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宵闇の騎士  作者:
第2部
17/59

16.封印と鍵

 私は満面の笑みを浮かべる兄を目の前に、ため息をつきました。


「‥‥それで、探検と言ってもどうされるのです?」


 封印の塔のあだ名は伊達ではありません。かの王国が滅びてのち、誰ひとりとして王城はおろか塔にも入られたものはないと聞きます。探検と言ってもここ、塔のふもとまで来るのは簡単なことですし、塔には入られないのなら何をする気なのでしょう。


 ところが兄はにやりと笑って見せました。不敵に笑ったつもりでしょうか。


「これ、何だと思う?」


 そして腰の物入れから無造作に取り出したものを見て、思わず頬がひくつきました。


 それは鍵板(かぎばん)と呼ばれる一枚の板でした。


 封印の魔法は、現代でもそれほどすたれずに残っている数少ない魔法のひとつです。もちろん、注入する魔の強さ大きさによって封印の強さ長さは変化しますので、古代ほどの強い永続する封印は今では張ることはできませんが、基本の考えかたについては、途切れず受け継がれているのです。


 封印とは、内部にあるものを外に出さないもの・外部からの侵入を阻むもの・その両方の属性を持つもの、の3つに主に分かれると言われますが、要するに、境界を設定してその内外の行き来を阻むものです。行き来を阻みはしますが、たとえば術者だとか術者が許したものだとか、特別許可を得たもののみに行き来を許すというようなこともできます。そのために設定されるのが、鍵板や、キィワードです。


「‥‥兄殿下。それは、一体どこからちょろまかしていらっしゃったのです‥‥?」


 すたれず残ったものだといっても、魔法を行使するためのあれやこれやは、現代では一般的なものではありません。それはつまり、希少価値があるということです。間違ってもどこかに落ちているようなものではありません。確かに私たちは王族ですから、希少価値の高いものに触れる機会は普通より多いでしょうが、同時に私たちが触れることのできるものはきちんと管理されているものばかりのはずです。


「ちょろまかしてはいないよ。

 父上の部屋から今だけ借りて来ただけで」


「同じことでしょう」


 返すつもりがあるから盗ったことにはならない、と言いたいのかもしれませんが、そういう問題ではありません。


「いいから返していらっしゃってください。鍵なんて使ったら盗んだのと同じことでしょう」


 兄の騎士よ、貴方も見過ごさないで下さいよ、と思い兄の背後に目をやりましたら、今にも倒れそうな顔をしていたので容赦することにしました。知らなかったのなら仕方がないですし。

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