第19話 プロポーズに向かって
そろそろ終わりに近づいていきます
優亜はプロポーズをどうするのか?
今日か明日には浩史にプロポーズさせようかなって思っています。
優亜が帰った日の夜、つまり日曜日の夜。
富谷家では楓と楓の両親の3人で打ち合わせが行われた。
「じゃあ、お父さんも、お母さんも、優亜さんをお兄ちゃんのお嫁さんとして認めるって
ことでいいのね。」
「そうだ。あの子が浩史と結婚してくれるなら、最高だと思う。賛成だ。
あんな子、世界中を探してもそんなにいないぞ。
容姿がすぐれているだけでなく、性格も人間としての対応の仕方も
本当にいいっ。
確かに、元男性ってことには驚いたよ!
普通はとんでもないって思うんだろうな。
本人も自分のことは普通ではないと思うから
結婚は難しいと考えて当然だ。
でもなあっ、
俺は、こだわらないぞ。
あと、子供ができないことについては、それはそれで諦める。
あと、楓にもプレッシャーは与えないから。
今は、自由な時代だからね。」
「私も大賛成だからね。
一緒にいて楽しいもん。
あんな子が、浩史の嫁になってくれるなら、本当に素敵だと思う。
それに、楓、あなたとも仲がいいんでしょう?
うちの家族になる女性として、彼女以上の存在は考えられないと思う。」
「お父さん、お母さん、ありがとう!
あとは、お兄ちゃんがいつプロポーズするか確認して、情報提供する。
そして全力でお兄ちゃんをフォローするからね。」
「よし、わかった。」
「うん、浩史を影で支えてね。」
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そして、その日から1ヶ月ほどたった5月。
浩史は東京のとある日本料理店の個室を予約に成功した。
テレビのグルメ番組でも評判になった店であった。
ちょっと都会の隠れ家的なお店で一時は予約が取れなかったのだが、やっとブームが収まり
予約が取りやすくなっていた。
浩史は突然、楓の部屋を訪れ宣言した。
「楓、プロポーズの日時を決めた。
5月の最終週の土曜日の12時に、東京の日本料理店「風雅」というお店の「岬」って個室をとった。
そこで昼食を食べて、優亜にプロポーズする。
指輪ももう買った。
優亜のスケジュールも抑えて、食事に行く約束をした。
彼女はただの食事だと思ってるだろうけど。
あとは成功を祈ってくれ。」
「うん、がんばって!」
浩史は「おう!」と答えると、自分の部屋に戻った。
妹に詳細を伝えることにより、自分を追い詰める戦略のようだった。
(お兄ちゃんったら、本当に細かく教えてくれるんだなあ。
でも、ああやって、細かく宣言しないと、ヘタレだから、実行する自信がないのかも。
さて、おとうさん、おかあさんとフォロー態勢を相談するかなあ。)
楓はすぐ、兄に内緒で
東京の日本料理店「風雅」に電話をかけて、浩史が予約をとったほぼ同時刻に隣の部屋を予約した。
そして、浩史がいない時を見計らって、両親にプロポーズの計画を話す。
「すごいなあっ。浩史がプロポーズする個室の隣の部屋を予約したのか?」
父親の玉樹が驚く。
「個室といっても、ふすま一枚で仕切られているから、耳をすませば隣の会話聞こえるよ。」
「盗み聞きになる…
あんまり趣味よくないぞ。」
「でも、おにいちゃんの一世一代のプロポーズだよ。聞かない手はないと思う。
それに・・・たぶん、絶対、断られると思う。それで、ちょっと気まずくなると思う。
そのあとの対策をたてるため、私たち応援団は現場を知る必要があるんだ。」
「楓の思考はぶっとんでるなーっ。」
そこに母親の一恵が入った。
「いいじゃないっ。面白そう。
浩史と優亜さんが正面からぶつかるところ、聞いてみたい。
私たちがそのあとどうするかは、その状況次第で考えましょう。」
「さすが、お母さん。
物事を前に進めようとする気概は私と同じね。」
「お前らにはまいったなーっ。
わかったよ。3人でプロポーズの現場を確認しよう。
でも、二人の邪魔はしないようにな。」
「もちろん。」と楓。
「そうね。主役は二人だからね。」と一恵。
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いろいろプロポーズの準備を整えた日の週末、
珍しく、浩史はT市の繁華街の裏通りにある洒落たショットバーで、ハイボールを
ちびちび飲んでいた。
ゆっくり自分の気持ちを整理したいと思ったからである。
自分の考え、そして優亜に対する気持ちを、過去を振り返りながら、そして、将来を見据えながら
整理し始めた。
(はーっ、ついにプロポーズか。
妹にも宣言しちゃったし、本人も決めた日に来てくれるし、もうあとには退けないな。
勝算は、・・・・・・ない。
たぶん、断られるだろうな。
でも、それで終わりにはしないつもりだ。
俺ほど、あいつをわかっている男はいないしな。
それにしても、自分の行動が正しいのか未だに悩むけど。
決め手は、あいつが元男性ってことは、関係ないってことだ。
シンプルに考えれば、いい!
俺は、あいつが好きなんだ。
それから法律的にも婚姻に問題はない。
あいつは戸籍が女性だ。
軽い気持ちでプロポーズするんじゃない。
一目ぼれじゃない。
だって、会って、すぐあいつの正体を知ったんだから。
最初っからあいつを好きだったわけじゃない。
1年かけて、あいつの性格やいろんな表情、感情の起伏を知った上であいつしかないと思った。
趣味だって合うし・・・。
一緒にいて楽しい。
確かに、あいつは子供を産むことはできない。
ホルモンを継続的に投与しなければならないから、ハンディを背負っている。
長生きできないかもしれない。
健康でいるのは難しいかもしれない。
でも、俺は気にしない。もう・・・割り切った。
あいつが気にしていることを一緒に背負おう。
自分にとって、最良のパートナーだって考えれば、そのへんは割り切れる。
問題は家族か。
優亜が一番気にしていることだ。
親類はどうにかごまかせるとしても、両親と妹には隠せない。
本当のことを言った上で、結婚を認めてもらえるか?
ふつうだったら、認めてもらえないよなあ。
優亜を大好きな楓も、真実を知ったらどうなるかわからない。
でも、説得しないと・・・
何回でも・・・
両親と優亜が会う機会を設けて、実際に会ってもらうのがいいだろうなあ。
優亜の魅力は実際に会ってもらわないとわからないかも。
その前に、俺のプロポーズを受けてもらわないとだめかあ。
そのあとの話だよなあ。
もし両親が承知しなかったら、勘当かなあ。
うーん、どうだろう?
それにしても・・・・・・
優亜はかわいいっ。
160センチに満たないから、俺から見ればちっちゃくて抱きしめたくなるし、
長い髪の毛、長い睫毛、大きな瞳、
濡れたような唇、細い腰、
適度な大きさの胸とヒップ、
細い足。
俺にも性欲はある。
キスしたいし、
あの胸を触ってみたい!
前に質問した時に
胸にはシリコンは入っていないって
言ってたなあ。
ホルモン投与だけで大きくなったっていう話だった。
どんな感触なんだろう?
ふざけられて、背中に押し付けられたり、
腕を組んだ時に感触はあったけど
やっぱり手の平で感じたい!
そういえば、あいつにも性欲ってあるのかなあ〜。時々色っぽい目で俺を見ることあるけど。男に抱かれたいとか、触られたいっていう気持ちないのかな?
それにしても結婚については
諦められない。
もし俺があきらめたら、他の誰かがさらっていきそうだ。
いまが踏ん張りどころかなあ。
とにかくだ。
気持ちの整理はついた。まっすぐあいつを見て、口説こう。
ダメでもともと。すぐあきらめないことだ。
強烈に拒否されたら、一旦引くことも必要だ。
継続的にアタックする。
でも、ストーカーみたいにはならないようにしないとな。
拒否された時は、一旦友達に戻る流れをつくらないと。
あいつも趣味をおれと一緒に楽しむのは好きだから、そのへんはうまくやれば
絶交ということにはならない。
それが、普通の男女とは違うかも。
よしっ。)
気持ちの整理というか、方針が明確になった浩史はすっきりした。
前だけを見る気持ちになった。
さて、楓である。
彼女も、再度考えていた。
(お兄ちゃんの、気持ちは固まった。
もうアドバイスなんていらないよね。
問題は優亜さん。
たぶん、いつもの調子で、結婚なんかできないって言うだろうなあ。
優亜さんは、理詰めで、性転換した人間の世間の扱いを理解している。
社会はそれほど甘くないってことをよく知っている。
だから・・・難しい。
実は、うちの両親は大歓迎だって、どうやって伝えるかなあ。
その説明をいつするかっていうのが、難しいかも。
場合によっては、プロポーズの現場に乱入?
状況次第かなあ。
慌てないで、後日ゆっくり説明するのがいいかもだけど。
その場の流れかな?)