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寝取られたけど、その後嫁ができました

練習です

「負け…だな…」


負け犬根性が染み付いてると言われればそうなのだろう。と思いながらライナスは呟く。目の前ではイリア、結婚の約束までしていた幼馴染みの女狩人が、勇者に抱きつきながら結婚の報告をしている。片や世界を救った勇者、片やただの宿屋、差は歴然、どうしたほうが幸せかなんて語るに能わず。大人しく身を引くのも彼女のためかな~…、嘘です。ほんとは泣き叫びたいですすがり付いて捨てないでって言いたいです。でもそれは惨めなだけだ。腕っぷしも弱いし、特別な力も無いのだから勝てるものがない。そりゃ、村のみんなは怒ったり慰めたりはしてくれるけど「仕方ない」って感じだ。うん、多分僕がその立場でもそういうと思う。だって本当に仕方ないもの。怒りや悲しみは勿論ある。だからって何をしても現実は変わらない、結局、日常にもどって働くしかない訳だ。そんなの、両親が魔物に襲われて死んでからわかっていたことだ。謝罪はなかった、うん、まぁ、忘れているんだろう。仕方ない。そう勝手に納得して、感情を押し込めてはや2ヶ月…。


「………で?無銭飲食に宿泊ですか…」


目の前で土下座をする魔法使い風の少女を睨み付けながら聞く。曰く、財布を落としたらしい。


「結果的には…、何でもするから衛兵に突き出すのだけはやめてください!!」


こんな村に衛兵の屯所はない、勇者パーティーの出身地とのことで、旅行者が増える見込みとやらがあるらしく、置こうという話もあるらしいが、一応、街道…といっていいのかわからないくらい寂れたのもはある村に今までなかったのもどうなのか…。


「そもそもここに屯所なんかないよ、そうだな…、普通なら皿洗いでもさせるところなんだろうけど、見ての通り寂れた宿屋なんでね…、あ、魔法使いなら薬の調合とか…、簡単な魔道具の作成とかできるかな?」


「勿論できるけど…」


「じゃあ、…よし、隣のの婆さんが薬師だから働かせてもらってくれ、ほら、こいつ紹介状。この村にいる間の飯くらいは…大したものじゃないが見繕ってやるから真面目に働けよ」


宿屋で仕事がないなら、他のところで稼がせるだけだ。村のみんなは知り合いみたいなもんだし、あんまし悪評を流さないように。「財布をなくしてこまっているようだから働かせてやってほしい」というまでに留めた。


「ありがとう…」


「まぁ、まとまった金が準備できるまで居たらいいさ、寂れてるけど、良い所だぜ?」


「流石にそこまでお世話になるわけには…」


「気にすんなって、部屋余ってるんだ」


そう部屋は余ってる、両親が死んでから、両親の部屋だったところまで宿に当てているし、そもそも三日に一度くらい客が来れば良い方だ、主な収入源は併設されてる酒場だ。一応、飯が旨いと評判なんだぜ?レシピを近所の奥様方にねだられる程度には。


「なにから何まで…ごめんね」


魔法使いは、ぶっちゃけ人が多いところなら仕事に困らない。虫除け程度のまじないができればどこだって引っ張りだこだし、都市の基幹インフラの維持には絶対に必要な職業なのに、全人口の100人に1人程度しかいないのだ、しかも、そのうち使い物になるのは5人に1人程度、そこまで珍しくはないが、需要も多く常に人不足である。そんな人間が、着の身着のまま1人旅…というのはおかしな話だ。とは思っていたが、彼女の仕事振りを見ていると本格的に怪しい、何せ、何年か前、俺が成人になるかならないか辺りの時期に死んだ魔法使いの爺さん…、虫除けの魔法が使える程度であったが、その人よりも明らかに力が強い、というより、宮仕えをしているレベルである。どうやら製薬が得意ならしく、彼女が来てから村の爺さん婆さんの調子が良いらしい。薬師の婆さんも褒めてた。何かあったのだろうが、それを聞くのはダメなのかもしれない。


「今日もお疲れ様」


「いつもありがとう…」


今日のメニューはパン、それからランバードの香草焼きとサラダ、ジレン芋のポタージュ。宿屋で出している一般的なメニューだ。材料こそ安いが、手はかけているつもりである。最近はフィリア…魔法使いの少女と二人で夕食を食べることが増えた。飯は準備するといった手前、作らないわけにもいかないし、どうせ人に食わすなら、最低限の物は作らないとプライドが許さない。


「そういえば、金はどれくらい貯まっているんだ?」


「もう大分…でもこの村、気に入っちゃったんだよね…」


ふにゃりと言った感じでフィリアが笑う、実は少し…この笑顔が気に入ってる。


「それは良かった」


「…本当にありがとね…、素性も怪しい、私なんかを逗留させてくれて…」


「気にするなよ、事情があっても、いやあるからこそあんまり聞いてほしくないことだってあるだろ?」


ふと、沈黙…何かを悩んでいるようである。


「…いや、話すよ…」


長々と旅をしていた理由を聞かされたが、どうやら王都の魔法使い同士の派閥争いに師匠が敗れ、居場所がなくなったらしい。


「勇者パーティの魔法使いさんが向こうの派閥でね、やっぱダメだったみたいでさ、師匠たちはみんな逃げるし、下っ端も下っ端の下町で小さい店開いてるだけだった私でさえ魔法使いギルドからは腫れ物扱い」


結構気に入ってたんだけどなぁ…あの店、とつぶやくフィリアの目には涙が溜まっていた。


「だから行先なんて無いようなものだし、これからどうしようかなぁ…って考えてはいるんだけど、今はここが良い素材収集場所の森もあるし、居心地良いからこのままで良いか…ってね」


この子も、勇者パーティの被害者…か。そう思うと何とかしたい気持ちが余計に強くなった、決してずっとこの子と一緒にいたいとか、よこしまな感情とか、そういうものに突き動かされているわけではないのだ。これは善意だ。うん、それに腕のいい薬師がいれば村も助かる。


「ならこの村にいればいいさ、ここにはギルドなんて面倒なものは無いし、村長に許可を取るだけでいい。森の使用だって共有地だから自由さ、何なら、薬草用の畑だって持てるぞ」


「ありがとね、本当にそうしようかしら…」


あぁ、やっぱりフィリアは笑顔の方が良い。彼女が笑顔になると嬉しい。


―――――――――


「私、この村で薬師として働きます」


翌朝、彼女が出した結論に、俺は喜びを感じた、あぁ、彼女と一緒にいることができると。我ながら気持ち悪いと思う。でもやっぱり好きなのだろう。


「御婆さんからは快諾されたし、村長さんへの報告を今日済ませてきます」


「そう、良かった…」


元々薬師の婆さんの後継者をどうするか、という問題が付きまとっていたため、彼女が村の一員となることは、皆に歓迎された、もとより、垢抜けた都会のお嬢さん風な美人である。人気が出るのにそう時間はかからなかった、そして、定住することにはみんなが喜んだ。現金な奴らである。人のこと言えないけど。家が見繕われるまで、それは継続されることになっている。婆さんの家は、婆さんの生活スペース以外ほぼ倉庫と化しているから、人がもう一人入り込めるスペースが無かったのだ。大工は棟梁が腰をやっているためその息子が指揮を執っているが、初めてなのか着工すら始まっていない。


「ライナスさん、繕い物、終わりましたよ」


「…あぁ、ありがとうフィリア」


というわけで、フィリアはまだ俺の家…、宿の部屋から、元は両親が使っていた別棟の部屋に移った。所謂プライベートスペースという奴だ。一度大きな行商人の隊商を泊めた後はこちらで生活してもらっている。実は薬師の婆さんの家へはこちらの方が近いし。婆さんが生垣に通用口を作ってしまった。いや構わないんだけど、俺の承諾は欲しかった。兎に角、こちらの方が部屋は広いし、薬の調合などもできるだろう。


「ふふ、なんだか夫婦みたいですよね」


ガタンッ


思わず食器を落としてしまった、木皿で良かった…。


「大丈夫ですか?」


「あ…あぁ…」


なんてことを言いやがる、意識していない訳が無いだろう。


「あの…、やっぱり、一緒に暮らしませんか?」


「都会ならそういうこともあるのかもしれないけど、こんな村じゃそれは所帯を持ったことにされちまうぞ…」


もう手遅れな気がするがな。


「…もしかして嫌ですか?」


「いやそんなことはないが…」


「つまりはそういうことですよ」


「は…?」


「だから、好きってことです、一緒に暮らしたいし、そういう関係にだってなりたい。私はそう思っています、あなたは?」


「…同じだ…」


少なくとも、彼女を好ましく思っていることは事実だ。しかし…


「君なら、俺の過去を知っているだろう?」


「だから?なんです?勇者のお嫁んさんの一人…確かイリアさんでしたっけ?と結婚の約束までしていたとか…、結局相手の不貞じゃないですか、無かったことになっていますし、あなたのせいじゃないでしょう?あぁ、まだそういうのを忌避する習慣が残ってるんですね、私は気にしませんよ。だってあなたは一片も悪くないんだもの」


そう俺は悪くない、悪くないからこそ引きずってるんだ。


「男ってめんどくさいですね…」


「だな…うん、こんな状態じゃ不満かもしれないけど…よろしく頼む」


勇者に婚約者を寝取られてから4か月、嫁ができました。

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[一言] 人型ゴミ勇者は死ね
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