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老人、あの世にて

「ここは…どこだ?」


死んだ、と思った瞬間、弦次郎は知らない場所に立っていた

目の前には大きな川。河原には誰かが積み上げたであろう石の山が無数にあった


「三途の川…ってぇやつか、初めて見るが」


その大きな川を、1隻の小舟が進んでくる

弦次郎の近くに止まると、舟を漕いでいた男が話し掛けてきた


『渡し賃はあるか?』

「渡し賃?六紋銭の事か?」

『そうだ』


襤褸を纏った不気味な男が、手を差し出す


「あー、ちっと待ってな」


懐を探ると、六紋銭が印刷された紙が出てきた

最近はこう言う物もあるらしい


『紙銭か』

「駄目かね?」

『いや、問題はない。昔から亡者の中には紙銭を使うものもいた。むしろ、それが普通だ』


男は紙銭を受けとると、船を指差した

乗れ、と言うことらしい


「そいじゃあ失礼して」


小舟に乗ると、乗っていた亡者と目があった

まだ年の若い少女だ

何処か諦めた顔の少女は、弦次郎と目が合うと即座に顔を伏せた


「…この嬢ちゃんは?」

『…自殺者だ』


弦次郎が声を伏せると、渡し守は少し悲し気な顔をしてポツリポツリと語りだした


『最近はこう言う亡者がとても増えた。頼る大人も友人も無く、人生に悲観して命を絶つ。そう言う子供が』

「そう、か…」

『本来なら自殺者で子供と言う時点で舟には乗せられん。子供は親を悲しませた罪で、河原で石を積まなければならないからな』

「なら?」

『…この子には、死んでも悲しむ親すらいなかった。そう言うことだ』

「世知辛ぇもんだ…親ってぇのは子供が生まれたら、無事に生まれてくれた事に感謝して大切に育てるもんだろうに」

『ああ…そう思うさ。それに乗せたのは閻魔様からの慈悲があったからでもある』

「慈悲?」

『閻魔様はただ亡者の罪を裁くだけのお方では無い。子供を助け、見守る地蔵菩薩としての顔がある。だからこそ、こう言う子供も乗せるようにお達しが来たのさ』

「そうかい…拾う神様もいたってことか」

『そうだ』


俯いた少女には、弦次郎達の会話は聞こえなかった

諦めた表情で下を向くばかり


「嬢ちゃん、お名前は何て言うんだい?」

「あさひ…」

「そうかい、あさひちゃんかい。…ちょっと待ってな。孫達は気のきく子達だったから…確かここに…」


ごそごそと懐を探る弦次郎を、少女は不思議そうに眺めている


「…はは、やっぱり入れてくれたかい。良い子達に育ててくれたよ、息子達も」


取り出したのは、袋に入った琥珀色の鼈甲飴だった


「あめ…?」

「ああ、このおじいちゃんの大好物だったんだ。孫達が入れてくれたのさ。食べるかい?」

「食べる…」


おずおずと受け取った少女は、飴を口に含むと幸せそうな顔をした


「あまい…美味しい…」

「そうかい。まだあるからゆっくり食べな」


そう言って、弦次郎も飴を食べる

甘く、懐かしい味だ

小さい頃に縁日で初めて父親に買って貰ってから、弦次郎はこの飴を気に入っていた


「ほら、渡し守さんも」

『…良いのか?』

「そんな物欲しそうな顔されちゃなぁ…」


そう言って苦笑する弦次郎に、罰が悪そうな顔をしながら渡し守も飴を受け取る


『旨いな…とても懐かしい味だ』

「なんだ、食べたことあったのかい」


不思議そうに言う弦次郎に、昔を懐かしむように渡し守が答える


『俺は…元はお前達と同じ亡者だった。大昔に犯した罪のせいで、ここで渡し守をするように命じられた。…懐かしい。貧しかった俺の家では、年に一度食べられるか分からないご馳走だった』

「そうだったのか…」

『ああ…俺の人生の中で、一番楽しい思い出だ。思い出させてくれてありがとうよ』

「良いってことよ。あんた、顔の割りには好い人そうだからな」

『ふふ…顔のことは余計だ』


「おじい、ちゃん」


飴を食べ終わったのか、こちらに視線を向ける少女


「なんだい?もっとたべるかい?」

「ううん…。ありがとう、おじいちゃん」


そう言って、少女は頭を下げた


「…おとうさんもおかあさんも、こんなに優しくしてくれなかった。おとうさんは私をぶって、私はいつも泣いてた。おかあさんは、あなたなんて生まれてこなければ良かったって言ってた。学校のみんなは貧乏人の子供、臭い、死ねって言って、先生は、がまんしなさいって…私は…ずっと…一人で…」


耐えきれなくなったのか、話す言葉は切れ切れで…

それでも瞳に大粒の涙を浮かべながら、少女は話す


「私は…生まれないほうが良かったの…?」

「そんなこと無いんだよ、嬢ちゃん」


堪らなくなった弦次郎は、思わず少女を抱き締めた

一瞬驚いて体が動いた少女は、頭を撫でる大きな手に安心し、そのまま泣き続ける


「子供ってのはな、嬢ちゃん。生まれてきたらみんな感謝するんだよ。よく生まれてきてくれたね、頑張ったね、ってな。みんな感謝して、ちゃんと大きくなれるようにってお願いするもんなんだよ。だからな、生まれない方が良かったなんて、言っちゃあいけないよ」

「でも、おとうさんもおかあさんも…」

「おとうさんもおかあさんもそう言うってなら、俺が言うさ…。生まれてきてくれてありがとう、あさひちゃん」

「おじいちゃん…」


泣き続ける少女をあやすと、泣き疲れたのか少女は寝息をあげた

ゆっくりと体をおろし、舟に寝かせる


『…優しいな』

「あんたこそ、な。幾ら閻魔様の命令とはいえ、嫌味一つ言うどころかこの子を気遣ってるんだからな」

『子供は大切な宝だ。外道に落ちた俺も、その考えだけは絶対に変えない』

「やっぱりあんた、好い人だねぇ」


染々と話す渡し守と弦次郎

ふと、弦次郎が顔をあげた


「ところでこの舟、何処に向かってるんで?」


幾らなんでも舟の旅が長いような気がする。川を最初に見た限りだと、もうとっくに対岸に渡っていても良いと、弦次郎は思った


『…そうだな、まだ言っていなかった』

「普通なら、対岸にはもう着いてる筈だろうに、まだ着かねぇのかい?」


辺りを見渡すと、そこにはあるはずの対岸が存在していなかった

まるで川ではなく、海のような…


『ここはな、世の境目と呼ばれる場所だ』

「世の、境目?」

『あの世とこの世、更には世界の境、全てが交わる場所だ』

「おい、閻魔様の所につれてくんじゃないのかい?」

『お前達亡者は、地獄や天国や下界、全て合わせて八つの世界があると聞いたことはないか?』

「ああ、餓鬼道とか畜生道とかの事か?」

『それだ。お前達の世に伝わっているのはその八つの世界だが、実はそれだけではない』

「まだあるってのかい」

『ああ。お前達の言葉で言うならば、異世界と呼ばれる所だ』

「…ああ、曾孫が読んでる本にそんなのがあったな。魔法やら魔物やらって言うもんがある世界で冒険したり、とか言う奴か」

『その認識で概ね間違ってはいない。お前達二人はその世界で、もう一つの人生を歩んでもらう。閻魔様からはそうお達しが来た』

「判決が出るのが早くねぇか…?」


てっきり閻魔様の前で、何やら前世での行いを言われたあと判決を下されると思った弦次郎は拍子抜けした

本人としては、閻魔様とやらを人目拝んで見たいと言う思いもあったが、先に逝った連中に会うのも楽しみにしていた

この分では…恐らく再会は諦める事になるだろう

多数の世界に送られると言うなら、確実に会えると言うことはない


「…かみさんにはもう会えねぇか。息子夫婦も、戦友達にも」

『そう…だな。会うのは難しいだろう』


渡し守も残念そうに言う

顔が悪いだけで、本当に好い人なのだ


『…着いたぞ、ここだ』


暫く進むと、大きな門構えが見えてきた


『ここから先はお前達だけで行け』

「なんだい、お別れかい。寂しくなるね」


少しの間だったが、この気の良い渡し守が気に入っていた弦次郎は残念そうに呟く

寝ている少女を抱き抱え、舟からおりた弦次郎に、渡し守も声をかける


『そう言われたのは初めてだな。…ではさらばだ、亡者達。願わくば、暫くは会えないことを祈るぞ?旨い飴を、ありがとうな』


そう言って遠ざかる、渡し守と舟

暫くそれを眺めていた弦次郎は、巨大な門に向き直った


「さて…どうするか。かみさん達には会えねぇみたいだしなぁ。…そんならそれで、もう一度人生、歩んでみっか」


覚悟を決めた弦次郎は、少女を抱えたまま門をくぐっていった。


ーーーーーーーー


(ん?なんだこりゃあ?体が動かねぇ。いったい全体どうしたって…)


門をくぐると、途端に体が動かなくなった弦次郎

そして、視界が切り替わり…

目の前で、美しい女性が微笑んでいた

文章下手くそでスミマセン

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