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第5話  ドライブ

社会人の恋愛を描くのって、けっこう難しいですね。

ちょっとドキドキしながら書いています。



日曜日、浩史は最寄りのJRの駅の改札口で優亜を待っていた。

地方都市ではあるが、新幹線の駅があり、けっこう立派な駅の中である。

さまざまなショップをとりそろえた駅ビルもあり、この近辺では、

商業の中心地である。


ただし、東京まで、快速で1時間ほどで着いてしまうので、

若い人はよく東京まで買い物に行ってしまう。

それが、この地域の商業関係者の悩みであった。


さて、浩史がなぜ、ここで待っているのかというと・・・


当初は、優亜の自宅まで浩史が迎えに行くという話だった。


でも、優亜は別の方法を後から提案した。


浩史の住む実家は隣の県で、かつ東京寄りである。

電車で浩史の住む市の駅まで優亜が行けば効率的で無駄な時間を使わなくて済む。

そう優亜が主張したのである。


結局、浩史はその意見に従い、自分の地元で優亜を待つことにしたのだった。


東京へは、そこから浩史の車で向かうことにした。


「そろそろ、電車が来る時間だっ。見逃さないようにしないと。」


浩史はそわそわしていた。朝起きてからずっとというか、昨日からだった。


美人というか、可愛いというか、とっても魅力的な女性と会えるという期待感が頭の中を占めていた。

そして、実はその女性が、元同級生の男子だったというとんでもない事実への不安もあった。


とにかく、会わずにはいられない。会っていろんな謎を解き明かしたいと考えていると、

あっという間に時間がたち、けっこう眠れない夜を過ごしてしまった。


「今日はドライブなんだから、眠いなんて言ってられないぞ。」

浩史は、緊張感を持つように自分自身を励ました。


ついに、優亜が指定していた電車が来たようだった。

改札口に向かって多くの人が流れてくる。

浩史は目をこらして、人波をチェックしていたが、見つからない。

「あれっ、いないなあっ。乗り遅れたかな。なら、スマホに連絡あるはず。」

浩史はポケットからスマホを取り出して、メールの着信をチェックしようとする。


その時だった。


「お待たせ〜っ。」可愛い声が耳に入ると同時に、

背中に柔らかい感触を感じた。

後ろから抱きつかれていたのである。


さらに、耳元でささやくように、

「新幹線で来ちゃった。早く着いたから、おどろかそうと思って狙っていたの。

驚いた?」

香水だろうか、すごくいい匂いに浩史は包まれる。


(な、何だっ!可愛すぎるぞっ。反則のサプライズだっ。

まるで、恋人みたいじゃないか!)


浩史は、とにかく冷静になろうと頭を整理し、優亜から体を離し、優亜に向き合う。

優亜は花柄の短いフレアースカートに可愛らしいデザインのジャケット、インナーには白いブラウスという

大人っぽさと少女の雰囲気が混じったようなファッションだった。


(うわーっ。おしゃれだなあっ。本当に美人だし、可愛いっ。)


「驚くよ。まさか新幹線とは!」

浩史は優亜の質問に答えた。


実は、優亜が住むT市と、浩史の住むK市は新幹線で二駅であった。

でも、在来線も走っており、快速もある。

普通は、在来線を使うのが常識である。

40分で着くのでコスパを考えれば、在来線で十分だ。

ただし、急ぐ場合はほんの15分ほどで着くのだから新幹線も貴重であることは確かだ。


「在来線に乗り遅れたのか?」


「ううん、違う。驚かせたかっただけっ。うふっ♡」


「もったいないなあ〜。まっ、いいけどさ。

驚いたから、満足か?」


「うん、満足♪」


「じゃっ、車に乗るぞ。」


「うん♡」


浩史は駅の近くの駐車場に優亜を案内する。


そこに、まだ新しい浩史のスポーティなワゴン車があった。


「わっ、新しい!これ評判の車だよね。フルタイム4WDのスポーツ車だ。

高速安定性いいし、雪道やオフロード強いんだよねっ。」


「おおっ、詳しいなっ。

そうなんだよ。ウインタースポーツに備えて買っちゃったよ。

東京にいる時とちがって、こっちに来れば、車必要だしな。」


「女の子、よく乗せてるの?」


「妹はよく乗せているけど、他人はまだだ。」


「やったー。私、家族以外で、女の子一番乗りっ!」


嬉しそうに助手席に乗り込む、優亜。乗り込む時、ミニスカートの中身が

見えそうになり、

浩史は顔を背ける。


「うふっ、色っぽかった?」


「短いスカート履いているんだから、気をつけろよっ。」


「ふふっ。そうだねっ。乙女の秘密の花園だもんね。26歳で乙女っていうのも

どうかな?」


「自分で自分を突っ込むなよ。」


「よし、行くぞっ。」


浩史も車に乗り込み、ドライブはスタートした。

車内に、優亜のつけている香水の香りが広がり、浩史はなんとなく嬉しかった。


(こんな可愛い女の子を乗せることができるなんて!

でも、ちょっと訳ありだけどなあ。)


車は一般道をしばらく走ったあと、インターチェンジで高速道路に乗る。

東京方面へ快適な高速走行が始まった。


「じゃあ、運転が落ち着いたから、聴くぞ。」


「うん・・・。いいよ。」


「君は、あのっ、聞きにくいけど、


・・・・・・佐藤裕太・・・・・・なんだよな?」


「うん・・・。」


「そっか。

・・・それで、俺の想像だけどさ、俺の妹と同じ役所に2年もきちんと勤めているってことは、

性転換して、戸籍も女性になって、その上で就職しているんだよな?」


「・・・すごいねっ。その想像どおりだよ。」


「俺だっていろいろ考えたよ。だって、ふつうじゃないからさ。」


「そうだ・・・ね。」


「で、わからないんだけど、・・・いつ女になったんだ?」


「・・・高校卒業して、すぐ・・・なんだ。

私、現役のとき、大学受験は2校受けたけど、それは腕試し。一校は合格したけど、

大学には入学しないで、浪人した。親が仕事の関係で名古屋に転居したから、住所は

名古屋になった。


で、浪人はわざとしたの。

性転換手術のために。

大学は女性になってから行こうと考えていたから。


手術のあとは、家庭裁判所に申請して、名前を変えた。

裕太から優亜にね。


それで、1年後にちゃんと大学受験に成功して、女性として大学に入学したんだ。


そして女子大生として4年間すごして、女性として就職。今に至るって感じかな。


それから、20歳になってすぐ戸籍の性別を女性に変更しているよ。」


「ちょっと待てよ。

大学はよく女性としての入学認めたな。」


「大学にはいろいろ根回ししたし、診断書とか、性別変更の予定とか、根拠を固めて交渉したら、

認めてくれた。面接もしたよ。面接したら、これなら、文句ありませんって感じだった。」


「なるほどな。わかる気がする。」


「それにしても、いつ女になろうと思ったんだ。それに、手術までいろいろ準備があったんだろうと思うけど、高校3年の同じクラスの時は、まったく気づかなかったぞ。ちょっと、可愛くて、女の子みたいなやつだなあって思ったけど。」


「ふふっ。可愛いって思ってくれたんだ。


女性になろうと決心したのは、中学生の頃だったかなあ。

その頃から、ジェンダークリニックに通い始めた。

高校2年に高校卒業直後に手術することを決めて、高校3年生のときにホルモン治療を開始したんだ。」


「ということは、同級生だった3年のときに、体は女性化を始めたってことか?」


「体の変化が生じたのは、高校の後半の10月以降だからね。

体が丸くなって、胸も膨らみ始めたんだけど、サラシで抑えたりして、なんとかごまかした。

年明け後はほとんど授業なくなって、

クラスメイトと接する機会が減って助かった。」


「そうか。全然気づかなかったな。

そういえば、高校3年って、文化祭や体育祭を終われば、みんな受験モードだし、年明けたら、クラス全員会う機会もないしなあ。

それにしても、女になりたいって思っていたということは、男が好きだっていうことだろ?

高校のとき、だれが好きだったんだ。」


「それ、聴く?」


「怖いけど、聴くよ。うちのクラスのだれが好きだったんだ?」


「ふふふ。

クラスでは好きな人いなかったな。私、特定の人を好きにならないようにしてたの。

だって、男性の体のままだと中途ハンパなような気がして。

好きな人はもっぱら、外国の映画スターとかにしてた。

そうしてれば、日頃恋愛感情に苦しまないで済むと思ったから。」


「そ、そっか。

ちょっと、安心したような気がする。

変な秘密を知ってしまうようで怖かった。


ところで、今は彼氏いるんだろ?

妹の話だと、地元の愛知県にいるっていう話だけど。」

マスメディアをチェックしていると、性同一性障害の中学生や高校生を支援する動きがあったり、性転換した人が、タレントや水商売ではなく、ごくふつうの事務職や技術職についているケースがあったりすることを発見したりします。

私の小説のヒロインはアイドルなみの美人という設定でちょっと極端ですが、まずまずの美人というレベルなら社会に溶け込んでいる性転換者もいるのではと感じます。


今時は、一生独身で通す方も多いし、個人情報保護の関係で、本人の秘密も保たれる世の中なので、本人さえ黙っていれば、性転換したことを知られずに社会生活を送るヒロインみたいな人が増えてくるのかもしれません。

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