこに誘えばいいと思う?」
「そりゃ、映画館だろ。」
「それな!!」
瞬と真典が映画館を推し始めた。
「何言ってんの。映画館なんてダメに決まってるでしょ。お互いをよく知らないままで。暗闇の中、隣同士で座らないといけない状況を相手の人はどう思う?そもそも、何を観に行くの?」
「「…すみません」」
泰典の正論に、またしても二人は黙りこくってしまった。
「無難に、『美味しいお店を見つけたので一緒に行きませんか?』とかがいいと思うよ。」
泰典が続けて言った。
「cafe No.8以外のお店に誘うの?それって難しくないか?」
僕は思わず反論してしまった。あの場所を超えるお店に見当がつかないからだ。
「もちろん、それは分かってるよ。同じような喫茶店に誘わず、お昼ご飯を食べれるところに誘うんだよ。」
泰典は冷静に言った。
「「さすがヤスだ!!」」
僕と瞬と真典は同時に言った。
「これくらいは想像できるだろ?!」
泰典は呆れるように、けれど楽しそうに突っ込みをいれたのだった。
「さて、方針も決まったし…。例のやつをやるか!」
「あぁ、そうだな。みのの家に来たからには…な。」
瞬と真典が顔をにやつかせながら言った。
「今日は三人には負けないから。必勝法は動画で学んできた。」
僕は宣言した。例のものとは、貧乏な神が憑いちゃうすごろくゲームのことである。他の三人が強すぎて、毎回稔は最下位なのである。
「おっ、それは楽しみだなぁ!」
「まっ、俺らに勝つには百年早いけどな!!」
「みのはまだまだ修行が足りない。」
瞬、真典、泰典が口々に言う。
「ぐっ…、そんなもん、やってみないと分からねぇだろ!!」
この発言の三時間後、見事に大量の借金を背負った自分がいたのであった。なお、優勝は泰典であった。