老人、転生する
???にて
目の前で微笑む美女は、目を覚ましたこちらに気付いたのか、誰かを探すように周りを見回している
(助けられた…ってのかい。すまねぇなぁお嬢さん)
「あー…あばば。うー」
弦次郎はお礼を言おうと口を開くが、口から出るのは単語とは呼べない『音』
(ん?どういうこった)
周りを見ると、上がぽっかり空いた恐らく木製の柵の中にいることに気付く
そして、妙に体が思うように動かないことにも…
(な、なんじゃこりゃあーーーー!)
とても小さい、『まるで赤子のような』手が見えた
そして唐突な浮遊感に襲われる
とても大きな手が弦次郎を抱き上げていた
黒髪の銀色の瞳をした青年が、にこやかに笑いながらこちらを見ている
「わかるかい…?パパだよ?」
見知らぬ青年にパパと言われ、困惑する弦次郎
すると、横から別の手が伸びてきて、青年から弦次郎を奪った
「あなた、アルトが困惑してるわ。もっと優しく抱いてあげないと」
「分かってるよシェリア。…所で、アルト返して。もっとよく顔を見たい」
「だーめ、アルトはそろそろご飯の時間よ?…さぁアルト、お飲みなさい?」
そう言って、シェリアと呼ばれた恐らくまだ二十歳位の、少女と呼ばれても良い頃の女性が、服をはだけさせる。真っ白に染まった肌に浮かぶ、小さな蕾。まだ若々しいそれを、弦次郎に付きだして少女が笑う
唐突に目の前に表れた乳房にさらに困惑する弦次郎
(おいおいおいおい、どういうこって!?ここはそう言う店なのか!?俺はかみさんに操たててんだぞ?!かみさんにバレたら…あ、もう居ねぇのか…いやそう言う事じゃねぇ!まだ年の若い娘さんが、こんな爺相手にいってぇ何を…!?)
そこまで考えてみた弦次郎は、今までの状況とこれを照らし合わせ、一つの考えに辿り着く
(…あぁ、これはあれかい、曾孫がよく読んでた『らいとのべる』とか言う本にあった、転生ってやつかい。確か、渡し守のあんちゃんもそんなこと言ってたなぁ…この分だと、あさひちゃんもこんな感じかい。今度は良い親御さんだと良いなぁ…あさひちゃん)
そんな事を思い出しながら黄昏ている弦次郎に、今度は夫婦が困惑する
「…シェリア、この子いきなり顔真っ赤にして動きが止まったと思ったら、今度はしんみりした顔で黄昏始めたんだけど」
「…まぁ、どうしたのかしら。もしかして、お腹いっぱいなのかしらね。あ、オムツが濡れてるのかも」
そう言うと、いそいそと服を整える女性
急に消えた乳房に、何となく残念な気持ちになり、更にそんな自分に自己嫌悪する爺
(…全く、若い娘さんの見てひかれちまうなんてなぁ。しっかし良い乳だった。かみさんの若い頃もあれくらい…いやいや、何考えてんだ俺は!枯れとけや!そこは枯れとけや!…ふぅ、落ち着こう。取り敢えず、これからどうす…うぉっ!)
ベッドに戻された弦次郎は、今度は足を捕まれてパンツを下ろされる。股間がひんやりする感覚に、心の中で顔がひきつった
どうやら粗相をしたと思われたらしい
最期は寝たきりにならず、下の世話を受けたことのない弦次郎は、初めての感覚に本気で焦り、そして、全てを諦めて為されるがままになっている
(…畜生め。こちとら元気が取り柄で、下の世話なんざ受けたことねぇってのに…あーあー、実の家族とかみさんにしか見せたことねぇのに…へっ、今の俺はガキだしな、しょうがねぇしょうがねぇ。…泣いても良いんだよな、俺)
思わず涙腺が緩むが、なんとか耐えきる弦次郎。視界がぼやけ始めているが、彼にとっては気のせいである
前世ですら体験したことの無いプレイ(?)を受けた彼は、精神的にボロボロになっていた。
ーーーーーーーー
エンディコット家、子供部屋にて
「あらあら、疲れたのかしら。寝てしまったわね」
さまざまなプレイによって心を折られた弦次郎は、寝息を立てて健やかに就寝中
それを見つめる夫婦の目はとても微笑ましい物だ
「ふふ、自分達の子供がこんなにも可愛い物だなんて知らなかったわ」
そう言って、頭を撫でるシェリア
まるで聖母のような微笑みを浮かべ、我が子を撫でる妻を、微笑ましい目で見つめる夫
「サイラス、あなたもこっちに来て?この子の顔、よく見てあげて」
「ふふ、さっきはダメだと言ったのにね」
「あら、さっきはこの子が起きていたもの」
「…起きている内はダメなのかい?」
「怖がるでしょ?だからさっきも貴方を見て固まったのよ」
愛する妻に、言外に顔が怖いと言われ、思わず眉間を揉んでしまうサイラス
遺伝であるからして仕方がないのだが、黙っていればまるで狼の様に鋭い目付きに、密かに家来にすら怖がられている事を知っているサイラスは、何も言えない
…最も、顔立ちが整っているため、鋭い目付きと合わせ一部の貴族令嬢達からは人気であったが。サイラスはそれを知らない
何故か、夜会にて親睦を深める為に令嬢達と話をしていると、笑みを浮かべながら殺気を放ってくる愛妻が何を考えてるかなんて、当然分かっていない
「そんな顔しないの、私はあなたの顔も含めて好きよ?」
そう言われ、思わず顔が緩むサイラス
しかし、その笑みは獲物を見付けた狼の様で、とても怖い
侍女の顔にも冷や汗が浮かんでいる
しかし侍女は何も言わない。ここで何かをいえば、顔に似合わず繊細な自分の主人がどれだけ落ち込んでしまうか、よく理解出来ていた
新任の侍女がやらかすたんびに、こっそり嫁に泣き付いているところを偶然見てしまったからでもある。…最も、実のところは男前な主人に使えることが出来た歓喜の悲鳴であったりすることもあるのだが
上機嫌のサイラスは、弦次郎の頭を撫でると、静かな声で呟く
「生まれてきてくれてありがとう、アルトリオ」