依頼。
病院へ移り、だいぶ時が経過した。
その間に、両親などが見舞いに訪れたりする。
「調子はどうです? 欲しい物はない?」
「何もありませんよ。 それより……。 街の様子はどうですか? 変わりはないですか?」
本当は聞きたかった事は聞けず、敢えて遠回しに質問した。
「戦況悪化して、空爆もあったけど。 皆さん無事ですよ 。 そうそう。 今岡さんのお嬢さん、 教師を目指すみたい。 利発な方だものねぇ。 お嫁に欲しかったわ」
「はは……。 しかし教師ですか。 性に合ってますね」
そうか。自分の目標を決められたのか。
僕は心底安堵した。
自分の事など待たなくていい。どうせ戻れぬのだから。
だったら自分の目標に向かって、進んで欲しい。
「病気さえしなければ、 街に戻れたのに。
人生とは虚しいな」
「父さん。 仕方ありませんよ。 これが僕の人生です」
受け入れるしかない人生なのだ。
ある日、旧友が訪ねて来た。
街の外れで小物などを作って売っている。
生まれつき足が悪く、出征せず今も商売をしていると言う。
「物がなくてね。 大した物は作れないよ。
しかも、 軍用の物を作れとの御達しが来た。 全く……。 ため息しか出ないよな」
「今は無理もない。 所で……。 少し頼まれたい事があるんだが」
僕の命は後僅かであろう。
せめて彼女に何かを遺したい。
無理を承知に旧友に頼み事をした。
柿色の櫛。
あの丘の柿の木を少し切って作って欲しいと。
本来櫛は他の材料を使うが、何せ物がない。
材料を調達して欲しかったが難しい。
それに柿の木は思い出の木だ。
「櫛か。 贈りたい相手がいるのか? いやいや何も聞かない。 よし、 早速作ろう。 だが少しばり時間がかかるが……」
「それは構わない。 恩にきるよ」
彼女に似合う櫛。思い出の柿の木で作った櫛。
先に逝く自分に唯一遺せる物。
想いは永遠にあの丘にある。
しかし、彼女が別の道を進む邪魔だけはしたくなかった。




