5.国一番の剣士
それは絵になる光景でした。
儚い金色の王妃と、それに付き従う焦げ色の剣士。いつ垣間見たのだったか、中庭でたたずむ二人の間には割って入られないような空気があって、吐き気がしました。それを見たとき、私は確信したのです。それからどれほどの時が経ったのやら、確信は薄れることはなく、私は二人を見るたびに強い嫌悪を感じるのです。
「‥‥師でしたか」
修練場にて、剣を振っていたのは国一番の剣士でした。そしてそれを見守るこの国の王妃である、母。
「‥‥姫様?なぜここに?
今日の鍛錬はお休みだと聞きましたが」
剣士は剣を納め、虚空を睨んでいた瞳から力を抜き、私に視線を寄越しました。視界の端で母が、息を詰めたのが分かりました。相変わらず、この二人の並びは腹立たしい。私が何を厭っているのか知らないまでも、私が二人の何かを嫌っていることくらい、誰にも感じられるのでしょう。
それでも剣士の私に対する当たりは柔らかく、それにすら苛立ちを覚えます。
「‥‥本を読んでいたら兄君が来たもので。気が削がれてしまったものですから‥‥」
表面上だけにこやかに、私は答えます。
いくら剣士が国一番で、母の騎士として認められているからと言って、そして私の剣の師であるからと言って、私に許すことはできないのです。騎士だと認めることも私にはできない。
「‥‥王子が?明日は立太子の儀ですのに?」
「本当に、兄君にはあきれますね」
軽口のように肩をすくめながら、私はいつものように、剣士の言葉に仕える主の子に対する以上の感情が表れないものか、探っていました。
私は確信しています。彼こそ、私か兄の血のつながった父親であることを。
けれどいつものとおり、証拠はまるで現れず、無駄に苛立っただけでした。
「それはそれとして。
せっかくいらっしゃるのですから、鍛錬に付き合ってはいただけませんか?」
言いながら、私は剣士ではなく母を見つめます。何故なら私の確信はともかく、剣士は母の騎士であることになっているのだから。その行動を決めるのは、剣士ではなく母であるべきです。鍛錬場に王妃がいるというのも問題でしょうが、護衛対象から離れるわけにいかない事情は理解できますし。
腹立たしいことに、現在の国一番の剣士の誉は彼のものです。であるからには、強くなるには彼に師事するのが一番手っ取り早い。それは私だってただの小娘ですから、時に苛立ちをぶつけることもありますが、それでも強くなるのに必要であればどんな手段も取りましょう。
この、私の考え方は他のかたがたには理解し難いらしく、彼に師事すると告げた時の周りのかたがたの驚きはちょいと特筆すべきものでした。特に眉宇をひそめたのは母です。それが、私の心が傷つくとでも思ったせいなのか、情を通わせたものの身を案じるものなのかは知りたくもありませんが。
けれどかたがたの心配など無用のものです。私は、騎士としてのこの男を認めることなどありえませんが、剣士としてならば認めているのですよ。