表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

ホワイト・ヴァレンタインデー

 そして、ヴァレンタインデー当日。


 学校中が浮き足立っている中、私は涙で一日を過ごした。


 その放課後。

 虚しい想いで帰ろうとしていたその時。


「白石」


 後ろから私を呼ぶ声がした。

 振り向くと


「雪村君……」


 雪村君が近づいてきた。


「一緒に帰らないか? 送るよ」

「え、え、でも……」

 あまりに思いも寄らない展開に、私はしどろもどろになっている。

「遠慮するなって」

 戸惑いながらも私は、彼と並んで歩き始めていた。


 そうして、バスに揺られた。

 バスの中、急ブレーキで彼の胸に顔がぶつかった時、私は恥ずかしさのあまりキュン死するかと思った。


 しかし、その帰り道。

 クラスメートの危ない恋話コイバナ、流行りのお笑いや人気ユーチューバーの話……彼とのお喋りに私は夢中に興じた。




「送ってくれてありがとう」


 家の前で私は俯き、彼に対峙している。

「今日はすごく楽しかった……」

 私は素直に呟いていた。


「あのさ。白石」


 その時。

 急に彼はそわそわと雰囲気を変えた。

 私は首を傾げる。


「これ、もらってくれるか」

 彼は(スクバ)から何か紙袋を取り出した。

「開けて、いい?」

「ああ」

 私はがさごそと包みを開いた。


「こ、これって……?!」

 すぐには言葉にならない。

 それは多分、手作りのチョコレート・トリュフだったから。


「な、なんで……」

「そう、絶句してくれるなよ」

 彼は、わしわしとさらさら黒髪を掻いている。

「俺。実は、料理が好きでさ。それでスイーツの方も結構作るんだ」


「でも……」

 依然泡を食っている私に彼は言った。


「今日、ヴァレンタインデーじゃん。要は「愛の告白」の日だろ? 男からチョコ渡したっていいだろ」


「でも、何で。私に……」

「それを俺に直接聞きたいわけ?」


 私の顔がボン!と音を立てて赤らんだ。


「で、でも。雪村君には……彼女(カノジョ)さんが……」

「彼女? いないけど」

「でも、この前の日曜、綺麗な(ひと)と……」

「あー。あれは、果耶(かや)さん。兄貴の彼女だよ」

「お兄さんの…彼女、さん……!?」


 私は絶句した。


「そう。四こ上の兄貴の彼女。兄貴へのヴァレンタインプレ買うのを相談されただけ」


 私は、へなへなとその場に座り込んだ。

 彼もしゃがみこみ、私の顔を覗き込む。

「安心した?」

 彼は笑っている。


増田ますだに感謝だな」

 その時、雪村君はそう言った。

「え? 志保ちゃん?」


「月曜日、呼び出されてさ。果耶さんとの関係問い詰められて。その時、その。白石の気持ちも聞かされたんだ。「最近、茜にちょっかいかけてるわよね。アソビだったら許さないから」て、タンカ切られてさ。参ったよ」


 志保ちゃん~~~!! 何てこと!

 私は真っ赤になって言葉も出ない。


「俺は、本気だから。白石のこと」


 その時。

 真剣なまなざしで、雪村くんがそう言った。


 その黒い瞳に吸い込まれそうになりながら、


「雪村君……。私も」


 意外なほどすんなりと、私は答えていた。


「あー、良かった。ふられたらどうしようって、やっぱり気が気じゃなかったよ」

 彼はふうっと大きな息を吐き、そしてまた笑った。


「あ、あのね……」

「何?」

「今日、私も本当は手作りトリュフ、持ってくるはずだったの。雪村君に」

「知ってるよ。失敗したんだって?」


 あ~~~!! 志保ちゃん~~~!!


「今度一緒に作ろう。教えてやるよ。簡単で美味しいスイーツの作り方」

「うん!」

 私は、嬉しすぎて、幸せで、泣き笑いになった。


 雪村君……。

 ホワイトデーこそは私も美味しいスイーツ作って、ちゃんとお返しするから。待っててね。


「あ……」


 その時、空から白いモノが舞い降りてきた。

 それは、辺りを白い世界に染め上げてゆく。

 ちらちら舞う雪は、ヴァレンイタインをロマンチックに彩る。


「ホワイトヴァレンタインだな」

 雪村くんの吐く息も白い。


「白石」

 雪村くんの掌が、私の頬に触れた。

「雪村君……」


 そして、私達は粉雪舞い散る白い世界の中、ひっそりとこの上なく優しいKISSを交わした。



  了







本作は、2018年アンリさま主宰【キスで結ぶ冬の恋】企画参加作品(現在、検索除外中)を、2019年狸塚月狂さま主宰【狸バレンタイン企画】に参加する為に、規程3000字に改稿した作品です。


アンリさま、狸塚月狂さま参加させて頂き、ありがとうございました。


最後までお読み頂いた皆さまにも感謝申し上げます。感想など頂けましたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] あぁ、女子高生ってこんな感じだったっけ……と、眩しい思いで読みはじめ。いやもう、するするっと読ませていただける点が一つ。 二つめと言いますか、とどめですよね。雪村くんっ!! (絶叫) …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ