ホワイト・ヴァレンタインデー
そして、ヴァレンタインデー当日。
学校中が浮き足立っている中、私は涙で一日を過ごした。
その放課後。
虚しい想いで帰ろうとしていたその時。
「白石」
後ろから私を呼ぶ声がした。
振り向くと
「雪村君……」
雪村君が近づいてきた。
「一緒に帰らないか? 送るよ」
「え、え、でも……」
あまりに思いも寄らない展開に、私はしどろもどろになっている。
「遠慮するなって」
戸惑いながらも私は、彼と並んで歩き始めていた。
そうして、バスに揺られた。
バスの中、急ブレーキで彼の胸に顔がぶつかった時、私は恥ずかしさのあまりキュン死するかと思った。
しかし、その帰り道。
クラスメートの危ない恋話、流行りのお笑いや人気ユーチューバーの話……彼とのお喋りに私は夢中に興じた。
「送ってくれてありがとう」
家の前で私は俯き、彼に対峙している。
「今日はすごく楽しかった……」
私は素直に呟いていた。
「あのさ。白石」
その時。
急に彼はそわそわと雰囲気を変えた。
私は首を傾げる。
「これ、もらってくれるか」
彼は鞄から何か紙袋を取り出した。
「開けて、いい?」
「ああ」
私はがさごそと包みを開いた。
「こ、これって……?!」
すぐには言葉にならない。
それは多分、手作りのチョコレート・トリュフだったから。
「な、なんで……」
「そう、絶句してくれるなよ」
彼は、わしわしとさらさら黒髪を掻いている。
「俺。実は、料理が好きでさ。それでスイーツの方も結構作るんだ」
「でも……」
依然泡を食っている私に彼は言った。
「今日、ヴァレンタインデーじゃん。要は「愛の告白」の日だろ? 男からチョコ渡したっていいだろ」
「でも、何で。私に……」
「それを俺に直接聞きたいわけ?」
私の顔がボン!と音を立てて赤らんだ。
「で、でも。雪村君には……彼女さんが……」
「彼女? いないけど」
「でも、この前の日曜、綺麗な女と……」
「あー。あれは、果耶さん。兄貴の彼女だよ」
「お兄さんの…彼女、さん……!?」
私は絶句した。
「そう。四こ上の兄貴の彼女。兄貴へのヴァレンタインプレ買うのを相談されただけ」
私は、へなへなとその場に座り込んだ。
彼もしゃがみこみ、私の顔を覗き込む。
「安心した?」
彼は笑っている。
「増田に感謝だな」
その時、雪村君はそう言った。
「え? 志保ちゃん?」
「月曜日、呼び出されてさ。果耶さんとの関係問い詰められて。その時、その。白石の気持ちも聞かされたんだ。「最近、茜にちょっかいかけてるわよね。アソビだったら許さないから」て、タンカ切られてさ。参ったよ」
志保ちゃん~~~!! 何てこと!
私は真っ赤になって言葉も出ない。
「俺は、本気だから。白石のこと」
その時。
真剣なまなざしで、雪村くんがそう言った。
その黒い瞳に吸い込まれそうになりながら、
「雪村君……。私も」
意外なほどすんなりと、私は答えていた。
「あー、良かった。ふられたらどうしようって、やっぱり気が気じゃなかったよ」
彼はふうっと大きな息を吐き、そしてまた笑った。
「あ、あのね……」
「何?」
「今日、私も本当は手作りトリュフ、持ってくるはずだったの。雪村君に」
「知ってるよ。失敗したんだって?」
あ~~~!! 志保ちゃん~~~!!
「今度一緒に作ろう。教えてやるよ。簡単で美味しいスイーツの作り方」
「うん!」
私は、嬉しすぎて、幸せで、泣き笑いになった。
雪村君……。
ホワイトデーこそは私も美味しいスイーツ作って、ちゃんとお返しするから。待っててね。
「あ……」
その時、空から白いモノが舞い降りてきた。
それは、辺りを白い世界に染め上げてゆく。
ちらちら舞う雪は、ヴァレンイタインをロマンチックに彩る。
「ホワイトヴァレンタインだな」
雪村くんの吐く息も白い。
「白石」
雪村くんの掌が、私の頬に触れた。
「雪村君……」
そして、私達は粉雪舞い散る白い世界の中、ひっそりとこの上なく優しいKISSを交わした。
了
本作は、2018年アンリさま主宰【キスで結ぶ冬の恋】企画参加作品(現在、検索除外中)を、2019年狸塚月狂さま主宰【狸バレンタイン企画】に参加する為に、規程3000字に改稿した作品です。
アンリさま、狸塚月狂さま参加させて頂き、ありがとうございました。
最後までお読み頂いた皆さまにも感謝申し上げます。感想など頂けましたら嬉しいです。