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第21話 プロポーズ

ついにプロポーズです。関係者の想いをいろいろ書いてみました。

「いらっしゃいませ!」

楓と、楓と浩史の両親である玉樹と一恵の3人は、


浩史と優亜が予約していた「風雅」という日本料理店に入る。

浩史と優亜が予約していた時間から30分くらい早い時間だった。


「予約していた篠原です。」

楓が、出迎えた店員に予約者の名前を告げる。


「いらっしゃいませ、篠原さんですね。ご予約のお部屋は浜風はまかぜですね。」


「はい、そうです。」楓は偽名を使っていた。

兄と同じ名字での予約をするわけにいかなかった。

ちなみに偽名といっても、楓の彼氏の名字である。

結婚すれば、楓の名字になるのでまんざら嘘ではない。

楓が自然に使える名字だった。


仲居に案内されながら、

楓は、両親にささやく。

「お兄ちゃんたちは、みさきっていうとなりの座敷にいるはず。私が予約した浜風はその隣なんだ。

二人の話がどういう展開になるかわからないけど、場合によっては乗り込むから。」


父親の玉樹が呆れたようにいう。

「お前の行動力には驚くよ。本当に兄思いだなあ。」


対照的に母親の一恵はニコニコ笑顔で、

「でも、いいじゃない。私、わくわくする。」

と楽しそうだ。



部屋に入り、料理を注文する。3人は早めに食事をこなした。

料理は美味しかったが味わっているような余裕はない。


そして、しばらくたつと、予定通りに隣の部屋「岬」に、

浩史と優亜が入ってきた。

頃合いをみて、

楓とその両親は静かに席を立ち、隣の部屋との仕切りがある襖の近くに並んだ。

浩史と優亜の会話を一言も逃さないという勢いであった。



さて、浩史と優亜は食事の最中はいつも通り、わきあいあいと

アニメの話やスポーツの話をしていたが、

食事を終え、デザートが出されたあと、


(よし、そろそろだな、

怖いけど・・・始めよう。

もう、後には引けない。

浩史は決心し、優亜に声をかけた。



「優亜、実はまじめな話があるんだ。

聞いて欲しい。」


「えっ?何?

(えっ、シリアスな雰囲気。

やだなあ。こういうの苦手。

何だろう。

・・・もしかしたら彼女でもできたのかな?


えーっ、そんなの、やだっ。やだっ!

今日はおしゃれしてきたのに。

まさかもう会えないなんて言わないよね。)」



「あの・・・・これを受け取ってくれ。」



浩史は、小箱を優亜の前に差し出した。


優亜は目を大きく見開き、何が起こったのか一瞬理解できなかったが、

気がついた。


「えっ、まさか?」


浩史が小箱を開けた。まさしく指輪だった。


「俺と結婚してくれ。

いろいろ悩んだけど、俺の相手は君しかいない。

大好きなんだ。」



「ええっ?

ちょっと待って!

そんな・・・いきなり。


だめよっ!


ま、まさか、プロポーズなんて・・・


私なんかにプロポーズしてくれるなんて、そりゃ、

うれしい・・・


(うれしいっ、ものすごくうれしいっ。


本当はすぐオッケーしたい!!


でも、でも・・・

問題があるんだ・・・)



あの・・・前に言ったはず。


私は子供を産むことができない女なんだ。


それに、一生女性ホルモンを外部摂取しなきゃいけないし・・・


長生きできないっていわれているし、問題が山盛りの人間・・・だよ。


冷静に考えて・・・普通の女性と結婚するのが一番だよ。


浩史なら、素敵な女の子と結婚できるよ。


私となんて・・・


たとえ、浩史がいいって言ったって、家族が・・・


・・・私の正体を知ったら、絶対反対するはず・・・


実は楓ちゃんには私の正体教えちゃって、それでも、友達でいてくれてるけど、

結婚とかなると話は違うと思う。


お父さん、お母さんを悲しませちゃだめ。


うれしいけど、結婚は無理・・・だよ。


ごめん・・・」


優亜はうつむいた。

(うれしいことなのに、断らないといけないなんて・・・

つらいっ・・・)




「楓は知っているのか?・・・そうか・・・


家族のことについては、俺も考えた。

でも、なんとか説得する。

どんなに反対されても、君を奥さんにしたいんだ。


君が綺麗だからっていうのもあるけど、性格や趣味、考え方がぴったり合う。

そんな女の子、探したってめったにいないんだ。

このチャンスは神様が与えてくれたものだ。

それを逃したくない・・・」




「だめだよ。


・・・家族は生活の基本だから、両親に反対されるような結婚はだめ。


うーん・・・無理を言わないで。


私は、しょせん・・・にせものの女なの。

ごめん・・・なさいっ。」




「どうしても、だめなのかっ。

俺はあきらめられないよっ。」


優亜も浩史も目は真っ赤だった。

本気で相手のことを考えながらのコミュニケーションだった。


二人は言葉が続かず、


下を向いたまま、黙ってしまう。

沈黙の時間が1分以上続いた。


(諦めきれない!)


(嬉しい!


でも、でも、

絶対ダメ!)


二人は膠着状態にはいってしまった。



そのとき、ガラッと襖があく。



開けたのは浩史の母親の一恵かずえだった。

おっとりしている一恵が毅然とした感じで立っていた。


そこには絶対の存在感があった。


浩史も優亜も、突然のことで心臓が止まりそうなほど、驚いた。

(実は、一恵と一緒にいた、玉樹と楓もその動きには驚いていた。)



「お、おかあさんっ!どうして、ここに。

あっ、おやじと楓!」


「あ、楓ちゃん、おとうさんとおかあさん!」


二人は口をあけて驚く!


一恵が口火を切った。


「優亜さん、あなた勘違いしてる。」


「えっ?」


「私は、優亜さんにお嫁にきてほしい。

他の誰でも嫌っ。

優亜さん、あなたじゃなきゃだめなの。

あなたの、人を思いやる優しさや前向きな姿勢。仕事での活躍ぶり。

浩史をたてる女らしさ。

あなた以上のお嫁さんはいないと思ってる。

それに、本当に可愛いっ。

ぜひウチに来てほしいの。」


「えっ、でも私・・・」


優亜は一恵が自分の正体を知らないからそんなことを言うんだと思い、一挙にカミングアウトしようと

した。


しかし・・・

その声を遮るように一恵が話を続けた。


「ごめんなさい。あなたの生まれたときの性別は楓から聞いています。

夫ももちろん聞いています。

私たち夫婦は確かに驚きましたが、先日あなたに直接会ったあと、もう決めたんです。

家族全員であなたを迎え入れようと。」


「そ、そんなっ!!

知ってるんですか。私の・・・その元の性別を!」



玉樹も続けた。

「優亜さん、今、家内がいったことは本当だ。

私たちは知っているんだ。

元々の性別を知った上で判断したんだ。

私も君を長男の嫁として、迎え入れたい。

君が来てくれたら、絶対素敵な家庭になる。私からもお願いする。

浩史のプロポーズを受けてやってほしい。」


楓も発言した。

「優亜さん、ごめんなさい。私、両親に自分が知ったことを教えちゃった。

だって、だって、どうしても優亜さんに私のお姉さんになってほしかったからっ!

家族全員で、優亜さんのことを望んでいるの。

だから、優亜さんが心配するようなことなんて、全然ないの。


それから子供のことだけど

心配しないで!

優亜さんの分は私が産むって勝手に決めている。

『子供を作る作らないは自由だ。

そんなことはお前に押し付けないっ。』って、親は言っているけど、

私はできるだけ多く作りたいの。

私、4人くらい産んで、そのうち二人は優亜さんにもらってもらいたいと思ってるくらいだよ。


だから、子供のことも気にしないで。」



ぽかんとしていた浩史は、

「楓、そこまで考えたんだ!それにしてもみんな・・・」


そのとき、説明をぽかーんと聞いていた優亜が、急に泣き出した。


もう号泣だった。


顔を覆ってしまった。


「うっ、うっ、みなさん、優しすぎます。そ、そんなの反則です。

私なんかがお嫁さんになっていいはず・・・ないっ。


本物の女の子じゃないのにっ!

そんな、優しさに甘えるなんて、

とてもできません。


とても・・・とても・・・うぐっ、うっ、うっ・・・」


最後はことばにならず、どうしていいかわからなくなっていた。



そのとき、一恵が優亜に近づき、強く抱き寄せた。

有無をも言わせない動きだった。

優亜より大柄な一恵は優亜を自分の胸の中にすっぽり納めてしまった。

優亜は逆らいもせず、泣き続けた。


「泣くなら、泣きなさい。思いっきり。

でもあなたには幸せになる権利がある。

私はあなたにその権利を手放して欲しくないの。

あなたはみんなに愛されている。

そして、あなたの女らしさをみんな褒めているのよ。


もう一回言うね。浩史のプロポーズを受けてほしい。

うちにお嫁さんにきてください。」



「うっ、うっ、本当に、本当に、・・・・


私なんかでいいんですか?うっ。うっ、私なんかで・・・」



「私の娘になってほしいの。お願い。

家族になって・・・ねっ。」


一恵は優亜の耳にささやくように言った。



「うっ、うっ、本当にいいんですか。


う、う、


も、もし・・・


もし・・・もし、私なんかでよければ、


なり・・・ます。


お願いします。


娘にしてくださいっ。


うわーんっ。」


優亜は一恵の胸に顔を埋めたまま、涙を止めることができなかった。


一恵は優亜の頭を何回も撫でて、気を落ち着かせようとした。


父親の玉樹は微笑みながら、しかし涙をうかべながら、


「これで優亜さんも、富谷家の一員だ。

よかったよかった。」とつぶやく。


楓は、

「やったーっ。優亜さんがお姉さんになるなんて、夢見たい。

うれしいっ!!」と今にも飛び上がりそうだった。



そして、主役の一人の浩史は呆然としていた。


「み、みんな、ありがとう。みんなが応援してくれたおかげだ・・・

俺も優亜も絶対に幸せになる。」


なんとか言葉を出すのがやっとの状態だった。


そして、少し時間がたち、目を真っ赤にした優亜は、一恵の胸から顔をおこした。


涙を拭き、正座して、頭を深く下げた。


「おとうさん、おかあさん、浩史、楓さん、

ふつつかな私ですが、よろしくお願いします。

富谷家の嫁として恥ずかしくないように、がんばります。」


声はかすれていたが、一つ一つの言葉には本人の誠意がこもっていた。

玉樹も一恵も満足だった。


「こちらこそ、よろしくお願いします。優亜さん。楽しみにしていますよ。」

一恵も座って答えた。


玉樹も慌てて座った。

「優亜さん、浩史をよろしくな。

いいやつだから、きっと君を一生懸命守ると思う。」


そこで、やっと優亜が笑う。

「はい、任せてください。浩史さんと幸せな家庭をつくります。」


晴れ晴れとした笑顔を見て、楓が思わず優亜に抱きついた。目には涙を浮かべていた。


「優亜さん、よかったーっ。私たち姉妹だ。

これからも仲良くしてくださいねーっ。」


「うん、もちろん。楓ちゃんともう家族だね。」

優亜は泣き出した楓を抱きしめ、背中をさすった。


そして、立ち上がり、浩史の方に向く。

二人は対面する。


「浩史、改めて答えるね。

私、浩史のプロポーズ受ける。お嫁さんになります。

末長くよろしくお願いします。」


「うん。よろしく。

・・・家族の前だとちょっと照れくさいな。

ははっ。」


「そ、そうだねっ。」

優亜の顔は真っ赤に変化して、急にモジモジし始めた。



「さあっ、場所を変えようっ。

みんなで、お茶でも飲もう。」

玉樹が声をかけた。


そして、全員晴れやかな顔で、日本料理店を後にした。




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