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第18話 楓の家にお泊まり

楓が両親に、優亜を連れてきなさいと言った日がやってきた。


浩史が旅行で土日月と3日間旅行していて不在の週末である。


楓は土曜日に買い物に付き合ってほしいと優亜を誘い、

北関東最大級の大規模ショッピングモールに来ている。


車は楓が出した。T市に迎えに行って、そのあと高速を使って移動した。


午後3時をすぎ、カフェでくつろぎながら、優亜が楓に質問する。

「一泊旅行の準備をしてって言われたから、してきたけど、

何処で泊まるの?

温泉?海?山?これからの時間だと、そんなに遠くに行けないけど。」


「ごめんなさい。

じゃあ、教えますね。

富谷家でーす。私ンチ。

両親が、ご馳走作って待ってまーす。」



「えっ、楓ちゃんちなの?


わーっ、大変。何も準備してないよーっ。

どうしよう?


それに緊張する。今日の服大丈夫かなあ?」



「全然大丈夫ですよ。

いつもどおり、おしゃれな優亜さんです。


よけいな緊張してもらいたくなかったから、黙ってたんですけど。

やはり緊張しちゃいます?」


「うん、緊張するよおっ。

だって、楓ちゃん、両親に、私のことを素敵とか・・・ハードルの高くしてるでしょ?」


「そ、そうですね。確かに。

それから勤務先のアイドルだって説明してます。」


「うわーっ。どうしよう。

イメージ崩したら、悪いなあ〜。


そ、それに浩史・・・


あっ、そうだ、浩史は今日から3日間、仲間と北海道に旅行に行ってるんだ。


よかったー。」


「兄がいると、ややこしくなるんで、いないときを狙ったんですよ。」


「もう、楓ちゃんたら策略家なんだから・・・


それは、そうとして、今さら拒否できないから、準備しなきゃ。


楓ちゃん、お父さんと、お母さんが好きな食べ物を教えて!」


「両親なら、お酒でいいと思います。


父親は日本酒が好きです。特に銘柄にはこだわらないと思いますよ。

新潟や、青森、宮城のお酒が好きです。

母親はドイツの甘い白ワインが好きです。」


「わかった。それだけ聴けば十分。

じゃ、買い物に行くよっ。」


「あっ、待って、優亜さんっ!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



そして、午後5時過ぎ。


車を走らせ、楓と優亜は富谷家に到着した。



「おとうさん、おかあさん、ただいまーっ!

優亜さん、連れてきたーっ。」


「いらっしゃい。ようこそ。いつも娘がお世話になっています。」

ダンディな楓の父親、玉樹がまず玄関に出迎えに出てきた。


「いらっしゃい。いつも娘から噂を聴いているんですよ。

あらーっ、本当に可愛らしいお嬢さんなのね。」

おっとりした雰囲気の母親、一恵も出迎える。


二人は大柄な夫婦である。玉樹は180センチあり、一恵は165センチあった。

だから、小柄な優亜には驚いてしまった。


とは言っても、自分の娘である楓とほぼ同じ体格である。


元男性というイメージをもっていたので、ちょっと大柄の女性を想像していたのだ。

想像より小柄な優亜に面食らう。

楓より絶対大きいと思っていた。


優亜は160センチに満たないごく普通の女性の体格である。

全然、女性として違和感がない。

娘の楓とならんで、全く不自然さはなかった。


「私こそ、いつも楓さんにはお世話になっています。

本日はお招きいただき、本当にありがとうございます。

つまらないものですけど、召し上がってください。」


優亜は昼間に、ショッピングモールの専門店で入手した知る人ぞ知る有名な東北の地酒を玉樹に、

ドイツのアウスレーゼと呼ばれる甘口のワインを一恵に差し出した。


先ほど楓に、父親が日本酒好きで、母親がドイツワイン好きと聴いて、急遽用意したものであった。


「おーおっ、これは、最近評判になりはじめた青森の名酒じゃないですか?

なかなか手にはいらないんだよね。」玉樹が興奮した声で口走る。


「偶然、一本だけあったんです。

すぐ買ってしまいました。本当に偶然に仕入れたみたいです。」


一恵もうれしそうに言う。

「アウスレーゼねっ。自分で買うときはシュペトレーゼでがまんしちゃったりするんだけど、

やっぱりアウスレーゼはいいなあっ。優亜さん、ありがとうっ。」


とりあえず、つかみはOKかな?と思い、優亜は一安心した。


そして、4人で食卓につく。


一恵が用意したさまざまな料理がテーブルに並ぶ。


会話をしつつ食事が進む。


優亜は、どの料理にも

「わーっ、これ美味しいです。こんな組み合わせのお料理ってあるんですね。

それから、これは、どんな味付けをしているんですか?」

と感激しながら、おいしそうに食べた。


そして、なんでも美味しそうに食べながらも、玉樹に日本酒、一恵にワインを注ぐのを忘れない。


一恵がうれしそうに言う。


「優亜さんって、本当に好き嫌いないのね。

どれも、美味しそうに食べてくれるから、うれしいなあ。」


「きっと食いしん坊なんですよ。

お料理も好きだし、食べること大好きですからね。」


「食は生活の基本だから、いいんじゃない。」


さて、会話はどうように進んだかというと・・・


最初は、優亜がT市に就職した理由、

現在の市役所での仕事のこと、

優亜の実家の場所や家族構成など、

優亜の属性情報についての質問から始まったが、


そのうち、趣味の話になる。


まず、適度にお酒が回ってきた玉樹が、北関東の歴史について話し出した。

優亜がT市やG県の歴史に興味があり、T市に就職したという理由には興味を持ったのである。



玉樹は、自他共に認める歴史オタクだった。

若い女性?が自分の歴史好きに反応してくれるか試してみようと思った。


そして・・・効果は覿面であった。優亜は歴史の話に食いついたのである。


「実は古墳とお城に興味があって、K市の近くにのG市にある古墳に行きたいと思ってたんです!」


高校時代にK市に住んでいた優亜であるが、その頃は古墳に興味がなかったので、行ってなかったのである。


「おおっ、そうですか!

あそこの古墳群はぜひ行くべきだ。

ぜひ案内したいな。

素晴らしいよ。

古代の日本を知るには最適の場所だね。

いやーっ、若い子が古墳に興味を持っているとは、世の中捨てたもんじゃないよな。」


「わーっ、行ってみたい。ぜひ誘ってください。うれしいっ♡

すごく興味あります。」



一恵の方も、負けてなかった。


「優亜さん、どんなお料理が好きなの?」


「私は、地味ですけど、煮物とかが好きなんです。

でも、なかなか微妙な味付けがむずかしくて。

また煮込む料理が好きなんですが、

時間がかかるので、失敗したりします。」


「そうなの?

煮物とか煮込み料理なら、圧力鍋とかレンジを使うと時間の短縮が図れるわよ。

とろ火で長時間煮込むってガス代かかるし、うっかりすると火事になったりするから、

気をつけて。」


「あっ、そうですね。ありがとうございます。

工夫しないとですね。

あと、漬物つくるのも好きなんです。

ちょっと年寄りっぽいけど。」


「私も漬物大好きよっ。

今度、いろいろ教えてあげるから、またウチに来てよ。

楓がいなくてもあなたなら、大歓迎よ。料理を教えてあげるからっ。」


「わっ、うれしいですっ。

ぜひ、いろいろ教えてください。

コツとかいっぱい知りたいことあります。

ネットだけだと限界あります。」


お酒の効果もあったのだろうか?

優亜が会話上手で、相手が興味を持っていることを引き出すのがうまかったのか?

はたまた、偶然に話が合ったのか?

楓の両親は、優亜と話すことに夢中になった。


そして、食事が終わったあと、


優亜が一恵に声をかける。


「あのー、食器洗うのを手伝わせてください。

私、食器洗うの大好きなんです。」


「えっ、お客さんなんだから、そんなのいいわよ。」


「でも、やりたいんです。おねがいします。」


「うーん、わかった。

楓、優亜さんにエプロン貸してあげて。」


「ありがとうございます。」


結局、優亜と桜は台所の片付けをしながら、料理の話や台所の調理道具や調味料などで

話が弾み、優亜が料理の勉強に楓の家にまた来るというのは確実な話になっていった。


「おっ、母さん、優亜さんを家に呼んで料理を教える気満々だな。

俺も、古墳に行く計画を練らないと。」


「お父さんたら・・・」


楓は呆れたような顔になったが、

すごく嬉しかった。

まさか、優亜がここまで両親の心を捉えてしまうとは思いもしなかった。



そして、時間が経過して・・・

夜、楓の両親の寝室では・・・


「一恵、もう俺は決めた。

優亜さんは君がなんといっても、浩史の嫁として認める。

この気持ちは揺るがない。」


「私だって、決めてますよ。

あなたがなんと言おうと、優亜さんは浩史のお嫁さんです。

全力でウチに迎えるつもりです。」


「なら問題は・・・」


「ないわね。」




さらに時間は経過する。


翌朝早くのことだ。


料理の支度をしようと一恵が台所に入ってくると、もう優亜が起きて待っていた。


すっぴんの顔で、髪の毛は無造作にゴムで後ろにまとめている。

すっぴんでも、優亜は可愛い顔をしていた。

どうみても、若くて、可愛い女性の顔だった。

そして、昨夜使ったエプロンをすでに装着している。


ニューハーフの中には、化粧をとると男顔になってしまうケースがあると聞いたことが

ある一恵は、

(この子、本当に可愛いんだ!もともと女の顔なんだ。

素質があったんだ。)

と驚く。

楓からの情報では顔の整形はしていないと聞いていた。



「あら、早いのね。

お客さんだからまだ寝てていいのよ。」


「なんか寝てられなくて。

朝ごはん作るんでしたら、何かお手伝いしたくて。

それから、お料理のお話楽しかったから、また、お料理をしながら、

少しでも教えてもらおうと思ったんです。」

優亜はニコニコしながら申し出た。


その瞬間、一恵はハートを打ち抜かれる。


もう、すでに浩史の嫁となることを認めていた一恵だったが、ここまで嬉しいことを言ってくれると、

意地でも、富谷家に迎えようという気持ちになった。

(この優亜さんっていう子は打算で動いてない。好かれようとして、いろいろ行動したり、話をしている

訳じゃない。天然ないい子で、前向きなんだ。)


一恵はふと、優亜の指を見る。爪はのばしていないし、マニュキアもしていない。

料理が大好きな指だ。

一恵はちょっと深呼吸して、答えた。


「じゃあ、優亜さん。朝ごはんを一緒につくりましょう!

お父さんと楓がびっくりするくらい、今日は素敵な朝ごはんにしましょ。ねっ!」


「はいっ!」



そして、朝食後、楓は優亜を車で駅まで送って行った。

日曜日、優亜はやらなければいけない仕事があり、自宅に早く帰らなければならなかった。


車内で、楓が言う。


「兄がいない間に優亜さんを家に呼んだことは、兄には内緒ですからね。

言わないでください。

優亜さんは兄の友人ですけど、今回は私と両親が勝手にやったことですから。」


「そうなの?

今回、お宅にお邪魔することについては、昨日の午後まで全然知らなかったから、

浩史とは全然話していないけど。

黙ってればいいのね。

(浩史に話すと、いろいろややこしくなるからかな?浩史はいろいろ気にしちゃうからかな。

そういえば、楓ちゃんのご両親は浩史の話は全然しなかったなあ。

変に盛り上がって、息子の嫁になってほしいなんて言われたら困っちゃうよ。)


あっ、私、お父さんとお母さんの前でいっぱいおしゃべりしちゃったけど、

変な女の子と思われなかったかな。

それだけが心配で・・・。

私マイペースだったかも。


それから、浩史の話が出てなかったけど、どうして?」


「心配しなくても大丈夫ですよ。

両親ともに優亜さんとの会話を楽しんだみたいです。


おにいちゃん、いや兄については、優亜さんには話さないようにって私から言っておきました。

優亜さんは、縁談とかの話が苦手だから、兄の話をすると、変な方向に話が進んで、

雰囲気悪くなるかもしれないって私が釘を刺しておいたんです。」


「そうなの?それは助かった。

(ふーっ。それなら納得出来る。

うちの長男なんてどうですか?なんて言われたら対応に困っちゃうもん。

断るの大変だし、

本当のこと言えないし。)」


優亜はまさか楓の両親が全て知っているとは少しも思わなかった。


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