17.封印の塔の下で
それで、どうして結局、こうなっているのでしょうね‥‥
兄は妙な粘り強さを見せました。いまだかつて見たことがないほどの粘りでした。
「どうせ今から返したって持ち出したのなんてばれているし」
「使っても使わなくても疑われるんだし」
「それにどうせ、この鍵板は王家に受け継がれているんだし、誰も試さなかったわけはないし」
「どうせ開かないんだったらそれを確かめるくらいいいだろ?」
云々と。
兄の騎士と二人がかりで止めようと頑張ったのですが、結局折れたのは私たちのほうでした。確かに兄が言う通り、王家に受け継がれているものならば、敷地内‥‥ではなくて領地内のいかにもな封印の塔に試してみないわけがないのです。であれば、まぁ、兄の言う通りなのです。なのですが、阿呆の兄に言われると反論したくなります。最終的にはなんだか面倒臭くなったので折れましたが。兄の騎士は生真面目ですから、私以上に悶々としていましたけれど。
まぁいいでしょう。それで結局、何故私が鍵板を握りしめているのでしょうね。
「だって俺、魔力を込めるの苦手だし」
言い出したのは貴方でしょうに。
別に鍵板による開錠は、それほどの魔力を要しません。ほとんど、『開けよう』と思うだけでよいはずです。それが正しい鍵ならば。あるいは、
「鍵板だけじゃなくてキィワードも必要だったり?」
首を傾げても可愛らしくは‥‥あるのが困ったものです。17の男のくせに。
「そうかもしれませんね。‥‥で、冒険がしたい兄殿下は、それは何だと思うのです?」
「宵闇の、名前だと思う!」
どうせ何の考えもないだろうと皮肉で訊いてみたのに、思いの外元気に答えられてちょっと目を瞬きました。
「‥‥宵闇の?あぁ‥‥」
さてはそれもあって私に渡しましたね?
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気を取り直して、私は握りしめた鍵板を掲げました。
鍵板は、一見して手のひら大の、装飾のない長方形でした。一般的なものよりは大きいですが、まぁ、開ける対象が高い塔であると考えられることから、不思議ではありません。たとえば小さな箱にこの大きさだったら少し驚きますが。
「‥‥一回やって駄目だったら、帰りますよ」
「うん分かってる分かってる」
軽く言う兄を胡乱気に見やり、塔に向き直ります。鍵板を壁面に押し当て、魔力を込めました。
(――開け)
「宵闇のエンの、名において!」




