18.封印は開く?
(――開け)
「宵闇のエンの、名において!」
かたん、と、小さな音がしました。
「え?」
「お?」
「――?!」
ぴたりと、それまで滑らかだった塔の表面にいつの間にか現れた窪みに、鍵板が吸い込まれるようにはまりました。私は手に持っていたつもりだったのですが、気付けば手の中から失われていて、思わずまじまじと己の手を眺めてしまいました。
「まさか、本当に?」
「言い出したのは貴方でしょう」
反射的に兄の言葉に突っ込みを入れますが、その実、私の心中は荒れていました。分からない。分からない。何故。
だって数年前に試した時には何事も起らなかったのに。
やはり鍵板の有無が決め手なのでしょうか?流石に、夜中にこっそりと国境まで出てくることはできても、何せこの国は歩いて一日くらいの広さしかありませんし・王城はこちらの塔の側に偏っているので・子供の脚でもなんとかなるのです、父の部屋から鍵板を持ち出すことは容易ではありません。だから私が試したと言っても、その名をキィにしているのではないかと試すくらいですが、それにしても何事も起らなかったのに。
「んー‥‥でも、特に開いたとかいうわけでもなさそうだ」
「‥‥というか、どこから入るのですか、この塔」
「‥‥さぁ?」
阿呆な会話を交わしながらも、私の眼はじっくりと、吸い込まれた鍵板のあたりを見つめていました。ぴったりと本当にぴったりと、まるで最初からそこにあったのだと言いたげに、鍵板ははまっています。触れてみても凸凹を感じないくらい、ぴったりと。
けれども、変化と言えばそれだけで、塔のぐるりに変わりはありませんでした。
と言っても、塔の向こう側、一の王国の王城の敷地内側には行かれませんので、こちら側の270度程度ですが。壁面に触れても、常と変らずその石造りの塔は、固く冷たくそびえていました。
「‥‥結局、開かなかったってこと?」
「‥‥なのではないでしょうか。
それで、どうするのです?鍵板ははまってしまいましたが」
えぇ本当にもうぴったりと。




