表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/24

第6話 恋愛も結婚もしない

優亜が笑い転げた。


「その話?妹さん知っているんだ。

それね、うそだよーっ。」



「えっ、うそなのか?」


「なんか、私、就職してしばらくしたら、妙にもてちゃって、言いよる人が多くて困ったんだ。

最初はちょっと嬉しかったけど、そのうち我慢超えちゃった。

そして、協力してくれる同僚数人に頼んで、

地元の愛知県に彼氏がいるっていう噂を流してもらったの。

そしたら、あっという間に、言い寄ってくる男の人減っちゃった。


それでも、彼氏と別れろよ、俺の方がいいぞとか、

こっちでの彼氏ではだめ?とか

いろいろ言って、口説いてくる人はいるけどね。


まあ、なんとか対処している。」


「好きな男とかいないのか?」


「実は、彼氏とか作らないって決めたの。

だって、彼氏を作るってことは、私の年齢だと結婚につながるじゃない?

結婚ということになると、私の正体を明かすことになる。

それって、大問題だよ。

相手は、ショック受けるし、

身の回りの人に話すかもしれない。

結婚の話もなくなるかもしれない。

穏やかな話にはならないと思う。」



「いや、君の正体を知った上で、一緒になりたいって思うやつだっているだろ?

それから、誰にも話さないでいてくれるかも。」


「でもね。子供を作れないんだよ、私。

なかなか 厳しい条件だと思う。


たとえ、相手がいいって言ったって、

たぶん、

家族に話して反対されるんじゃないかなあ。


へたすると家族以外に話しちゃって

大騒ぎになるかも。


誰にも話さないでいてほしいという希望に対してオッケー出してくれるかどうかは

全くわからない。

カミングアウトはリスク高いよ。


だから、私は、彼氏をつくらない。

結婚も諦めて、一人で生きて行くの。」


「そ、それは、寂しくないか?」


「寂しくない。今の仕事楽しいから・・・


ところで、話変わるけど

私のこと、優亜って読んでくれる?

それから、富谷のことは浩史って

呼んでいいかなあ。」


「ああ、いいよ。

確かに、呼び方あいまいだよな。

昔の呼び方だと呼びづらいし。」


「ありがと。

早速だけど、浩史は彼女いないの?」


「ああ、残念ながら、いないよ。努力してるんだけどね。」


「じゃあさっ。彼女できるまで、私と時々会ってくれない?

漫画とかアニメの話をしてくれる友達がいなくて、欲求不満だったの。

コミケとかも行ってみたいし、声優のイベントにも行きたい。

オタクの趣味の仲間がいない私を助けると思って……たのむよ!」


「えっ?ああ・・・

いいよっ。

あのさっ、オタク系だけでなく、スポーツ観戦とか他のイベントとかもいいかっ?」


「うん、いいよっ。ラグビーとか見に行きたいっ。

でも、浩史に好きな女の子できたら、会わないからねっ。

私邪魔になるもん。そのへんはきちんとする。

そういうことでいいっ?」


「あ、ああ・・・(何だ。うれしいような、うれしくないような不思議な気持ちになる。

こいつは本物の女性ではないから、この提案は間違っていないんだろう。

いくら、美人で可愛いって言ったって、結婚となると確かに違う。

おれだって、こいつと結婚なんかできない・・・と思う。)」


その後、今後の予定を話しているうちに車は東京に入り、神奈川県に抜け、東京湾に面するデートスポット

の駐車場にすべりこんだ。


「わあーっ、素敵な場所。景色いいっ。

あっ、カップルばかりだーっ。デートスポットなんだ!

浩史ったら、こんなところ知ってるんだ。隅に置けないね。」


「彼女できたら連れてこようと思った場所なんだけどね・・・

でも、いいところだろ?」


「うん、うん、いいっ。

今日は大サービスして、彼女っぽくするね。

ちょっと、風が強くて、寒いから、腕組んじゃう♡」


腕を組み、胸の膨らみを浩史に押し付けてくる優亜。

浩史はちょっと恥ずかしくなり、


「おいおいっ、馴れ馴れしいな。」


「いいじゃないっ。やだ?」


(可愛いっ。だめだ。こんな顔されたら逆らえない。)


「まっ、いいけど。」


「じゃ、このままで行こ。」


歩きながら、二人の大好きなアニメ関係の話をしていると、

優亜がふともらす。


「私って、完璧に女の子になったと思ってるけど、

オタク趣味については、男の子っぽいところがあるって思ってる。

好きな漫画は少女漫画で、その点は女子らしさはあるんだけど、

男の子向けのアニメや漫画もけっこう好きだから、

男の子と喋っている方が楽しいって感じるときがある・・・。」


「でも、漫画好きの女の子っているだろ?


それから、勤務先のオタク男子と仲良くはしないのか?」



「漫画好きの女の子や、オタク男子はいることはいると思うけど・・・

今、勤務している役所で、漫画・アニメ好きの自分を宣伝するつもりはないんだ。

何か、私のイメージが出来上がっちゃってるみたいで、裏切れない。

漫画好きなんて言うと、今時は、BL好きと思われそうだし・・・。」


「なるほど、確かに、優亜みたいなお洒落な感じの女の子って、

オタクのイメージとはかけ離れているよな。

勤務先でのイメージって確かに大事かも。」


「でしょ?

でも、同じ趣味の人とは仲良くしたいっていう気持ちは強かったんだ。

勤務先とは関係ないところで、同じ趣味の人を探そうって考えてた。


そんなときに、浩史に出会って、

やった〜って思っちゃった。


だからね、

浩史、仲良くしようよ。


浩史に彼女ができるまででいいから・・・


彼女ができたら・・・

・・・その時は、SNSでも通じて、趣味の話で

盛り上がれるネット友達になればいいかな。」



「そこまで考えたんだ?」


「実は、今思いついた。へへっ。」


(可愛いなあ〜。本当に美人だし。人のいないところに連れて行って、キスしちゃおうかな。

それとも、帰りにラブホに寄っちゃおうかな?

体は完全に女性化しているんだから、セックスできるんだよな?)

浩史は瞬間的に思う。


「あ、今なんか良からぬこと考えてなかった?」

優亜が顔を覗き込んできた。


「えっ、何のこと?」


「怪し〜!もしかしたら、エッチなこと考えてなかった?」


「考えないよっ。あらぬ疑いだよ。」


「ふーん、そおっ?

私、元男の子だから、その辺鋭いんだよ。

まあ、浩史にエッチなこと想像されても全然平気だけどね。」


「ど、どういう意味だ?」


「信用してるってこと。」


「喜んでいいのか?」


「うん。」


(それにしても、さっきから視線感じるようなあ。)


二人が歩いている湾岸地帯のデートスポットでは、カップルだらけだで、

他人の動向を気にする人はいないはずだと最初は思ってたのだが、

けっこう、そのカップルたちから、視線を感じた。


(やっぱり、優亜が綺麗だからなんだよなあ〜。

こんな美人と歩いていたら、おれもチェックされるんだろうなあ。

羨ましいと思われているのかなあ?)



しばらく二人は散策した(その間に、スマホでお互いの写真を撮りあったり、

近くにいたカップルに頼まれて、写真を撮ったり、そのお礼で二人一緒の写真を

撮ってもらったりというイベントがあった。)。


そして、ちょっとした小高い丘にあるオシャレなレストランに入り、

食事を取ることにする。


「優亜、妹の楓のことで頼みがある。」


「へえっ、妹さん、楓ちゃんっていうんだ。可愛いなっ。

私でできることならいいよっ。」


「実は楓が優亜に憧れていてさ、仲良くしてほしいんだけど・・・」


「きゃあっ、うれしいっ。

そうなんだ?

もちろんいいよっ。」


「でもさ、優亜を紹介すると、俺との関係聴かれるだろっ。

そこが難しくて。」


「関係は秘密って言えばいいじゃないっ。私はそうできるよ。」


「そういうわけにはいかないよ。

あいつ、しつこいぞ。」


「じゃあ、小説ファンのオフ会で知り合ったとかすればいいじゃない?

実際に、新作の発売日の時に再会したんだから、まんざらうそじゃないでしょ?」


「やや苦しいなっ。

でも、それで行くか?

大好きな小説が一緒なのは本当だし、

あの作家の小説を俺が好きなことを楓は知っているし。」


「うん、それでいこ。

2、3日中に声かけてみる。


今度は私たちの話しよ。今度どこ行く?


声優のイベントで行ってみたいのあるんだけどなあ〜

一緒に行って欲しいなあ〜。」


「声優のイベントか?

うん、ちょっと興味ある。」


二人は、大好きなアニメ系の話で盛り上がっていった。


その後、二人は行きのルートとは違うルートでドライブを楽しみ、帰途についた。

浩史は優亜を自宅まで送って行った。


「ありがとう。こんなところまで送ってくれて。

私、男の人と車でデートして、自宅まで送ってもらうって社会人になってからは初めて。

新車だし、感激。」


「おおげさだなあ。

おれも、可愛い女の子を乗せて、ドライブできるなんて、

すごく幸せだよ。」


「あら、私の正体がわかっていても、可愛い女の子なんて言ってくれるんだ。

無理しなくてもいいよっ。」


「いや、うそじゃない。

昨日君のことがわかったあと、今朝会うまでは、元男ってイメージが強かったけど、

こうやって、長い時間すごしてみて思った。

君は、もう完全に女の子だよ。

もう手術して、7年以上経ってるってことが大きいし、元から女性としてのみだしなみというか、

素養があったんだから。


一緒にいて、ちょっとドキドキしたかな?

うん、これからも友達として仲良くしよう。


今日は楽しかった。ありがとう。」



「そうなの?うれしいっ。

そう言ってくれると、私の正体ばらして良かったと思う。

こちらこそ、ありがとう。

でも・・・、浩史の恋路はじゃましないから、ちゃんと好きな人ができたら、言ってね。

約束よ。」


優亜のことばに、胸がちくっとなる気がした浩史だったが、優亜の覚悟には何も言えないと

思った。

とりあえず、友達になれたことを喜ぶしかないのかなあと頭の中で結論付けた。


車が優亜のアパートに着く。

降りた優亜は、


「じゃっ、楓ちゃんに今度声をかけるからね。

それから、次のデート楽しみにしてるっ♡」とウインクしてきた。


(可愛いっ。デートって言われると恥ずかしいなあ。)

「おおっ、楓のことよろしくっ。

アニメのイベント行くんだよな。詳しいことは、メールと電話で決めよう。

じゃあなっ。」


「うんっ。」


手を振って、アパートに入る優亜に目を見届けて、車を発進。

浩史は、充実した気分で家に車を走らせながら、独り言をつぶやきはじめた。


「学生の時の男友達が今は、超美人。性格いいし、趣味も合う。

でも、恋人にはなれない。結婚もできない。

矛盾だなあ。

でもデートは楽しむ。

矛盾だなあ。

どうしよっ。

本物の女性と恋に落ちたら、あいつとは会わない。

それが、あいつの望むことだし、俺にとっても正しい方針。

でも、何かもやもやする・・・。」


しばらく走り、コンビニの駐車場に車を止めた浩史はスマホを動かす。


スマホには、今日撮影した優亜の写真やデートスポットで他のカップルに頼んで撮った二人のツーショット写真が収納されていた。

二人ともいい笑顔だし、優亜の写真はアイドルかモデルのような可愛い写真だった。


「可愛いなあっ。」


改めてドキドキした気分を味わう浩史だった。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ