手作りヴァレンタイン
「あー、茜! 生クリーム吹きこぼれてる!!」
その時、志保ちゃんは慌ててコンロの火を消した。
「もう。初っ端からこれじゃ手作りトリュフなんて、到底無理だよ」
志保ちゃんは頭を抱えている。
「そんな冷たいこと言わないでよぅ。志保ちゃん、ね!」
のんびり笑う私に、志保ちゃんは再び溜息を吐いた。
私、白石茜。
聖汐学院高等部二年生。
性格ふわふわ天然。
一方、私の大親友・志保ちゃんは頼りない妹風の私の面倒を何かとよくみてくれる姉御肌の性格の持ち主だ。
さっきから何をやっているのかというと、ヴァレンタインの手作りチョコ作り。
私が片想いしている雪村君に渡す為のチョコレートトリュフを作っている。
雪村君は典型的な眼鏡男子。181㎝の長身、さらさら黒髪の爽やかルックス。
三学期に席が隣同士になって以来、結構喋る。
最近では毎日ふと目が合う気がするんだけど、まさか……ね。
とにかくヴァレンタインデーはもう目前。
だから、こうして志保ちゃんと手作りのトリュフ作りにチャレンジしているというわけ。
溶かしたチョコレートは冷やして固め、ラップに包んで軽く丸めるんだけどこれが結構難しい。
綺麗な丸形にならないのだ。大きかったり、小さかったり、形が凸凹。
「ねー、志保ちゃん、どうしよう……」
私は志保ちゃんに泣きついた。
「仕方ないじゃん。出来ないことは。とにかく全部丸めてまた冷やさなきゃ」
志保ちゃんはてきぱきチョコを丸めていく。
更に冷蔵庫で冷やすこと約一時間。
そして、いよいよラップを外して再び丸め直した。
しかし。
この段階でこの手作りトリュフの失敗は歴然だった。
形が歪すぎる。
良くも悪くもいかにも、手作り……。
「ま、ま。とりま試食しよ!」
志保ちゃんが場を取りなし、そう言った。
そして。
一粒、食べてみた瞬間。
「う……! 何? これ」
二人とも顔を見合わせた。
形以前の問題……明らかに、味わいが微妙!
はあーっと志保ちゃんが大きく溜め息をついた。
「ど、どうしよう。志保ちゃん……」
私は自分が情けなくて、悲しくなって泣けてきた。
「雪村君に渡すチョコ……どうしたらいいの」
「泣かないの、茜。日曜日。日曜に街に買いに行くのよ。この際、手作りに拘ってる場合じゃないわ!」
「う、うん……」
私は手作りトリュフは泣く泣く諦めることにしたのだった。