蹴る
長年、勤務した食品会社を定年退職して
既に半年の月日が経つ
3人の子供達も巣立ってゆき
妻と2人、趣味の家庭菜園をしながら
おだやかな老後を送ってる
そんな私たちの生活は
ある日一つの物体によって脅かされた
深夜にクラッシックのCDを聴き
リラックスした気持ちでいた所
突如空が赤くなり
これは、天変地異の前触れか
思ってた矢先
ぴょろろろろー
情けない音を発しながら
謎の未確認飛行物体が
我が家に落下してきた
黄色い煙を浴びながら
隕石と思われる
その物体は我が家の庭に
姿を表した
丹精込めて育ててきた野菜や果物は
隕石のようなもののお陰で
総て枯れ果ててしまった
我が家に何かうらみでもあるのか
サッカーボールのようでもあり
はたまた、ラグビーボールでもあり
よく見ると尿瓶のような
何とも言葉でいい表せられない
その物体を見てると
無性に腹がたってきた
蹴っ飛ばしてやろうか
何故かその物体を見てるうち
蹴りたい衝動にかられてきた
お父さんやめてー
放射線撒き散らしてるかもしれない
自衛隊呼んだほうがいいわよ
泣きわめく妻を振り切り
その物体にめがけ
サッカー選手並のキックを炸裂
パフォーパフォー
キックを炸裂させた瞬間
サッカーボールから
ピンクの煙が撒き散らかされた
妻に降りかかるピンクの煙
思わず言葉を失った
煙に包まれた妻の姿が
何故か若返ってるのである
20年振りにみる妻の姿
思わず感傷に浸りそうになる
なるほど
この煙が何だかしらんが
若返りの成分を含んでるんだな
こうなりゃ、
夫婦でもう一度
人生やり直してやる
蹴って蹴って蹴っ飛ばしまくってるうち
ピンクからムラサキ色の煙に変化した
その煙を浴びた私の体は
いつしか
胎児になったようである