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シフォンな彼女と冴えない僕  作者: からむますたー
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第1話 真理さんと初めてのシフォンケーキ

待ちに待った週末の土曜日がやってきた。僕はCafe No.8に足を運んでいた。真理さん目当てという健全な男子なら至極真っ当な理由である。


「さて、入りますかね…」


僕はふぅと一息ついた後、cafe No.8のドアを開けた。


「いらっしゃいませー。あら、来たのね。待ってたわよ。」

「こんにちは、おばさま。空いてるかな?」

「ふふっ、空いてるわよ。さぁ、こちらへどうぞ。」


僕はオーナーに案内された席に座った。そして、真理さんデザインのメニューを手に取り、本日のケーキセットを注文するのだった。


「本日のケーキセット、シフォンケーキとアイスカフェオレで。」

「かしこまりました。本日のケーキセットで、シフォンケーキとアイスカフェオレですね。少々お待ちください。」


オーナーはキッチンへ向かった。案内された席はオーナーがキッチンにいてもお互いの顔が見える位置だった。週末の土曜日ということで、すでに周りの席は満席だった。どうやら、オーナーは僕のためにこの特等席をとっておいてくれたのだろう。おそらく、この席に真理さんを案内するといったところだろう。


(めっちゃ、緊張してきたぞ……)


いつものペースを取り戻すべく、僕は就活の問答ノートを開いた。今は二次選考の結果待ちで、この選考が通れば最終選考となる。大学時代に映像制作や広告関係のアルバイトをしており、その面白さと地元への貢献という使命にメディア関係、広告業といったところを志望している。


(今のところは順調そうだし、なんとか一社だけでも内定をとりたいところだなぁ…)


そう思いつつ、スマホでお気に入りのクリエイターであるAM8:00の作品集を眺める。AM8:00というのは大学入学時くらいにハマり始めたマルチデザイナーである。当時の呟く界隈では、マイナーながらも人気があり、1万〝いいね〟いくときもあった。実際、この人にあこがれて映像制作をやり始めたのもあり、就活で不安になったときはいつもAM8:00の作品を見て、モチベーションを高めているのだ。二年前くらいにいきなり更新が途絶えたときはびっくりしたが、最近は復帰をしたようで更新が時々ある。


(AM8:00さんのようなクリエイターになれたらいいなぁ…)


そう思っていたら、カランカランとドアのベルが鳴った。入ってきたのは、水色のサマーニットにレースの入った白のロングスカートを履いた真理さんだった。


「いらっしゃい、真理ちゃん。」

「こんにちは、おばさま。見たところ席がいっぱいのようだけれど…」

「あぁ、それなら、相席になってしまうねぇ。あそこはどうかねぇ?」


とオーナーはこちらを見ながら言った。


(やっぱり、これを狙っていたのか…。あ、でも、これで真理さんに気を遣わせるのはなんかなぁ…)


迷っていても仕方がない。僕は一瞬悩みながらも答えた。


「こちらですか?僕は相席でも構いませんよ」

「おや、あそこの少年がいいと言ってくれているが、真理ちゃんはどうするかい?」


真理さんは少し考えた後


「そうね、せっかく相席をオッケーしてくれたんだもの。その厚意に甘えさせてもらうわ」


そう言って、真理さんは僕の前の席に座った。


「楽しんでるところごめんね。」

「いえいえ、そんなことないですよ。僕のほうこそ、迷惑じゃなければ…」

「ふふふ、ありがとう。あっ、就職活動のお勉強?」

「そうなんですよ、今、二次面接の結果を待っているなんです。」

「へぇ、すごいね。就職活動頑張ってね!」

「はい、ありがとうございます!」


真理さんから応援の言葉をもらえるなんて、今日はすごく運がいいぞ!相席になっている今の状況を何とか活かさないと…


「真理ちゃん、注文のほうはどうしようか。」


タイミングを見計らったかのように、オーナーが真理さんに注文を受けに来た。


「それじゃあ、いつものコーヒーとケーキでお願い!」

「わかったわ。カプチーノとシフォンケーキね。少々お待ちよ。」


オーナーはテキパキと注文書に書き込んでいくと、キッチンへ戻っていった。


「君は何を頼んだの?」

「ひゃいっ?」


虚を衝かれた僕は間抜けな声を出してしまった。


「カフェオレとシフォンケーキです。コーヒーは牛乳がないと飲めなくて…」

「君もシフォンケーキを頼んだんだー。ほんとにおいしいよね、ここのシフォンケーキは」

「そうですね、先週初めてここに来たときに食べたら、ほんとに美味しくて今日も来ちゃいました」

(本当は真理さんに会いたいっていうのが目的なんだけどね…)

「へぇ、先週のあのときが初めてだったんだ。ここいいところでしょ?おばさまも優しくてユニークでしょ。だから好きなの。」

「そうですね、ここのシフォンケーキはすごくおいしかったです。また来て食べたいくらいに。」

「ふふふ、おばさまのカフェのリピーターさんがまた増えちゃったね。」

「ありがたいことだねぇ、ほんとに。」


オーナーはとても幸せそうな笑顔で答えた。


「リピーターはそんなに多いのですか?」

「週末、ここに来てくれるお客様は大体がリピーターのお客様だねぇ」


オーナーは席に座っているお客さんを見ながら言った。


「あとは、たまたま旅行で来た遠方のお客様が来てくれたり……なんてこともあったかいねぇ……」

「それは……すごいですね」

「ふふふ、なんでかねぇ」

「それは、おばさまの作るケーキとコーヒーが美味しいからじゃない」


柔和な笑みを浮かべたオーナーに真理さんは言った。


「お客さんに愛されるというのは、いいことだねぇ。料理人冥利に尽きるよ。」

「もともと料理人じゃなかったのに、本当におばさまはすごいわね。」

「真理ちゃん、褒めても何も出やしないよ。」


そうしてニカッと笑うオーナーと楽しそうに笑う真理さんを見て、親子みたいだなぁと思ってしまう。それくらい二人の感じは柔らかく、暖かい雰囲気だった。しばらく二人のやり取りを眺めていると、オーナーがトレーを持ってこちらのテーブルにやってきた。


「さて、おまちどうさま!カフェオレとカプチーノとシフォンケーキ二つだよ。」

「ありがとうございます!」

「それでは、ごゆっくり。」


オーナーはそう言って、キッチンへ戻った。残されたのは僕と真理さんだけ。つまり、ここからは自分一人だけで会話を続けなければならないということだ。


(どうやって、話を繋げていけばいいのか…)


悩んでいると…


「あれ、食べないの?」


目の前にいる真理さんが声をかけてきた。真理さんの前にあるシフォンケーキはすでに半分ぐらいなくなっていた。


「あっ、食べます。」

「早く食べないと、私がそのケーキ食べちゃうぞ!」

「えっ、それはダメですよ!」

「ふふっ、だったら早く食べるの。」

「はーい。いただきます。」


僕はフォークを手に取り、シフォンケーキを食べ始めた。


「うん、甘くて、美味しいな。」


横に添えてある生クリームをシフォンケーキにつけたりして、僕はシフォンケーキを平らげた。


「ごちそうさまでした。」


僕はいつものように手を合わせた。


「ふふっ、君って、いつもそう言うの?」

「えっ。あぁ、ごちそうさまってことですか?」

「そうそう。今どきの人って、いただきますとかごちそうさまって言わないじゃない。」

「そうですねぇ…。確かに言う人はいない気がします、周りの友達を見ても。」

「それって、とても大事なことだと思うの。感謝するっていうの。」

「僕の場合は家でそういう風に教えられましたから。特に食については……ね。」


僕はフフッと苦笑いをしながら遠い目で答えた。


「ははは…、厳しかったんだね。」

「まぁいろいろとありましたからね…。思い出すだけでもおぞましい…。」

「何があったかは聞かないでおくね…。」

「そ、そうしてもらえるとありがたいです。」


僕は目を逸らしながら答えた。


(あぁ、気まずい雰囲気になっちゃったなぁ…)


しょぼくれていると


「そういえば、さ。私たち、自己紹介してなかったよね。私は古畑真理ふるはたまり君の名前は?」

冴島稔さえじまみのるです。」

「冴島稔くん…か。稔くんって呼んでいい?」

「ええっ?」

「いいでしょ?私のことを真理って呼んでいいからさ。」

「いやいやいや、呼べませんって。」


僕は全力で首を振った。


「(たぶん年上の)女性をいきなり名前で呼ぶなんてできませんよ。」

「ふふっ、普通はそういう反応するよねぇ。」


真理さんは微笑んでいる。


「ちょっ、からかっただけですか。」

「そうそう、からかいたくなっちゃったの。君が必死だったから。」

「ぐぅ……。」

「君の顔がコロコロ変わるのが、とっても面白いの。さっきもケーキ食べる前や食べてる時で顔がコロコロ変わってたし。」

「えっ、そんなに変わってました?」

「うん、変わってたよ。」


(ああああああああ、めっちゃ恥ずかしいぃぃぃぃぃぃぃ)


恥じる気持ちを抑え、僕は平静を装いながら


「参ったなぁ。」


と言うしかなかった。そして、ばつが悪そうに目の前にあるカフェオレを啜った。心なしか、苦みのあるカフェオレのように感じた。


「さて、今日はこの辺で帰ろうかしら。おばさま、そろそろ帰るわ。」

「はいはい。本日のケーキセットだから、八百円だね。」

「彼の分もまとめてもらっていいかな?」

「ちょっと、代金を出していただくわけには……。」

「いいのいいの、こういうときは大人のお姉さんんにまかせなさーい。」


真理さんは得意そうな顔で財布を取り出し、代金を支払った。


「あ、なんかすみません。ありがとうございます、」

「いいのいいの、今日は楽しませてもらったから。それじゃ、またね。」


真理さんは帰っていった。僕はふぅとため息をついて、テーブルに座った。


「少年、まだまだだねぇ……」


オーナーがこぼしたその一言に僕は深く傷ついたのだった。


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