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リア充爆発しろ!

作者: しゃもん

「頼む、黒子。引き受けてくれ。」

 森にある粗末な小屋の前で白銀の狼が地面に頭をこすりつけていた。


 黒髪を風に揺らしながらも、黒い瞳を嫌そうに竦めた黒子が目線を外す。


「報酬はそっちの言い値で払おう。」

 白銀の後ろに控えていた黒狼がそう黒子に言い放った。


「いい値ねぇ。」

 黒子はつかつかと歩き出すと、頭を下げている白銀の狼の背に小柄な体を乗せた。


「走れ、シルバー!」

 黒子は、白銀の狼に跨って大声で叫んだ。


「おい、俺は馬じゃない。」

 思わず立ち上がった狼が呟いた。


「あら、いいじゃない。雰囲気、フンイキ。」

 黒子は足で白銀の狼の脇腹を強く蹴った。


「いいから降りろ。」

 見えないはずの狼のこめかみにブチッと言う文字が・・・。


「あら、そんなこと言っていいのかしら。あなたの愛しの伴侶さんを助けるのに、私の力が必要なんでしょ。早くしないと、彼女さん犯されちゃ・・・。」

 いきなり跨っていた狼が走り出した。


 グエッ。


 体が後ろに引っ張られ、慌てて掴んでいた鬣をギュッと握った。


 走っているその白い狼の後ろからは、もっと体が大きな黒い狼も並走していた。


 心なしか風に乗って押し殺した笑い声が隣から聞こえてくる。


「おい、まだか?」

 黒子から指示された方向に駆けながら、白銀の狼が背中に乗っている黒子に怒鳴った。


「ホント、せっかちね。ほら、もう見えてきたわよ。」

 黒子がそう言った途端、雪で真っ白になった平原に白い建物が見えた。


「あそこか?」


「そうみたいね。ちょっと、いきなりこのまま突進する気。」

 黒子は慌てて白銀の狼から飛び降りると、手を振り上げた。


 彼女の手から白く輝く光が生まれ、平原をすでに走り出していた白銀の狼の前を照らした。


 照らされた地面が白く輝いて爆発する。


 爆風をまともにくらって、白銀の狼が吹き飛ばされた。


 ギャッ、キャンキャン。



 クックックックッ。

 クックックックッ。


 それを見ていた黒い狼と黒子が後方で笑い声を上げた。


 黒子は笑いながら、隣の黒い狼に跨った。


「走れ、クロ。」


「おい、俺は猫じゃない。」


「なんで猫なのよ?」


「お前が飼っていた猫の名だろ、それ。」


「あれ、なんで知ってるの?」

 笑いながらも黒い狼は駆け出した。


 二人は暴風を食らって吹き飛ばされた白銀の狼をすぐに追い抜くと、彼の番が捕まっている建物に突撃した。


「そこ、左。」

 黒子の指示通りに黒狼は走った。


 終始、頭上から振って来る飛来物は黒子の魔法で全て放った相手に打ち返されていた。


 黒子は建物のちょうど半分のところに来ると、その壁を向こう側までぶち抜いた。


 そこには、先程の狼と同じ白銀の狼が檻に囚われている姿があった。


「伏せて!」

 白銀の狼が伏せた途端、黒子の手から光が飛んだ。


 檻の上段がきれいに吹き飛んだ。


「に・・・にいさん!」

 白銀の狼の弱々しい声に応えるように、黒狼は黒子を乗せたまま檻に飛び込むと、その狼の首根っこを咥えると、ポイッと檻の外に放り投げた。


 前方の床にドサッという音と共に狼の体が落下した。


「行くぞ、立ち上がれ!」

 檻を飛び出した黒狼である兄の言葉に、白銀の狼が弱々しく体を起こした。


「おい、なんて乱暴なことをするんだ。お前の実妹だろ!」


「麻衣。」

 遅れて駈け込んで来た白銀の狼が放り投げられた狼の傍に寄ると、愛しそうにその体を舐めた。


「嘉人さん!」

 二人は熱く見つめ合う。


 黒子は一瞬辛そうな顔で二人を見つめた後、リア充爆発しろと呪文を唱えた。


 直後に、綺麗に穴の開いた壁の向こうに見える平原に向け、ドデカイ魔法を放った。


 どっかーん。

 どっかーん。

 どっかーん。


 腹に響き渡る音が三度轟き、二匹の白銀の狼がビクリと飛び跳ねた。


「走れ、ブラック!」

 黒狼は今度は何も言わずに、黒子を乗せたまま駆け出した。


 クソッ。


 ケガをした伴侶を乗せた嘉人も後に続いた。




 数時間後。


 追手の気配が無くなった所で、黒子は黒狼に止まるように指示を出した。


 後ろからついて来ていた嘉人も怪訝な表情ながら、それに倣った。


 黒子は嘉人の背にぐったりとなって乗っている麻衣に近づくと、怪我の具合を見るために彼女を彼の背から降ろした。


 黒子が彼女を地面に降ろした時にはもう意識がなく、かなり危ない状態だった。


 彼女は人間に戻ったまっ裸の嘉人にチョイチョイと手招きした。


 素直に従った嘉人が近くに来ると、いきなり光の刃で彼の腕をザックリと切り裂いた。


 真っ赤な血が噴き出す。


「おい。」


 嘉人が文句を言っている間に、黒子は噴出した血を魔法で赤い飴のように固めた。


 嘉人の腕の傷は、人狼の治癒力ですぐに塞がった。


 その頃には、真っ赤な飴が数十個も出来ていた。


 黒子はその一つを横たわる麻衣の口に放り込んだ。


 丸い飴が溶ける度に、少しずつ傷口が塞がっていく。


「すごいな。」

 後ろから見ていた黒狼が目を丸くしていた。


 完全に飴が溶けた所で、黒子は残りの飴を嘉人に放った。


 嘉人はそれを慌てて受け止めた。


「一時間ごとに食べさせて。全部、舐め終われば気がつくわ。」


 嘉人は頷いた。


 それを見た黒子は立ち上がると、そこを離れた。


 後ろから黒狼がついて来る。


「ちょっと、なんでついてくるのよ?」


「送る。」


「はあぁ、実妹が心配じゃないの?」


「麻衣の番がいるし、黒子の魔法薬を嘉人は持っているんだ。なんで心配する必要がある?」


 この黒狼は本当・・・。


 黒子は心の中で溜息を吐きながら、それじゃと彼の背に跨った。


 多量の魔法を立て続けに使ったので体がふらふらしていた。


 一刻も早く小屋に戻って、いつものベッドで休みたかった。


 それなのに何を考えたのか、こ・い・つ。


 黒子を自分の屋敷に連れてきたのだ。


「ちょっと、伯爵。何を考えているわけ?私の家はあっちの森にあるんだけど?」


「今日からここに住め、黒子。」


「はぁ・・・、頭に白い蛆が湧いてるわよ、伯爵。」

 黒子の文句に応える代わりに、人間に戻ったまっ裸の伯爵は彼女を担ぎ上げると、寝室のドアを開けてそのままふかふかのベッドに倒れ込んだ。


「ちょっ・・・ちょっと・・・・なにす・・・。」

 黒子はベットにダイブした瞬間に死んだように眠るまっ裸の伯爵に抱きしめられ、まったく身動き取れずに彼の腕の中でバタバタと暴れた。


 くそっ、イケメン伯爵。


 起きたら文句を言って、礼金を山のようにふんだくってやる。


 それでも、ちょっと筋肉質の固い胸板に抱き込まれ、すぐ傍に見える整った顔が彼女の心臓をかなりドキドキさせた。


 ちょっとやだぁー。


 なんだか胸が・・・。


 く・・・くる・・・しい。


 ドキドキと高鳴る黒子の心臓の音は、本人の意志に反して抱き締めている相手を強く意識させた。


 そのうち魔力切れの症状が強くでて、そのまま深い眠りに落ちた。


 結局翌朝まで、黒子はフカフカベッドで眠ってしまった。


 不覚。


 体を起こすと、空腹でお腹がなった。


 そこにどこに行っていたのか、目が覚めた黒子の前に人間の姿に戻った伯爵が霜降りの極上の肉を差し出した。


「これを食べてここに留まるか、見なかったことにして森に帰るか?」


 ちょっと、どういう二択なのよ、それ。


 こういう時は普通、何も言わずに食べろがセオリーでしょ。


 なんで二択なの。


 そう思考しているうちに、無意識に肉を口に運んでいた。


 はぁー、うまい。


 なにこの蕩けるような口当たりに、肉汁の美味いこと・・・。


 はっ、しまった。


 食べちゃった。


 上手そうに食べる黒子の耳元で伯爵が自分の真名を呟いた。


「俺の真名は、零次れいじというんだ、黒子。俺の番。」


 チュッ。


 えっ、今・・・頬にチュッって、チュッって・・・。


 つ・・・つがい。


 真っ赤な顔の黒子が零次を見た。


 このリア・・・あれ、リア充って、自分!


 国境にある伯爵家に黒い髪の花嫁が来たと噂になったのは、そのすぐ後・・・。


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