11.中庭にて
結局これも1つの外交なのでしょうか。
いかにもな王子様とお茶をご一緒しながら、私は首を傾げておりました。
場所は中庭です。回廊でかけられた声はかの王子様のものでした。賓客を放っておいてこの国の外交官 たちは何をしているのでしょうね、と思ったものの、お願いしたお茶がすぐさま運ばれてきたことを考えると、この役割は私に期待されていた通りのものなのかもしれません。
つまり、偶然を装った見合い。
とはいえ、私は昨夜父に、このかたが婚約者だと教えられていますし、偶然はかけらも装えていませんが。
「それでは、姫は魔法を使うことができるのですね」
淡く微笑みながらお茶をする姿は、絵に描いたように王子様でした。
「はい。もっとも、大したことはできませんが‥‥」
現在は、過去より魔の力が世界的に弱まってきている、というのが偉い学者のかたがたの研究成果です。物語のような、他人を直接攻撃するような魔法は、過去のものです。今の私にできるのも、せいぜい自分の身体機能を強化する程度のものです。
「というと?」
「一時的に筋力を増したりだとか、遠耳が利くようにしたりだとか、その程度、ですね」
もちろんこんなところで、国外のひとに、できる全てを語ったりはしませんよ。
語ったことが全てではないけれど、同じエンの名を持つとはいえ、現在の私は一の王国の最高の魔法使いの足元にも及びません。魔の力は、時間経過とともに減衰しているというのが大方の主張ですが、それ以外にも急激な減衰がかつてあった、そうです。神話の時代と一の王国の時代、そして一の王国の時代と現在との間には、明らかな急減がある、どこかに封印がなされているのではないか、といった説もあります。封印があるとすれば、それは大陸全土を巻き込んでいるということです。そんなことが、はたして過去にも可能だったのか。それは現在の私たちには想像するしかありません。
「いや、それでもすごいことだと思います。
お恥ずかしながら、私には魔の素養がまったくないそうで」
「それで興味がおありですか?」
「そうですね。憧れます」
そんなものでしょうか。
正直に言いましょう。私は調子に乗っておりました。
「‥‥簡単な呪いを試してみましょうか‥‥?」
「‥‥まじない、ですか?」
「はい。
お互いの心をつなぐまじないです。強く思えば会話もできますが、普段は、強い感情が伝わるくらい、だとか」
伝聞なのは、試したことがないからです。
「‥‥それは、私でもできるのですか?」
「まじないを、かける人間に魔の素養があればよいようです」
会ってまもない他国の人間にこんなことを提案する私も私です。彼という人間について何も知らないのに、下手をすれば自国に不利になるでしょうに。
けれど私は調子に乗っておりました。
それは、出会ったとき、作られた偶然でも、彼が私をエンと呼んでみようとしてくれたから。嬉しかったのです、それは、とても。




