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第4話  兄想いの楓の決心 彼女を見つけてあげないと

富谷 かえではブラコンだった。

とにかく3つ年上のお兄ちゃんが大好き。

兄は小学校から大学まで、ずっとスポーツで活躍していた。

容姿も平均以上。

性格も優しい。


中学くらいの時に、反抗期を迎え、1年ほど疎遠になった時があったが、

それを過ぎると、また兄にベタベタになってしまった。


同じ高校、同じ大学に進学し、兄と同じ道を歩むようになってしまった。

3つ年が離れていたので、中学から、高校までは同じ学校で過ごすことはできなかったが、

大学では一緒になった。兄は浪人し、自分は現役で入学したので1年距離が縮まったのは

嬉しかった。


兄は彼女を欲しがっていたが、

楓は兄に彼女ができて欲しくなかった。


幸いにして、兄は面食いで、かつ優柔不断という性格のせいで、なかなか彼女ができない。

兄の好みはわかっていたので、自分が兄の好みのファッションをするようになってしまった。

それはそれで気に入っている。

今では、兄の好みのお嬢様系清楚系ファッションにはまってしまっているくらいだ。


そして、時々兄に買い物に付き合ってもらったり、自分が兄の買い物に付き合ったりして、

ちょっとデートっぽいことをした。


兄はまったくドキドキしなかったようだが、ファッションは褒めてくれた。

自分はドキドキしっぱなしで、自分が妹に生まれたことをラッキーに思った。


ところが、予想外のことが起こる。兄が就職したあと、自分に彼氏ができてしまったのだ。


同じ大学で同じゼミで、いっしょに行動しているうちに、なんとなくそういう関係になってしまった。

そんなにイケメンではなかったが、誠実で優しいしっかりした男だった。


そして、就職する頃には、早くもプロポーズを受け、2〜3年後には結婚しようといういうことになってしまった。

楓は幸せな気分になったが、やはり気になるのは兄の浩史。


浩史は彼女を作りたがっていた上、早く結婚したがっていた。

子供がほしいとかではなく、人生の伴侶を早く得たいと思っていたのだ。


それなのに、好みと性格のせいで、進展はなく、

楓は適齢期をすぎた娘を心配するように、兄の女性関係を気にすることになった。



自分だけ幸せになってはいけない。これは一肌脱がなければと思った楓に朗報があった。

都合のいいことに、

浩史はこの春、2年間の本社勤務から、自宅から近い隣の県に転勤することになり、

自宅通勤となったのだ。


「これで、おせっかいが焼ける。

おにいちゃんに素敵な女の子を見つけてあげよう!」


とにかく、良さそうな相手を見つけて、兄に紹介しようと張り切ったのだった。


そして、転勤して1ヶ月以上たつ。



「困った・・・。紹介出来る子がいない。どうしようっ!」と一人の時に楓は、悩んでいた。

兄の好みは十分知っていたので、探すだけだったが、身の廻りには全然みつからなかった。


「こうなったら、市役所の窓口に来る市民の方に声をかけちゃおうかしら?

たまに、素敵なお客様がいるんだよねー。

いや、だめだめっ、公私混同だ。」


そんなことを常々考えていた楓に衝撃が走る。

今朝、兄の食事を用意しておしゃべりをしていた時に出た名前、「佐藤優亜」。

彼女は楓の憧れの女性だった。

そういえば、この人がいたと思ってしまった。


「優亜さんかあっ。素敵だなあっ。

今までは、私の憧れの存在で、私自身が仲良くなりたいって思ってたけど、

お兄ちゃんの彼女になってくれたら、最高にいいっ!

彼氏がいるっていう噂はあるけど、本当はわからないしっ。」


佐藤優亜について、楓は情報を頭の中で整理してみることにした。


佐藤優亜は同じT市の市役所で楓の2年先輩にあたる。

大学入学のとき、一年浪人しているようなので、年齢は3才上の26才。兄と同い年だ。

兄と同い年なら話が合うはずである。


出身は愛知県、名古屋の有名大学を卒業している。


歴史マニアで同時にB級グルメが大好きな彼女は、

大学1年の頃から歴史的な遺跡と建造物、全国的なB級グルメがあるT市に魅せられており、

名古屋から何度もT市まで足を運び、T市については、市民より詳しくなっていたらしい。

その結果、生育地とは関係ないのに、地方公務員の試験を突破。

当市の職員となっている。


1年目は楓と同様に1階の市民課に配属された。

ところが、あまりにも美人でしかも性格もよく、仕事もできたため、評判になってしまう。

用もないのに、市民課に来る市民が増えた。

しかも、交際を申し出たり、息子や孫の嫁にならないかという窓口客が多数でることになってしまい、窓口はちょっとしたパニックに状態に陥る。

楓も就職して、すぐ聞かされた伝説である。


市の人事のほうでは、最低でも1年間は所属を変えないつもりであったのだが、騒ぎを懸念し、半年もたたず、所属を10階の観光商業振興課に移し、町おこしや観光商業の活性化を図る仕事をさせることにした。


一般市民の目に触れなくなり、落ち着いたかと思われる優亜の評判だったが、

そうでもなかった。

その美しく可愛い容姿は、男性職員の目の保養になったが、女性職員からも評判になる。

とにかく服の着こなしやセンスが違った。

派手ではないのだが、可愛らしい着こなしと颯爽と歩く姿、抜群のスタイルは女性の目からみても

ちょっと憧れの対象になってしまった。同世代や年の近い先輩だけでなく、かなり年上の女性からも

「まるでモデルさんみたいっ。かっこよくて、可愛いっ。」と言わしめるほどであった。


また、身長は低いのだが、歩き方や立ち居振舞いが優雅で、姿勢もよく、立っているだけ、歩くだけで

絵になった。

彼女が役所内を歩くときは、思わず振り返ってしまう職員が続出してしまうくらいであった。



でも、そういう評判も、仕事における実績があったから、成り立つものであった。

そうでなかったら、ただのファッションにうつつをぬかす、軽い女とみられていたかもしれない。


仕事における実績とは・・・。


彼女は観光商業振興課に配属されたあと、町おこしの具体策や観光振興策で、次々と提案をしていったのである。もちろん、日常的な事務仕事をきちんとこなした上でのことである。

荒唐無稽なものもあったが、若者らしい既成概念にとらわれない新しい発想が上司たちをうならせた。

そして、その中の幾つかが、修正されて採用に至ることになった。

先輩職員たちも、ものおじしないその姿勢をみて、できる女だと認識せざるを得なかった。

もはや、単なる職場の花ではなく、1年目にして欠かすことのできない強力な人材として光を放っていたのである。


そして、彼女は市役所職員として3年目になっていた。


仕事は順調。そして、美しすぎる職員として、役所ではすっかり有名人になっていた。


言いよる男も多数いたが、仕事でも目立つ存在であったため、すぐ尻込みする男も多数。

でも、それを乗り越えてアプローチはあった。


でも変化は訪れる。

3年目の今年、4月の下旬、市役所内では、優亜には地元に彼氏がいるという噂がひろがる。

そして、優亜は突然、メガネを常用するようになった。

しかも髪の毛は下ろすのをやめ、常に束ねるようになった。

また仕事中、ホコリを吸わないようにということでマスク姿が増えた。

相変わらず、清楚系ファッションではあったが、華やかさは以上の理由から控えめになった

(とはいっても新人職員の楓が憧れてしまうオシャレ感は十分あったし、マスクは時々外していたので、楓は美しい顔を見る事が出来た。

しかも、楓は4月の半ばまでの、まさに美人オーラを振りまいていたその姿を頭の中にしっかり焼き付けていたので、表面上の変化があっても、気にしなかった。かえって、これでファンが減れば、近づきやすくなるかもとちょっとうれしかったりした。)



結果、優亜に対する求愛活動はひとまず収束した。


楓が知っている情報は以上である。

あと加えるならば、若い女性にファンがものすごく多いことがわかっている。

美しく可愛く、ファッションセンスがあるし、決して男に媚びないところが受けていた。

また、仕事に悩む女子職員がいると、積極的に関わり、前向きになるよう働きかけて蘇らせる姿もよく

見かけられ、そこも評判になっていた。


でも、彼女と直接会話ができる女子職員は限られていて、彼女の所属部署か、彼女が関わるプロジェクトチームに入っていないと、なかなか接触はできない。

楓は遠くから眺めるのがやっとだった。


「話がしてみたい!」

強く思う楓であった






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