出征。
汽車の中は、出征する者が何人、いや、何十人と乗っていた。
皆、万歳三唱。送り出された者だ。内地、外地と赴く先は違う。
命の保証なく、汽車は目的地までひた走る。
静まる車内、汽笛の音が鳴り響いた。
それは何かの合図の様に聞こえる。
いよいよ覚悟をしろと。
車窓から見慣れた街並みが過ぎて行く。
二度と戻れねやも知れない。
この街並みを目に焼き付け、胸に刻もう。
食い入る様に車外を見つめた。
思えば、何不自由なく育って来た。
次男さんと皆に慕われ。
比較的裕福な家に生まれ、好きな商売もした。
何も思い残す事などない。
けれど、胸に宿るはあの子の事。
曖昧に約束を交わしたけれど、果たして良かったのか。
己の気持ちさえ分からない……。
それ程までにこの先の運命に恐れを抱き始めていた。
汽車に乗り込んだ時とは明らかに違う感情が芽生え始める。
戦地へ赴くとは、そういう事なのか。
程なくして、目的地に到着した。
ぞろぞろと皆降りる。
駅で待つ軍隊の車に乗り、部隊のある基地へ向かった。
基地で検閲を受け、仕事が与えられる。
僕は兵隊の班長に選ばれた。
皆を纏める役目だ。
検閲検査を一緒に受けた者の班長として、上官との連絡係や、様々な仕事をするらしい。
この時は、あの怪我が元で、思わぬ人生を歩むとは考えもしなかった。
部隊での生活は厳しく辛い。
いつ襲撃されるか分からない中、必死に生きた。
「ここでの生活は悲惨と思うな。 外地へ行った者に比べれば楽な物だ」
外地。言わば実戦を行う場所。
簡単に命を落とすだろう。
比べれば確かにこちらの方が危険は少ない。
命は惜しい。だが、日々を暮らす内に歯がゆい気持ちになった。
国の為に仕事をしている。危険も伴う。
しかし、実戦を行う者が怪我をしたりして帰って来る様を見ていたら、虚しくなる。
国の為に戦えない。
「おーい! 早く手当てしてくれ!」
毎日の様に怪我人が運ばれる。
戦争の激しさを目の当たりにした。
南方から戻った者は 「まさに地獄だ。 仲間は殆どやられた。 捕虜になる者もいる」
「よく無事で戻れたな。 相当厳しいのか
?」
「語れる物ではない。 人間のあさましさや、 惨さの塊だ」
外地から帰還した者は、口々にそう言った。
返す言葉もない……。
しかし、こちらも悲惨である。
武器製造やら何やらと、重労働があり、時折爆撃に合う。
そんな中での唯一の拠り所は、彼女を想う事だ。
今頃何をしているのだろうか。
桜はもう散ってしまったのだろうか。
目に浮かぶのは、頬を赤らめ俯く彼女。
出征の時、涙を堪えたあの姿。
忘れはしない。
生きて帰る望みがあるのなら、やはりここで耐えねばならない。
しかし、戦況悪化の事態。国の為にもなりたい。
またもや揺れ動く己の心。
時代さえ違ったら……。
そう思わずにはいられない。
そんな中、胸の痛みをおぼえた。
まさかとは思うが。
念の為医者に診てもらうことにした。




