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第17話 それでも優亜さんが好き

優亜が楓にカミングアウトしてから、1週間以上たった。


優亜は何らかの動きがあるかもしれないと思ったが、

楓からは、追加の質問はこなかった。


勤務先の市役所でも楓と会うことはなかった。

正確に言えば、遠くで見かけたが、あえて声はかけなかった。


ちなみに、浩史とは電話でアニメの話で盛り上がったりはしていたが、次のデートの約束はしなかった。

浩史と会う気分ではなかったのだ。

今は忙しくてスケジュール調整ができないと浩史には説明した。

次に会う日については、しばらく経ってから決めようと浩史に提案して、同意をもらった。


そして、楓との電話から10日ほど経った水曜日である。

土砂降りの雨が降っている日だった。

ノー残業デーで、優亜がまっすぐ自分のアパートに帰ってくると、

入り口で、傘をさして立ちつくしている女性を見かける。


「楓ちゃん・・・どうしたのこんな雨の中。」


「優亜さん・・・話に来ました。」


楓は、一泊ができるくらいの荷物をもっていた。

どうも、優亜のところに泊まりにきたようだ。

じっくりと話がしたいという姿だった。


「うん、わかった。濡れちゃうから、私の部屋に一緒に入って。」


「はいっ。」


優亜の部屋に入り、二人とも荷物を降ろしたその直後、


「優亜さんっ!」

楓がいきなり優亜に抱きついてきた。


「か、楓ちゃん、どうしたの?」


「優亜さんっ、私、優亜さんのこと大好きです。

もう、疑いようないです。

1週間以上考えました。

そして、結論が出たんです。


私にとって、優亜さんが大事な人で間違いないってことがわかったんです。」


楓は涙をボロボロ流していた。

そして、優亜の体に回した腕で、優亜をより強く抱きしめた。


「か・・・えで・・ちゃん・・・」


「私、話を聞いて、頭の中が真っ白になりました。

自分にとって、最高の女性である優亜さんの事実はやっぱり衝撃的・・・

でした。


正直言って、騙されていたのかな?って一瞬思いました。


でも、でも、やっぱり優亜さんは素敵な人です。


人格的に尊敬できるし、私の知っているどの女性よりも女性らしい。

そして、

前に一緒に、お風呂はいって、肉体的に完全に素敵な女性だって確認してるし、

戸籍も女性だし、

それに、もう7年以上女性として暮らしているわけだし・・・


やっぱり普通の女性なんです。とっても素敵な・・・女性なんです。


生まれた時の性別なんて、もう関係ないと思っています。


だ、だから、今までどおり、お友達でいてください。

お願いしますっ。うえんっ、うぐっ。」


楓は泣きながら一挙にまくし立てた。

自分の想いを全てぶつける勢いだった。


「それから、兄と付き合ってほしいとか結婚してほしいっていうお願いは

ちょっと控えます。

あきらめたわけではないんですけど・・・

とにかく・・・控えます。」



「そ、そう。

そうしてもらうと助かる。


そ、そうね。今まで通り友達でいてくれるのね。

私のこと普通の女性として扱ってくれるのね。」



「はいっ。もちろんです。」



「ありがとうっ。これからもよろしくっ!」

あやせは、今度は自分の方から楓を強く抱きしめた。


自分のことについて、世間への口止めをしようと一瞬考え、口に出そうとしたが、

(楓ちゃんを信用しよう。私のことをわかっているなら、他人には話さないでしょう。

うん、信じるしかない。)

と考え、口には出さなかった。



その夜、二人は優亜のつくった食事を食べながら、ワインも飲み、

楽しく過ごした。

以前のような関係がすぐ戻った。


(よかった。楓ちゃんに秘密がなくなって、却って楽になったかも。)

優亜は雨降って地固まるという諺を思い出す。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



そして、時は過ぎた。


また春がやってきた。


優亜と浩史が運命的な再開を果たしてから、1年近く経とうとしていた。

    

相変わらず、浩史と優亜の関係は変わらない。


月に1度か2度程度、週末にデートをしていた。

友達以上恋人未満の微妙な関係が続いている。


しかし、現状維持とはいかなかった。

ついに、浩史ががまんできなくなっていたのである。


ある夜、浩史は妹の楓の部屋のドアをノックする。


「どうしたの?お兄ちゃん。」


寝る直前だった楓は、真剣な顔になっている兄に驚いて、質問してしまった。


「あのさ、俺決心したんだ。

その決心が揺るがないように、おまえに打ち明けておこうと思ってさ。」


「うん、何?」

楓は、眠いまぶたのあたりを手でこすった。


「俺、近いうちに優亜にプロポーズする!

もう彼女にプレゼントする指輪を買うこと決めた。


たぶん、1ヶ月〜2ヶ月後くらいにプロポーズする!


プロポーズする段取りというか、日時、場所が決まったら、おまえに報告するよ。

別に一緒に来てほしいわけじゃない。

自分に足枷するために、おまえに宣言しておく。


今まで、あいつに対する気持ちは曖昧だったけど、じっくり考えて、もうあいつしかいないと

思った。


あいつには複雑な事情があって、なかなか難しいんだけど、それでも、チャレンジしてみる。

断られても、何回も何回もプロポーズし続ける。」


楓の眠気は一気に吹き飛んだ。


「お兄ちゃん!

ついにやるんだねっ!!


すごいっ。私、応援するよ!

表立っては応援できないけど、お兄ちゃんの相談にはのるからねっ!」


「おおっ。

それでいいよ。

あいつ、おまえにいろいろ言われると、却って意固地になるところあるから。

でも、俺が折れそうになったら支えてくれ。」


「うん、わかった。」

    

楓は優亜の秘密を知っているが、それを兄には話さないでいた。

秘密を共有していることを兄がわかっても

プロポーズに有利になることはないと思ったからである。


楓は、あることを思いついた。



(よし、こうなったらお父さんと、お母さんを巻き込もう。

優亜さんが一番気にしている家族の立場や考え方について、ちゃんと確認しておかないと。)



そして、違う日の夜、兄の仕事が遅く、

両親と楓の3人で食事をしていた時に楓は行動を起こした。


「おとうさんっ、おかあさんっ、話があるの。

真面目に聞いてくれる?」


「改まって何だ。

彼氏と喧嘩でもしたのか?」

父親の玉樹が優しく問いかけた。


「私の話じゃないの。私の方は順調。

お兄ちゃんの話。」


「あらあら。浩史のこと?もしかして、浩史に好きな女性でもできたの?」

母親の一恵がニコニコして楓の目的を言い当てる。


「おかあさん、鋭い!」


実は、両親は浩史の女性関係は全く知らない。


男の子をもつ家庭にありがちのことだが、

浩史は両親に女性関係を話さない。


もちろん、時々デートしている優亜とのつきあいも全く知らない。


ただし、両親は優亜のことはよく知っている。

楓ルートからである。


楓は就職したときから、憧れの先輩ということで

話しているし、

時々、いっしょに遊びに行っていることを報告しているからだ。



「そうか!

ついに、あいつにも好きな女ができたか?

あいつ、どちらかというと草食系だからなあ。心配してたんだ。

余計なことをいわないようにしてたけど、それはよかった。」


「楓が、浩史の好きな女性のことを話すってことは、楓の知り合い?

浩史本人ではなく、なんで楓から話が出るのかしら?」



「おかあさんって、本当に鋭いなあっ。


じゃあ、話すね。

お兄ちゃんが好きになった女の人って、

私が仲良くしている佐藤優亜さんなの。

お兄ちゃん、プロポーズを決心したんだ。」


「えっ、あの佐藤さんか!

それは、高嶺の花じゃないか?

すごくもてるわりに、誰とも付き合おうとしないんだろう?」


「浩史やるわねー。

そんな素敵な人にアタックするんだ。」


「私は大賛成なんだけど、


実はね・・・優亜さんには秘密があるんだ。

本人が一生結婚したくないっていう理由になる秘密があるの。


実は私、その秘密を知ってる。

その秘密を知った上で、優亜さんにお兄ちゃんのお嫁さんになってほしいと思っているの。」


「そりゃ、いったいどういうことだ?」


「聴かせて、楓。」


「うん、実はね・・・・・・・」


楓は両親に全てを話した。

そして、その上で、二人は愛し合っているという推測を説明した。

自分は二人には結婚してほしいと考えていると打ち明けた。


あまりに意外な話に、声が出なくなる両親だった。


市役所で評判の美人である優亜の秘密は衝撃的だった。

そして、その優亜と息子が高校のとき同級生だったことも初めて知った。


息子はその正体を知った上でプロポーズをしようとしている。


また相手の優亜は、自分の秘密が相手の周囲を傷つけると確信し、

恋愛や結婚を拒否しているという話も

悲壮な覚悟を示すものでショッキングだった。


空気が重くなった。


しばらくの沈黙のあと、父親の玉樹が口を開く。


「楓、優亜さんをウチに連れてきなさい。

浩史がいないとき・・・そうだ、

確か再来週に土日月とあいつ高校のときの仲間と旅行するっていってたよな。

そのときに、優亜さんを連れてきなさい。できればウチに泊まってもらおう。

どんな人かゆっくり見てみたい。話がしてみたい。


元々の性別というのは関係ない。要はどんな人格の人かが大事なんだ。」


母親の一恵が続く。


「あらっ、お父さん、いいこと言うわね。

私もその意見に賛成。

家に連れてらっしゃい。

どんな人か話してみないと、賛成するか反対するか決められない。

確かに普通だったら、ネガティブになるような話しだけど、浩史も楓も気に入っている優亜さんの

実物をみなきゃ、賛成も反対もできない。

うん、なんとか誘ってみて。ねっ。」



頭ごなしに反対されるかと思った楓は、緊張を解いた。

「おとうさん、おかあさん、ありがとうっ。

おにいちゃんがプロポーズするのは来月あたりになると思うから

その前に、家に呼ぶなら、間に合う。


ぜひ、優亜さんという素敵な人をみてほしいっ。」


楓は、両親の懐の深さに驚くとともに深く感謝した。






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