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この空から丘を見つめて  作者: 七草せり
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矛盾。

医者に診てもらった僕は、やはり……。と、淡々とした感想を抱いた。


分かっていた事ではないか。

内地に出征と言う時点で、やはり何かしらの問題はあったのだろう。


表向き、問題はないが、あの怪我が尾をひいていた事は周知の沙汰だった。


自分一人様々な思いに振り回されていたのかと、改めて思った。


だからと言って、落ち込む暇などない。この身が果てるまで、国の為に捧げよう。

深刻化する状況。彼女も分かってくれるに違いない。


僅かな奇跡さえも、もう望めない……。




暫くのうちは、身体に負担にならぬ様に働いた。

それでも甘い事など言ってはいられず、教育係として、兵士の教育に専念した。


間違った教育。


今の世において、平和主義こそが間違った思想なのだ。

国の為に己の身を捧げる事こそが、正しい思想。


日に日に弱っていく心と身体に鞭を打ち、僕はこの身を捧げた。



だが、ふと思う彼女の事。

甘い事を言ってしまえば会いたい。今すぐに故郷に帰り、彼女に会いたい。


溢れ、焦がれる思いは抑えられない。

しかし、許される筈もなく眠れぬ夜をただ過ごす。



とある日、僕は手紙を書いた。唯一の楽しみだ。

恋人と呼べる相手ではないかも知れないが、

あの日の約束を思い出し、やはり自分の中では恋人と位置付けようと勝手に決めた。


手紙を書く相手は、家族や恋人と決められている為とは思いたくないし。


厳しい規律の中でさえ、手紙を書く事に心弾む。

しかし……。手紙の内容は酷な物になるだろ。

彼女に現実を叩きつける様であるが、戻らぬ相手を待っていても、彼女の為にはならない。

矛盾している自分の感情が正しい物であるかさえ、分からなくなってきた。


手紙を書く行為は楽しい。しかし、内容は酷な物。

だが真実を伝えなければならない。


矛盾だらけの中、筆を取った。




手紙の中身は支障なく通された。

もちろん上官に中身を読まれるので、余り差し障りない内容にした。


けれど、僕達にとっては、差し障りのある内容になってしまったが。


自分は病に侵されてしまった事、そして故郷に戻れぬと言う事……。 そして病により、病院へと行く事にになったと。


つらいつらい内容だと思う。

安易な約束に縛られて、自分を待つ彼女を思うとやりきれなくなる。


運命とはこれ程までに残酷なのか。

それでも。真実を告げなければならない。


前を向いて歩いて欲しい。

そして不甲斐ない自分を許して欲しい。


この地に来て、変わりゆく自分の気持ちと身体。

僅かな望みを断ち切った。


やはりあの汽車は、後戻りのできぬ列車で、

鳴り響く汽笛は、さよならの汽笛だったのだろう。


逃れられない運命ならば、その運命と共に残された日を生きよう。


浮かぶ彼女の顔。宿る故郷への思い。


過ぎ去り日をこの胸に。




その後、僕は少し離れた病院へと移り、治る筈もない病と闘った。


春の桜の花びらの如く、儚い希望は夢に散る。


一緒に見たかったなぁ。桜……。

丘の上で満点の星も見たかった。


君と二人で。


後の世があるのなら。その時こそは結ばれたい。


不衛生な病院。足りない医者と薬。悪化する

戦況。

情けない自分。


散りゆく友の命。


これ程の地獄があるものなのか。

より一層、何もできない自分が惨めになる。

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