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この空から丘を見つめて  作者: 七草せり
3/7

出征。

汽車の中は、出征する者が何人、いや、何十人と乗っていた。

皆、万歳三唱。送り出された者だ。内地、外地と赴く先は違う。


命の保証なく、汽車は目的地までひた走る。

静まる車内、汽笛の音が鳴り響いた。

それは何かの合図の様に聞こえる。


いよいよ覚悟をしろと。


車窓から見慣れた街並みが過ぎて行く。

二度と戻れねやも知れない。


この街並みを目に焼き付け、胸に刻もう。

食い入る様に車外を見つめた。


思えば、何不自由なく育って来た。

次男さんと皆に慕われ。

比較的裕福な家に生まれ、好きな商売もした。

何も思い残す事などない。

けれど、胸に宿るはあの子の事。

曖昧に約束を交わしたけれど、果たして良かったのか。

己の気持ちさえ分からない……。


それ程までにこの先の運命に恐れを抱き始めていた。

汽車に乗り込んだ時とは明らかに違う感情が芽生え始める。


戦地へ赴くとは、そういう事なのか。



程なくして、目的地に到着した。

ぞろぞろと皆降りる。

駅で待つ軍隊の車に乗り、部隊のある基地へ向かった。


基地で検閲を受け、仕事が与えられる。

僕は兵隊の班長に選ばれた。

皆を纏める役目だ。

検閲検査を一緒に受けた者の班長として、上官との連絡係や、様々な仕事をするらしい。


この時は、あの怪我が元で、思わぬ人生を歩むとは考えもしなかった。


部隊での生活は厳しく辛い。

いつ襲撃されるか分からない中、必死に生きた。


「ここでの生活は悲惨と思うな。 外地へ行った者に比べれば楽な物だ」


外地。言わば実戦を行う場所。

簡単に命を落とすだろう。

比べれば確かにこちらの方が危険は少ない。


命は惜しい。だが、日々を暮らす内に歯がゆい気持ちになった。


国の為に仕事をしている。危険も伴う。

しかし、実戦を行う者が怪我をしたりして帰って来る様を見ていたら、虚しくなる。


国の為に戦えない。



「おーい! 早く手当てしてくれ!」


毎日の様に怪我人が運ばれる。

戦争の激しさを目の当たりにした。


南方から戻った者は 「まさに地獄だ。 仲間は殆どやられた。 捕虜になる者もいる」


「よく無事で戻れたな。 相当厳しいのか

?」


「語れる物ではない。 人間のあさましさや、 惨さの塊だ」


外地から帰還した者は、口々にそう言った。


返す言葉もない……。


しかし、こちらも悲惨である。

武器製造やら何やらと、重労働があり、時折爆撃に合う。


そんな中での唯一の拠り所は、彼女を想う事だ。

今頃何をしているのだろうか。


桜はもう散ってしまったのだろうか。


目に浮かぶのは、頬を赤らめ俯く彼女。

出征の時、涙を堪えたあの姿。

忘れはしない。


生きて帰る望みがあるのなら、やはりここで耐えねばならない。

しかし、戦況悪化の事態。国の為にもなりたい。

またもや揺れ動く己の心。


時代さえ違ったら……。

そう思わずにはいられない。



そんな中、胸の痛みをおぼえた。

まさかとは思うが。


念の為医者に診てもらうことにした。



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