第14話 付き合い復活。ラグビー観戦へ。
翌週、浩史は再びすみれと会いに行く。
約束通りに映画をみるため、いそいそと出かけた。
でも、朝に楓に忠告を受ける。
(楓は浩史にすみれとのデート計画を聞いていた)。
「あのさっ、お兄ちゃん。
有坂さんがどういう人がいるかわかんないけど、
私、嫌な予感がする。
もしかしたら、その人には別に男の人がいるかもしれないっ。
まったく根拠のない話だけど、
心配しすぎかもしれないけど、
ちょっとは気にしてね。」
「ははっ、あんなに真面目そうな女の子が、
彼氏がいるのに別の男とデートなんてしないよ。
でも、他の男に言い寄られているってことはあるかもしれないな。
少しは参考にするよ。」
まさか、浩史は楓の忠告が活きてくるなんて思いもしなかった。
事件は起こった。
映画をみたあと、駐車場に二人で並んで歩いている時だった。
背後から、大きな声で呼びかけられた。
「おい、すみれ!何してるんだ。
きょうは女友達と映画を観るって聞いてたぞ。
そいつ、男じゃねえか。また悪い癖はじまったな。」
思わず、振り返る浩史とすみれだった。
「あんた、すみれとどういう関係だ。」
浩史は声をかけられ、一瞬頭に血が上ったが、
その直後、楓の忠告を思い出した。
冷静になろうと決意し、唾を飲み込んだ。
相手は、乱暴そうないかつい男だったが、
ここは映画館の近くで人もいっぱいいる。
極端な行動はしないと考えた。
そして、冷静に自分とすみれの関係を検証する。
浩史はすみれに交際も申し込んでいなければ、手もつないでいない。
デートを2回しただけだった(飲み会の2次会をいれなければ)。
単に友達と言えるレベルである。
「高校の部活の先輩だ。部活の集まりで会って、話が合って楽しかったから、誘ってみた。
先輩後輩の関係以外何者でもない。」
「ふーん。でも、下心はあったんだろう。こいつとやりたいって気持ちあったんだろう。」
「そう考えるのは勝手だが、俺はこの子に交際を申し込んでいない。ただの先輩後輩だ。
そんな気持ちはない。」
「ふーん。あんた真面目なんだな。
よし、教えてやる。
すみれは、俺の女だ。
あんたみたいな真面目な男が相手にするような女じゃない。
浮気性で、しょうもない女だ。」
そこで、すみれが入ってきた。
「もう、ケンちゃん、そりゃ、言い過ぎだよ。
富谷先輩は真面目な人なんだから、あんまり言わないで。
ちょっと、真面目な人ともデートしたいなって思ったんだよ。
富谷先輩には罪ないから。
富谷先輩、ごめんなさい。ここで私帰る。
ちょっと、遊びが過ぎました。
私の彼氏なの。この人。
じゃっ、失礼します。」
すみれは、ケンちゃんと呼ばれた男の手をつかみ、浩史から離れていった。
口喧嘩する声が聞こえたが、その声は遠ざかっていった。
「うわーっ、俺かっこわりいっ。全然わかんなかった。
楓のいうとおりだった。
真面目な女の子だと思っていたし、彼氏ができないタイプだと確信してた。
もし、交際を申し込んで、了解をもらっていたら大変だった。
っていうか、このあいだ、有坂のアパートに上がり込んで、エッチなことをしてたら、
あの男に殺されていたかもしれない。」
浩史は小さな声で、道行く人に聞こえないように独り言をつぶやいた。
車に戻って、しばらくぼーっとしていた浩史は、スマホを手に取った。
アドレス画面を選び、
「裕太」
と記された画面の電話番号をタップした。
「あいつの声を聴きたい。いますぐっ。」
数回のコールのあと、電話に馴染みのある女性の声が出てきた。
「あら、どうしたの?私に電話してくるなんて。
部活の後輩の女の子とはどうしてるの。
もし、うまくいってたら私に電話しちゃだめよっ。」
「ははっ、うまくいかなかった。
というか、騙されていた。
いや、俺が勘違いしたのか?
後輩には彼氏がいたよ。」
「そ、そうなのっ?
後輩の子、彼氏がいるって最初のうちに言わなかったんだ。」
「おれも、彼氏はいないって勝手に思い込んでいたんだ。
地味で真面目そうな感じだったからさ。
おれのこと好きで、他に誰もいないと勘違いしちゃったんだ。
最初に、フリーかどうかちゃんと聞いとけばよかった。
どうも、性格も見た目と違うみたいだ。
真面目そうな外見だけど、なんか遊び人みたいな印象に変わった。」
「そっか。たまにいるんだよね。
彼氏がいても、ちょっと軽い浮気心でデートしちゃう女の子って。
彼氏がいるかどうか具体的に聞いてこない気の小さいタイプや
なかなか付き合ってくれって言えないタイプの男性って
はまっちゃうことあるかもしれないっ。
聞かれない限りは彼氏居るって言わない子多いよ。
それに、見た目では女子はわかんないよ。」
「そう言われるとそうだよな。
おれがバカだった。
あーあ、本当にバカだった。
ちょっと、落ち込んじゃったよ。
わりいっ。これから、おれと飲んでくれないか。
やけ酒飲みたい。」
「はいはいっ。
じゃあ、車は自宅に置いてきて。
私が、浩史が住む街まで行くよ。
帰りはどうするって?
駅前のビジネスホテルに泊まる。
あのホテルのチェーンの会員になってるから、安く泊まれるし。
明日は日曜だから、たまにはこういう飲み方もいいかな。
えっ、ビジネスホテルの宿泊代持ってくれるの。
じゃあ、お願いしちゃおうかな。
わざわざ、そっちに行くんだし。」
優亜の声はなぜか弾んでた。
そして、数時間後、
二人は、浩史の住む町の駅前の居酒屋で飲み始める。
もちろん先日、バドミントン部やすみれと飲んだ店とは違う店である。
「ありがとう。優亜。
なんか悪いな。
でも、なんか、どうしても飲みたくって。」
「いいよっ。
そのうち、私が、そういう気持ちになる時があるかもしれないから。
それまでの貸しにしてあげる。
浩史は女性に関して、勉強不足だよ。コロって騙されるんだからあ。」
「面目無い。
しばらく恋愛する気がなくなった。
悪いけど、時々おれに付き合ってくれ。
どこか行きたいところあるか?
連れて行ってやる。」
「ほんと?
じゃあ、ラグビー見に行きたい」
「えっ、ラグビー好きなんだ!意外!
俺もラグビーは大好きだよ。
だって、俺が住んでいるK市はラグビーの町じゃないか?」
「私も、かつてはK市民だから、その話は知ってる。
でも、K市にゆかりがあるからっていうわけじゃなくて、
ワールドカップとか見ちゃうと、やっぱりすごいなって思ったの。
男同志が力と力をぶつけ合うっていうところがすごくいいの。
ルールはよくわからないんだけど、ボールをつないで、前へ前へと進むところって
ワクワクしちゃう!
本当は女の子同志で観に行こうと思ったんだけど、
なかなか一緒に観に行ってくれる子がいなくて・・・」
「もしかして、優亜は、ラグビーの選手みたいなムキムキの男が好きなのか?」
「全然違うよっ!
ラグビーは観るのが面白いだけで、ああいうむ筋肉ムキムキの男の人とは付き合いたいとは思わない。
どちらかというと、浩史みたいな細身の男のほうが好みかな。」
(あっ、ちょっと恥ずかしいこと言っちゃった。浩史が意識しないいいんだけど)
優亜が顔が赤くなった。
しかしながら、浩史はそこには反応しなかった。
けっこう鈍い男であった。
「ふうーん。そーか。観るのと付き合うのでは違うんだな。
よし、じゃあ、今度、東京の秩父宮ラグビー場に行こうか?
ビールでも飲みながら観よう!」
「わーっ、嬉しいっ!
行こう行こう!」
二人はラグビーを観に行く計画に夢中になる。
そして、ラグビーだけでなく、二人の共通の趣味であるアニメ関係のイベントや、映画を観に行く
話や、美味しい飲食店に行く話など、次々と計画が出てきて、盛り上がった。
(浩史には気の毒な話だけど、失恋してくれてよかった。
まだまだ、一緒に遊びに行ける。
そのうち、また恋愛して、私とは会えなくなるんだろうけど、
今を楽しもう。
うん、割り切って遊んでもらおう。)
罪悪感をちょっと感じながらも、今を楽しもうとする優亜であった。
一方、浩史も
(あー、優亜に今日会えてよかった。
嫌なことを忘れることができる。
優亜と話していると、すごく楽しいっ。
元男性っていっても、すごく可愛いし、すごく色っぽい。
話していると、すごくウキウキする。
当面は恋愛なんかしなくていい。
優亜と楽しく遊ぼうっ。)
と前向きに考える。
お互いに、この付き合いは恋愛ではなく、友情だと思うようにしていた。